ブラック企業で勤める社畜の俺は限界を迎えるが、突然幼馴染JDに養われることになり、甘やかされ生活が始まった!
第9話 南極と北極ってどちらの方が寒いんだろう? そんなの調べればすぐに分かるんだけど、自分が何故これほどまでに寒気を感じているのか、それを理解するのは難しい。トラウマって怖いもんだね。
第9話 南極と北極ってどちらの方が寒いんだろう? そんなの調べればすぐに分かるんだけど、自分が何故これほどまでに寒気を感じているのか、それを理解するのは難しい。トラウマって怖いもんだね。
一旦俺は自宅に戻った。
時刻は午後二時。
まだ太陽が燦々と輝いている時間だ。
家に帰って来たはいいが、何もすることがない。
急に無職になったらどうすればいいのか……暇を持て余すな。
俺はベッドで横になり、携帯で転職サイトの検索を開始する。
しかし、あの職場を辞められたのは大きいと思う。
あのまま仕事を続けてたら心を消耗し、いつか死んでたはずだから。
と言うか、死ぬ寸前だったな……
携帯を胸に抱き、あの時樹が現れてくれたことに感謝する。
「……結局、凛のおかげなのかな」
「そういうことだ、直巳!」
「って、樹!? 何やってんだよお前」
気が付くと樹が部屋に入って来ており、冷蔵庫から取り出したビーフジャーキーを噛んでいた。
「何って……お前の心配をしに来たんだよ」
「嘘だな。お前、ビーフジャーキー食いに来ただけだろ」
「ははは! ついでだよついで」
「どっちがついでなんだよ?」
樹は床に座り、俺に笑顔を向ける。
凛と似ていて、とびっきりの美青年。
こいつがいるだけで部屋がキラキラ輝いているように思える。
「だけどお前、ビーフジャーキーは用意してくれてたんだな」
「お前がいつ来てもいいようにな」
樹は無類のビーフジャーキー好き。
出会った頃からよくビーフジャーキーを食べていた。
俺の家によく来ていたので、樹のためにビーフジャーキーを用意していたんだけど……そういや、最近は忙しすぎて中々会えなかったな、樹とも。
「そういえばさ、久しぶりだよな、俺たち」
「おお。そうだな。でも、俺は毎日お前のこと見てたし」
「……凛に雇われてか?」
「そういうこと。俺は凛のためならなんでもするぜ!」
そう言って俺にウインクする樹。
そう言えばこいつ、無類のビーフジャーキー好きだけど、凛のことは狂ってるぐらい好きだったよな。
凛のために送り迎えもしてたし、よく代わりに買い物してたし……
しかしそう考えると、こいつ学生の頃から全然変わってないんじゃないのか?
当時は妹のために活動して、今は妹に雇われた活動して……
やっぱり、間に金銭の関係が生じているだけで、何一つ変化して無いじゃないか。
「お前、就職するつもりなのか?」
「ああ。お前だっていつまで凛の雇われなんてやるつもりだ?」
「一生に決まってんだろ。俺は凛のために生まれ、凛のために死んでいくんだからな」
「どこの戦国武将だ、お前は。忠誠心高すぎだろ」
「ははは。それだけ凛が魅力的ってことだな」
それは否定しない。
超美人だし、笑顔が可愛いし……
久々にあった凛はさらに魅力が増してたな。
「ま、これからも俺は凛のために仕事をする。自分がやりたいことだし、あいつのサポートするのも楽しいしな」
「楽しいか……」
楽しい仕事……そんなものもあるんだな。
凛は嫌なことからは逃げていいと言っていた。
じゃあ嫌なことを避け続けたら楽しいことに辿り着けるんだろうか?
そうは思えない。
そうは思えないけれど、俺だってできることなら楽しい仕事につきたいものだ。
樹はいきいきしていて、笑ってばかり。
こんな風に俺も生きたいよ。
「なあ樹」
「なんだ?」
「凛ってさ……何やってるんだよ? 大学生なのにあんなマンションに住んでさ」
「んんん……あいつは何って言ってた?」
「秘密だって」
「じゃあ俺も秘密だ。凛が言わないんだったら俺も言わない」
「なんだよ、教えてくれてもいいだろ?」
「それは凛の口から聞け。可愛い妹の秘密を教えるお兄ちゃんがどこにいるってんだ」
こいつはとことんまで凛想いだよな。
全くブレない奴だ。
ある意味尊敬するよ。
しかし秘密にされれば気になるな……
凛のサポートってことは、何かしらの仕事をしてるってことなんだろうけど。
お兄ちゃんとして妹のサポートしてるってだけの可能性も無くもないけど、あれだけの大きなマンションに住んでるんだからお金は稼いでて当然だろう。
「だけど、どんな仕事するかな……お前みたいに楽しい仕事がやりたいよ」
「やりたくない仕事ならやらなきゃいいだろ。凛に養ってもらったらいいだろ?」
「年下の女の子に養われるッてどうなの?」
「俺もある意味、凛に養われてるようなものかも知れないな。そう考えたら凛の愛を感じるぜ」
どうやら樹には妹に対してはプライドがゼロらしい。
俺もこれだけ開き直れる性格なら良かったよ。
「ま、それなりに頑張ってみるよ。凛に迷惑をかけるわけにはいかないしな」
「お前がそう言うならそれでいいけど。無理だけはするなよ」
ビーフジャーキーを噛みながら、樹は言った。
その後俺は就職をしようといくつかの会社に連絡を入れたのだが……
予想外のことが起きてしまった。
それはフラッシュバックというか、無意識とはいえ自殺をしようとしまうほどに追い詰められたこと思い出してか、面接前に身体が硬直し震え出す。
まともに面接にさえも行けない。
仕事するのが怖くなっている。
また……あそこまで俺は追い詰められることになるのだろうか?
そう考えるとより一層震えが止まらず、動けなくなってしまう。
凛の優しさが暖かかったからか、余計に仕事へと寒気を思い出させる。
あれ? 俺、就職できないかも。
そんな絶望感を、家の中で一人寂しく感じていた。
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