第16話 ストップという間いくらを丼に注いでくれる店がある。楽しいと思う。しかし勝手に盛られるとどうかなとも思う。こちらが求めている分だけ出してもらうのが一番だ。だから食事の量も欲しい分だけ用意して。

「直巳ぃ。今日は凛、張り切って晩御飯作ってたぞ」

「へー。凛って料理の腕前はどうなの?」

「ま、控えめに言って世界最強だな!」


 妹バカに聞いた俺がバカだった。

 そんなのまともな答えが返ってくるわけがない。

 無駄な質問をしてしまったものだ。


 凛の料理が食べられると今まで見たことない程ご機嫌の樹と共に、凛が待っているであろうリビングへと向かう。


 リビングに入ると、樹が感嘆の声を漏らす。

 そして俺はただ呆然とするばかり。


「さ、直くん。遠慮なく食べてね」


 凛が用意した料理はテーブルの上に並べられていた。

 そこには山のように積み上げられた肉。

 バカ盛りのサラダに大皿で作られたグラタン。

 チーズフォンデュも用意されているようで、グツグツ煮えるチーズが端の方に置かれている。

 極めつけにはチョコレートフォンデュ。

 キッチンの手前に、チョコレートの滝が流れている。


「おい……なんだこれ?」

「決まってんじゃないか! 凛の手作り料理だよ!」

「手作りって、作り過ぎだろ! こんな量、誰が食べれるんだよ!」

「えへつ。作り過ぎちゃった!」


 凛は可愛らしいポーズで可愛らしく言う。

 

「ほらほら、冷める前に食べて」

「…………」


 凛に促され俺は席に着く。

 隣に凛が座り、樹が凛の前の席に着く。


「いただきまーす!」


 樹が凄まじい勢いで食事を開始する。

 俺は唖然としながら、目の前に聳え立つ肉を一枚小皿に移す。


 肉はステーキ肉。

 小皿に対して肉が大きすぎる。

 完全にはみ出しているが、ナイフで切って口に放り込む。


「……美味い」

「でしょ? 良かった。直くんの口に合って」


 安堵のため息をついて、本当に嬉しそうにしている凛。


「いや、量はともかく味は美味しいよ。うん。美味い美味い」

「おお! 本当に美味しいぜ、凛!」

「そんな風に言ってくれて嬉しいよ、直くん」

「おーい。お前のお兄ちゃんも美味しいって言ってるぞー。美味しいぞ、凛!」


 樹はバクバク食事を食べて必死にアピールしているが……凛は見向きもしない。

 俺の方を見つめながら、グラタンをつつくのみ。


「なあ、樹の方見てやれよ」

「うん? 今はお兄ちゃんのことなんてどうでもいいよぉ。直くんが喜んでる顔を味わってるんだから」

「…………」

「私が作った物で直くんが喜んでる……こんな幸福なことってある!?」

「大興奮しているところ悪いけど、凛もさっさと食べろよ」


 俺は肉を口に含むも、凛は指を組んで心ここに非ず。


「ああ……私の料理血となり肉となり、栄養源として直くんの活動を手助けするのね……まるで神の支援をしているような気分」

「大袈裟だから! もっと普通に飯食おうぜ! 量ももっと普通にしてさ」

「お兄ちゃんはどれだけあっても食べるぞ、凛」


 樹はフードファイター顔負けの勢いで凛の料理を食べ続けている。

 しかし顔色が悪くなっている……完全にキャパオーバーだろ。


「おい、樹も無理すんなよ」

「直くん、チョコフォンデュでデザート作ってこようか?」

「いや、食事が終わってからでいいから……」

「おお、そうだった。チョコフォンデュもあったんだな! 食後のデザートも楽しみだ!」


 完全に壊れてしまっている樹。

 視点がおかしくなっている。

 バカみたいに飯食って、その上デザートも食べるつもりかよ……

 無理したら動けなくなるぞ。

 動けなくなるぐらいならいいけど、腹パンクさせるなよ。


 俺はほどほどに食事をしながら、一尺八寸のことを思案し始めた。

 彼女は助けを求めているわけではないけれど。

 でも、無性に助けてあげたいと考えている自分がいる。

 それは何故か分からない。

 心がそうしろと言っているような……

 自分の頭じゃなくて、心が判断しているような、そんな気分。


 しかし力になるとしてもどうすればいいのだろうか。

 俺はもうあの会社の人間じゃないから、直接話をしに行くわけには行かない。

 だったら片山さんを呼び出して話を付けるか?

 ……頼まれてもいないのに?


 シャキシャキのサラダをモグモグと咀嚼する。


「なあ凛」

「なあに、直くん?」

「助けを求めていない人を助けるにはどうしたらいいのかな?」

「そうだね……放っておくのが一番だと思うよ」


 ニコニコ笑顔でハッキリとそう言い切る凛。

 あ、一尺八寸のことだって分かってるな……

 これは相談なんかできそうにないな。


「あー……なるほど。放っておいた方がいいんだ」


 適当に相槌を打ち、また一人で思考する。

 しかし、考えても考えても答えは出てこない。

 どうするかな……


「直くん悩み過ぎだってば。人を変えることなんてできないんだから、放っておくしかないの。本当にどうしようも無い時にぐらいしかさ、人を頼れない人だっているんだから」

「……なんだよ。助けの邪魔をしようとしてたんじゃないのか?」

「まさか。私はいつだって直くんの味方だよ。癪ではあるけれど、その女の人のことで直くんにいつまでも悩んでほしくないの」


 そう言って顔をぷいっと逸らす凛。

 そっか……ちゃんとアドバイスしてくれてたんだな。

 ギリギリまで頼れない…… 

 逆に言えば、ギリギリになれば頼ってくる可能性はあるってことか。


 なら、それまでに相手の対処の仕方を考えておくとするか。


 そしてま今すぐに限界を迎えることはないだろうけど……

 でも、一尺八寸に逃げ道を作っておくとしよう。

 そう考え俺は食事に意識を戻すことにした。


「本当に美味しいよ、凛」

「わー嬉しいよぉ。もっと食べてね、直くん」

「お、俺もまだまだ食うぞ……」

「お前はもう止めとけ」

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