第14話 RPGで最初に仲間になる頼れる存在。成長能力とか大したことないんだけど、最序盤は役に立つよね。で、そういう奴が後々敵となって主人公の前に立ちはだかる。心境はそれに似ているような気がする。

「あの人、仕事のミスをするように仕向けて、それでフォローに入ったりしてるのは知ってる?」

「いや、知らない……って、そんなことできるの?」

「数字を予めいじったりして仕事を回してくるのよ。それでこちらはそのまま進めたら……」

「……ミスになる、か」


 だが俺はそこで一つ疑問を感じる。

 そんなことする必要ある?

 そんなことする意味がどこにあるんだろう。


「例えばそれが事実だとして……片山さんになんのメリットがあるわけ?」

「フォローされた女子は、頼りがいがあるって片山さんに感謝して、惚れて……そして痛い目に遭ってるのよ。そんな相談、色々されたからね、私」

「そうか……仕事をミスして弱ってるというのもあるし、そこに付け込まれたら簡単に落ちてしまうってことか」

「そういうこと。それであの人、私にも同じように仕掛けてきたのよ」

「一尺八寸にもか……片山さんだったら、堂々と勝負した方が早そうだけどな。黙っててもモテるんだから」


 ため息をついて一尺八寸は続ける。


「手っ取り早いし後腐れもないから楽なんじゃないかしら? 普通の恋愛だったら面倒でしょ? 遊び人から考えたら」

「そういうものなのか……? 俺にはよくわからないな」

「私がずっと彼を避けてたっていうのもあると思うわ。今回は強硬手段に出て来たのよ」

「強硬手段?」

「ええ……私の良からぬ噂を流して、周りを敵だらけにして……あの人と付き合うまでは、元の状態に戻すつもりはないらしいの」

「……そんな人だったのか、片山さん」


 自分の欲望のために周囲を操作して、一尺八寸を追い詰めて……

 それで彼女は逃げて来たってわけか。

 

 周囲が敵だらけで味方のいない空間。

 誰も頼りにできない孤独な空間。

 癒しが何一つない場所で……一尺八寸はそんな状況で……


 彼女の置かれた環境を考え、涙が込め上げてくる。


「辛かったな……辛かったよな」


 涙を流すようなことはしないが彼女に同情してしまい、悲しみが胸に迫る。

 

「木更津くん……」

「俺に出来ることなんて大したことないかも知れないけど、何もできないかも知れないけど、出来ることがあればなんでも言ってくれ」

「何も出来ないのに、木更津くんに頼むの?」

「出来ないけどやるよ! 出来ないなりに」


 何度か彼女には助けられたことがある。

 だから恩返しではないけれど、彼女の力になってあげたい。

 それにこうやって女性が参っているのを見て、見過ごすようなこともできない。


「って、今まで一尺八寸に世話になった奴らはどうしたんだよ?」

「半信半疑で味方でも敵でもないような状況……噂を鵜呑みにする人も多いからね」

「多いけど! でも一尺八寸は信用するに値する人だ。俺がいたら、絶対信じたってのに」

「今も信じてくれてるもんね」

「当然さ。世界中が一尺八寸を悪者と判断しても、俺はきっと味方する」


 一尺八寸はそれを聞いて一瞬キョトンとし、クスリと笑う。


「大袈裟。それに恋人の肩持つみたいな言い方になってるよ」

「…………」


 冷静になって自分で言ったことが大変恥ずかしいことだと理解する。

 ああ、言い過ぎたな……世界中を敵に回すみたいな、そんなの友人に使うような言葉じゃなかった。


「ま、まぁ……とにかく俺は味方だから」

「ありがとう。私も木更津くんの味方だよ」


 微笑んでそういう一尺八寸は美しかった。

 

 しかし、この問題はどうやって解決すればいいんだろうか。

 会社に乗り込むか?

 そんなことして変な空気になるし、元の自分の地位を考えたら役立たずもいいところだ。

 一尺八寸を連れて逃げる?

 そんなのもう逃避行じゃないか。

 そこまでの関係じゃないよ、俺たちは。

 だったら……


「……だったらさ、仕事辞めれば?」

「え?」

「い、嫌なことからは逃げていいと思うんだよ……そんな状態で仕事なんて続ける必要なんてない。自分の心を消耗してまで、命を懸ける程の会社でもないだろ?」

「そうだけど……いきなりは無理よ」

「俺だっていきなりだったけど辞めることはできた。だから一尺八寸だってその気になれば辞められるはずだ」


 と言っても、全部凛がやってくれたことだし、凛の受け売りだけど。

 でも確かに外から見て思う。

 逃げてもいいんだって。

 特別世話になっているわけでもないし、特別彼女を大事にしてくれているわけでもない。

 そんな会社に残る必要なんてない。

 凛が言った通りだ。

 逃げてもいいって、本当のことなんだ。

 

 ただ自分の立場とか周囲の目を気にして逃げることができない。

 縛られている物を断ち切れるかどうか。

 それが一番の問題だな。

 

 俺は凛に断ち切ってもらって……いや、マジで感謝だな。

 凛がいてくれて良かった。

 彼女の取ってくれた処置に、今更ながら心から感謝する。


「……やっぱり、辞めれないよ。皆に迷惑かかるしさ」

「一尺八寸……」

「……じゃあ、仕事に戻るね」


 悲しそうに笑い、一尺八寸は職場の方へと帰って行ってしまった。


 彼女のために俺は何をしてあげられるのだろう……

 冷めきったコーヒーを口にして、俺は一人悩み続けていた。

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