ブラック企業で勤める社畜の俺は限界を迎えるが、突然幼馴染JDに養われることになり、甘やかされ生活が始まった!
第17話 吊り橋効果――恐怖や不安を一緒に体験した人に恋愛感情を持ちやすくなる心理効果のこと。しかし恐怖体験をしていたのは自分だけだったら恥ずかしいったらありゃしない。お願いだから忘れてほしいの。
第17話 吊り橋効果――恐怖や不安を一緒に体験した人に恋愛感情を持ちやすくなる心理効果のこと。しかし恐怖体験をしていたのは自分だけだったら恥ずかしいったらありゃしない。お願いだから忘れてほしいの。
一尺八寸とコミュニケーションアプリで連絡を取る。
話は何だっていい。毎日何があったか、何を食べたか、いつ寝たか。
そんなことばかり連絡し合っていた。
一尺八寸もこちらからの連絡を嫌がることはせず、気分よく返信をしてくれる。
そうしていると、向こうから食事の誘いがあった。
それはわずか一週間以内の話で、俺は軽くガッツポーズを取る。
なんだか、恋愛対象から誘いがあって喜ぶ男の図に見えなくもないが……
まぁいい。
誰かが見ているわけでもないしな。
「直くん……何がそんなに嬉しいのかな?」
「うわっ! 凛! 見てたかよ」
扉の隙間から部屋を覗き込んでいる凛。
俺は慌てて携帯をベッドの上に放り投げ、彼女の方へと駆ける。
「なんでもないよ……それより、映画でも見ないか?」
「映画? 見る見る! 何見る?」
「ああ……俺は何でもいいよ。凛の見たいやつを見よう」
「私が見たいものか……本当に何でもいい?」
「ああ。もちろんだ」
廊下で踊る凛。
俺は笑いながら凛と共にリビングへ向かう。
凛はリモコンを操作して、テレビで動画を再生させる。
その内容は――ホラー映画。
え? こんなの見るの?
って、俺あんまりこういうの得意じゃないんだよな……
「ほらほら。直くんここに座って」
凛に促され、彼女が座るソファに腰をかける。
「!?」
時刻は21時。
外は真っ暗だと言うのに凛は突然電気を消してしまう。
「楽しみだねぇ」
「あ、ああ……」
正直怖い。
怖いけど、風呂上りである凛からはとてつもなくいい香りがする。
シャンプーの香りか、コンディショナーの香りか。
どちらとも判断はできないが、少し頭がポワッとする。
「始めるよ」
「…………」
きゅっと俺の服の掴む凛。
好きだって言っても、凛の奴ちょっと怖いんだな……
映画が始まり、いきなり人が自殺する。
死んだその人間は死霊となり、自分をイジメていた奴らに恨みを晴らすべく夜の町を徘徊し出した。
カメラの隅に映る死霊。
それだけで俺はビクッと身体を震わせる。
「……怖いね、直くん」
「そ、そうかぁ?」
声が裏返った。
凛は俺の腕に手を回しプルプルしている。
……こんなに怖がって。
ここは男の俺が怖がってる場合じゃない。
平然とした態度を見せ、凛を安心させねば。
しかし死霊が人間の遅いかかる場面ではどうしても身体が震える。
やっぱりホラーは得意じゃない。
半泣きで俺は映画観賞。
もう当分ホラーは見ないと心に誓う。
「んぎゃっ!?」
イジメていた人間を見つけた死霊は暴走を始める。
瞬間移動でも使用するかのように、どこからでも現れる死霊。
次々とイジメていた奴らは死んで行く。
その迫力と異様さに縮こまる俺。
凛は相変わら震えているようだった。
男として……とか思うけど、やっぱ無理!
「怖い怖い怖い怖い! ちょっと、この映画怖すぎるんだけど!」
後半はスプラッター祭り。
足が飛び腕が消滅し首が引き千切れる。
死霊の拷問シーンまで現れ、俺はもう失神寸前。
最終的には映画を見ていることができずに、目を閉じて音だけを聞いているような状態。
だが聞こえて来る悲鳴に怯え、俺は耳さえも手で閉じる。
もうやだ! ホラー映画やだ!
お願いだからもう終わってー!
気が付けば凛の腕にしがみ付いているのは俺だった。
震える女子にしがみ付くなんてなんて恰好の悪い。
しかしそんなことを言っているような場合ではない。
もう死活問題なのだ!
俺の魂も、死霊に連れて行かれるんだ!
などと思考が暴走している間に映画は終わってしまう。
俺は恐る恐る凛の方に視線を向ける。
「だ、大丈夫か……? 怖かったな」
「大丈夫じゃない……」
俯き、震える凛。
そんなに怖かったのかよ……
俺は慰めるために、凛の頭を撫でる。
「大丈夫。な、大丈夫」
「大丈夫じゃない……だって直くん、怖がって可愛いんだもん!!」
「……はっ?」
凛はデレデレして俺の顔を見上げる。
その表情は変態さんのそれであった。
涎を垂らし、鼻息が荒くなっている。
「……って、お前! 俺の反応楽しんでただけかよ!?」
「うん。だって直くんがホラー映画ダメなの知ってたもん。昔お兄ちゃんと家で映画見た時も飛び上がって泣いてたもんね」
「……思い出させるな、そんなこと」
こいつ……さっきまで震えてたのは笑いを我慢してただけかよ!
怖がってると思ってたのに……俺の反応を楽しんでたのか。
俺は真っ赤な顔で凛を睨む。
すると凛は変態チックな表情のままでカメラを取り出す。
「それいい! その表情もいいよ、直くん!」
「撮るな! お願いだからこんな顔撮らないでー!
気分はまるで乙女。
裸でも撮られたような、そんな気分。
ああ、恥ずかしい。
「あー、もう直くん最高! 普段はカッコいいけど怖がってる時は可愛いんだもん」
クネクネしながらデレまくる凛。
そんなに楽しんでもらえたのなら嬉しいよ!
ったく。
「くそ……もう寝る。恥ずかしい」
「あはは。ごめんね、直くんの反応楽しんじゃって。これ、お詫びじゃないけど持って行って」
「? なんだよこれ?」
「切り札だよ、切り札」
「切り札ぁ?」
凛から手渡された封筒……
これの何が切り札なんだろうか?
俺は首を傾げながら自室へと足を運ぶ。
「……おい、覗くなよ」
「えー」
カメラを手にして残念がる凛。
着替えまで撮るんじゃないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます