ブラック企業で勤める社畜の俺は限界を迎えるが、突然幼馴染JDに養われることになり、甘やかされ生活が始まった!
第12話 例えば爬虫類を見るだけで震えあがる人っているじゃない? それって理屈じゃなくて、心が否定してるってことだよね。要するにそう言うこと。理屈じゃなくて、見るだけで憎悪感が湧き上がるのです。
第12話 例えば爬虫類を見るだけで震えあがる人っているじゃない? それって理屈じゃなくて、心が否定してるってことだよね。要するにそう言うこと。理屈じゃなくて、見るだけで憎悪感が湧き上がるのです。
凛の家に一人。
一体何をすればいいのだろうか。
家事は一切しなくていいらしい。
全部凛がやってくれるとのこと。
「……暇だ」
何もすることがない。
何もしなくていい。
俺はルーフバルコニーに出て、そこに備えらえている椅子に座って空を見上げる。
天気は快晴。
太陽が元気に活動中。
ポカポカ陽気の中で、ウトウトとする。
まだ午前中だというのに、寝ても文句が言われない。
ああ……罪悪感は拭いきれないけど、天国にでもいる気分だ。
大学を出て三年間。
会社で馬車馬のように働いた日々。
あの三年間が嘘のような穏やかさ。
罪悪感はあれど、驚くほど心は穏やかだ。
これも全部凛のおかげだな。
あいつがいなかったら今頃死んでいたかも知れないし、あいつがいるからこんな贅沢な生活ができている。
感謝しよう。
しかし感謝はするが、バカみたいに俺を甘やかすのはちょっと考えものだけど。
なんであいつはあんなことになってしまったんだろうか。
元々俺に興味無さそうだったのにな。
少し強いぐらいの風を感じながら、俺は将来のことに思考を巡らせる。
今は良くても、ずっと子のままってわけにはいかないよな。
できることなら樹みたいに好きなことをして生きていきたい。
自分の好きなこと……俺の好きなことってなんだろうか。
「うーん……」
眩い太陽を目を細めて見上げる。
学生時代、体操をやっていた。
だけどやっていただけで何かをやり遂げたわけではない。
なんの成績も残しちゃいない。
なんでやっていたのか理由は思い出せないけれど、体操が好きだったわけでもない。
その上勉強が好きってわけでもなかったよな……
自分の好きなことって、全然思いつかないな。
特撮ヒーローが好きだったぐらいで、それ以外は何も思い浮かばない。
結構薄っぺらい生き方してきたんだな、俺って。
自分のこれまでの人生を振り返ると、情けなさが込み上げてくる。
何やってたんだよ、今まで。
好き勝手生きてきたはずなのに、何も無い。
得た物が何も無い。
手の中に、何も残っちゃいない。
あるのは凛と樹という存在ぐらいだ。
そもそも俺は友達が少ない。
唯一の友人、そして親友と呼べる存在は樹だけだ。
そのおまけで凛がいる。
いや、おまけというには豪勢すぎるほどの女性だけど。
俺にあるのは、あの兄妹だけ。
北条兄妹だけだ。
立ち止まって自分を見つめてみるといいことがあるという話を聞いたことがあるが……
中々切ないものだな。
胸が苦しいよ。
俺はため息をつき、出かけることにした。
切なさを感じるも、気分は悪くない。
むしろいいぐらいだ。
家の中にずっといても仕方ないし、散歩でもしよう。
いまだに慣れないエントランスを抜け、マンションの外へ出て振り返る。
「…………」
何回見てもバカでかいよな。
俺、今こんなところに住んでるんだ。
それも最上階。
奇跡だよ、奇跡。
しかしどこを散歩しようかな。
目的が無さ過ぎるのも困りものだな。
そこで俺は心を無にして、適当に歩くことにした。
何も考えないで適当に散策しよう。
今は充電期間。
心のままに行動してみよう。
買い物をする主婦。
走る野良猫。
多くの車が行き来する。
こんな当たり前の景色、ずっと見ていなかったような気がするな。
いや、見ていたはずなのに気が付かなかった。
当たり前に気づかないのが当たり前になっていたんだ。
のんびりした生活をしていると、視界が広がるっていうか……
ずっと視界が狭まっていたんだなってことを思い知る。
それが悪いことではないんだろうけど、でもそれだけ余裕が無かったんだよな。
そりゃ病気みたいになるし、死にかけても仕方ないよな。
俺は苦笑いしながら、そんな当たり前の景色を眺め続ける。
好きなことをやっていたら、こんな風に心にゆとりを持つことができるんだろうか。
凛も樹も、楽しそうに生活してるもんな。
俺もこれからそうありたい。
今の状況を超えた先。
凛の援助を受けなくなった後もこうありたいと願う。
その後も、意識せずに適当に町をぶらついた。
お金はあるけど凛の物。
出来る限り無駄使いはやめておこう。
電車も使わずに、長い時間ぶらぶらしていた。
そこで俺は驚愕する。
習慣って怖い物だなって。
知らず知らずのうちに、前の会社の近くまでやって来てしまっていた。
全然意識してなかったのに、こんな場所に来てしまうものなのか……
もうこの際だから、前の会社を見ておこう。
いくつものビルが立ち並ぶ場所。
俺はその中で、一番小さなビルの前で立ち止まる。
見上げればそこには、俺の働いていた会社があった。
小さなビルの三階と四階部分。
あそこで働いてたんだな、俺。
「…………」
見上げてるだけで嫌な気分になってきた。
やっぱり嫌な記憶しかない会社なんて見る者じゃないな。
俺は踵を返し、その場を立ち去ろうとした。
するとビルの中からこちらに向かって走る女性の姿があった。
いや、こちらに向かってるんじゃない……俺に気づいてないんだ。
「あっ!」
その女性は俺に衝突し、倒れそうになる。
俺は彼女の身体を咄嗟に支えた。
「……木更津くん?」
「あ、
その女性は元同僚の、
そして一尺八寸は――その瞳に涙をため込んでいた。
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