ブラック企業で勤める社畜の俺は限界を迎えるが、突然幼馴染JDに養われることになり、甘やかされ生活が始まった!
第5話 目覚めるとそこはまるで近未来。こんなに質のいい睡眠は人生で初めてではないだろうか?
第5話 目覚めるとそこはまるで近未来。こんなに質のいい睡眠は人生で初めてではないだろうか?
目を覚ますと、俺は驚くほど寝心地のいいベッドで眠っていた。
どうやらウォーターベッドと呼ばれる物らしく、頭の部分が英語の『C』のような形になっている機械チックな造り。
まるで近未来にでもやって来た気分だ。
水のせせらぎの音がする。
壁を見ると、なんとそこには滝が流れているではないか。
俺は仰天し、ポカンとしたまま滝を眺めていた。
「おはよう、直くん」
「あ……おはよう、凛」
凛は寝巻姿で登場した。
ピンク色のその恰好は大変可愛らしく、そしてよく似合っていた。
「え……どういう状況、これ?」
「気に入ってくれた? 直くんがしっかり睡眠を取れるよう、身体に負担が少なく、深い眠りにつけるウォーターベッド。マイナスイオンのために設置した滝。それにラベンダーのアロマを焚いておいたよ」
「いや……確かによく眠れたけれど」
「きゃー! そう言ってもらえて嬉しいよぉ! 凛、直くんに質の高い眠りを提供できたんだね! 直くんのために用意した部屋、無駄にならなくて良かった」
「…………」
両手で頬に触れ、嬉しそうに頭を振っている凛。
え、何か様子が変なんですけど……
こんな子だったっけ、凛って。
「……あ! よく寝れたのはいいけど、もう昼過ぎじゃないか!」
ベッドには携帯の充電器が設置されており、俺の携帯はそれで充電されていた。
時計を見ると十二時を回っているようだ。
俺は慌てて飛び上がり、スーツに着替えようとする。
と言うか、俺もパジャマに着替えてるし!
「あ、直くんにはシルクの寝巻を着てもらってるからね。寝心地良かったでしょ?」
「いや、そんなことよりスーツ――」
「直くん。お仕事にはいかなくてもいいんだよ」
「いいんだよって……俺には仕事が」
「だからその仕事に行かなくていいんだってば」
凛はニッコリ笑いながらそう言う。
いや、行かなくていいわけにはいかないでしょ。
だって俺は社会人で会社の社員なわけで……
「大丈夫だよ。もう退職済みだから」
「……は?」
「だから、もう仕事は退職したから行かなくていいの」
「退職したって……そんな簡単に辞めれるわけないじゃないか」
「んふふ。それは思い込み。仕事ってとーっても簡単に辞められるんだよ」
にわかには信じがたい話であった。
あれだけ苦労して胃を痛くして絶望しかなかった職場を一瞬で辞めることができた?
「退職代行って知ってる?」
「た、退職代行……?」
「うん。退職代行。直くんの代わりに退職の処理をしてくれるサービスのことだよ。その退職代行に依頼しておいたから、もう話は済んだの」
「…………」
いや、その退職代行の話が本当だったとしても、うちの職場は二か月前から話を通しておかなければいけないはずだ。
そもそもほとんどの人がその二ヶ月で辞めることができない。
なんだかんだと引き伸ばされて、辞めるのに最低半年ほど期間が必要なはずだ。
凛は唖然としている俺を見て、にこやかに説明を続ける。
「職場でどのようなルールがあったとしても、法律では二週間前に退職の意思を伝えておけば辞められるの。民法627条だね」
「二週間……そうだったとしても、まだ二週間はあるはずだろ?」
「でも直くん、有給みっちり残ってたでしょ? それを使って二週間まるまる休みにして、実質即日退職になったのよ」
有給は会社に入社してからの三年間、一度たりとも使ったことはない。
と言うか使用することを許されはいなかった。
その有給を使用して、二週間分の穴埋めにして、即日退職……そんなことが可能なのか?
だけど凛がそう言うのだから真実なのだろう。
だって彼女は嘘をつかないのだから。
昔から嘘をついたことがない。
真実しか口にしない凛だから、それは全て本当なのだ。
「なんだか信じられない気分だ……本当に解放されたんだな」
凛は俺が座るベッドの横に腰をかけ、俺の手を取った。
彼女の甘い香りと手の柔らかさにドキッとする。
「人間って、おかしな状況の中にいてもそれが当たり前だと思うと中々抜け出せないものなの。直くんはブラックの職場に勤めていて、そこで異常なほど仕事をするのが当然だと思っていた。そして抜け出せるわけがないとも思っていたはず」
「ああ……確かにそうだ」
「でも違うの。嫌なら辞めてもいいの。辛かったら逃げてもいいんだよ。自分を大事にするのが一番大事なんだからね」
「…………」
自分を大事にする。
今までそうしろなんて誰にも言われたことがなかった。
だけど凛はそう言うが、なんとなく罪悪感を覚えてしまう。
本当にいいのだろうか。
自分を大事にするってことは、誰かに迷惑をかけてるってことじゃないのか?
俺は募る不安を感じながら、凛の穏やかな表所をジッと見つめる。
「いいのかな……自分を大事にして」
「大事にしていいんだよ。会社に行ってたって、誰も直くんのことを大事にしてくれなかったでしょ? そんな環境がおかしかったってことに気が付かないと。本当にいい会社って、社員を大事にするものだよ」
「……そんなものなのか」
「うん。そんなもんだよ」
すると凛はパシャリと俺の写真を携帯で撮り、ニヤニヤと笑い出した。
「え、何?」
「んふふ……直くんの不安顔いただきました。これもこれでありだなぁ」
こころなしか、少し涎を垂らしているように見える凛。
え? なんかちょっと怖いんだけど……その写真どうするつもりだ!?
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