ブラック企業で勤める社畜の俺は限界を迎えるが、突然幼馴染JDに養われることになり、甘やかされ生活が始まった!
第13話 女性慣れしてない人が女性から優しくされたら簡単に惚れちゃうと思う。その上自分の事が好きだなんて思い込んで、本人にはその気は無いのに勘違いしてしまう。彼女はそうやって惚れられるタイプの女性だ。
第13話 女性慣れしてない人が女性から優しくされたら簡単に惚れちゃうと思う。その上自分の事が好きだなんて思い込んで、本人にはその気は無いのに勘違いしてしまう。彼女はそうやって惚れられるタイプの女性だ。
一尺八寸九生――
年齢は俺と同じで二十五歳。
艶やかな黒髪は肩ぐらいまでの長さ。
整った容姿にプルプルの唇。
目元のほくろが魅力的な美女。
無駄な肉がないスレンダーな身体。
胸は控えめのようだが、男性諸君の人気も高い。
背は少し高めだろうか。
平均的な身長の俺より、少し低いぐらいだ。
そんな一尺八寸は今にも泣きそうなのを我慢していたが、一度振り向きハンカチで目元を拭く。
そしてこちらに向き直り、何でもないような顔を作っていた。
無理矢理作った笑顔。
俺はその笑顔になんとも言えない寂しさを感じていた。
「何かあったのか?」
「何もないわよ。何も……それより、久しぶりね、木更津くん」
「あ、ああ……辞めてもう一ヶ月以上経つもんな」
「いきなりだったね。部署、大変だったんだよ。皆大忙しだったわ」
淡々と話をする一尺八寸。
彼女はよく笑顔でいるが、感情的な人ではない。
いつも冷静でいつも穏やか。
良い人なのは間違いないと思う。
よく同僚から愚痴や相談を聞いているからな……
かく言う俺も、彼女に相談したりしてたっけ。
「……まだ仕事中だよな?」
左腕に付けた腕時計に視線を落とす。
時間は現在昼過ぎ。
普通の会社基準でもまだ仕事中のはずだ。
それがこのブラックとなれば、まだまだ始まったばかりと言ったところか。
「うん。ちょっと外の空気が吸いたくてね……飛び出して来ちゃった」
「そっか……じゃあコーヒーでも飲みに行くか」
「そんな……まだ仕事中だし」
「仕事中に飛び出したのは誰だよ? 大丈夫。お前は有能な人間だから、ちょっとぐらい羽目外したって大した文句言われないよ」
一尺八寸は俺の言葉を聞いて、クスリと笑う。
「なんだか変わった? 木更津くん」
「そう? 変わったのかな……?」
「だってもっと真面目だったでしょ、君」
真面目も大真面目。
それは今も変わらないはず。
だけど凛と接していた所為か、少しばかり普通のルールから逸脱してしまったような気がする。
これが良いことなのか悪いことなのかは分からないけど……
でも、この職場の環境を知っているから言えることもある。
こんな所で働いてたら、いつか身体か心が壊れてしまう。
真面目だったからこの会社から抜け出せなかったし、真面目だから真面目な彼女のことも少しは分る。
きっと壊れるまで頑張ってしまうんだ。
そして壊れた時には全てが終わる。
俺がそうだったから。
だから壊れる前に助けてあげなきゃ……って、俺にそんなことできるわけないか。
でも、少しぐらいの息抜きはさせてあげられると思う。
だって一尺八寸は泣いていたんだ。
普段は気丈で、人の相談ばかり受けている一尺八寸だけど、彼女が誰かに相談するような姿は見たことがない。
きっと色々とため込んでいるんだと思う。
吐き出し方が分からない。
そんなタイプだと俺は感じる。
「ほら。真面目同士でちょっとサボろうぜ」
「サボるって……木更津くんはサボりにならないでしょ」
クスクス笑う一尺八寸。
俺は彼女の腕を引き、歩き出す。
「って、木更津くんは今何やってるの?」
「う……」
「……無職?」
「そうとも言う」
「ふーん」
ジーッと俺を見る一尺八寸。
なんだか視線が痛いな……と思いつつも、彼女を引っ張る手は緩めない。
そのままコーヒーショップに入り、コーヒーを二つ注文する。
店の外にテラス席があり、人通りが多い道を眺められる席に彼女と着く。
「で、何があったんだよ?」
「何もないわよ」
「何もないわけないだろ。別に相談しろとは言わないけどさ、たまには吐き出すのもいいんじゃないか? 一尺八寸はいつだって吐き出させる側なわけだし」
「…………」
「ほら、俺ってもう部外者だし、もう会うこともないかも知れないだろ? だったらちょっとぐらい弱みを見せてもいいんじゃない? 誰かに言いふらすわけでもないし、次の日に気まずいわけでもないだろ」
一尺八寸は俺の目を真っ直ぐに見つめ、そして大きくため息をつく。
その姿がとても綺麗に見え、ドキッとする。
俺は熱々のコーヒーを飲み、それを無理に誤魔化した。
「片山さん……いるでしょ?」
「ああ、片山さんね。いい人だよね、あの人」
部署のエースでモテる男。
俺もずいぶん優しくしてもらったし、尊敬できるいい人だ。
だがしかし、彼の名前を口にした一尺八寸の表情は暗い。
どういうことだろう?
「実は、あの人に言い寄られていてね……」
「へー。付き合わないの?」
「……付き合わないわよ。あんな最低な人」
「最低……?」
一尺八寸の言葉に俺は唖然とする。
最低って……どういうことだ。
あんな素晴らしい人なのに。
尊敬できる最高の人なのに最低ってなにゆえに?
「いい人だろ、片山さんは」
「……あなた、あの人の表面しか見てなかったからそんなことを言えるのよ。あの人は善人からは程遠い人なのよ」
信じられないことを言い出す一尺八寸。
片山さんの笑顔を思い浮かべながら、俺はまだ信じらない思いで唖然としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます