最終話 エピローグ

二千百二十年十一月某日。

都内某所。


「そろそろだよな、ユイ。」

拓哉によく似た、それでいて陽キャなオーラを醸している少年が、隣にいる少女に話しかけた。


「正確な時間はわからないからなぁ。日付と場所は間違いないよ。」

ユイと呼ばれた少女が返事をした。

こちらも若干雰囲気が違うが、光と瓜二つな見た目をしている。


「おっけー。楽しみだな。」

「本番はだよ?これはあくまでついでなの、忘れないでねタクミ君。」

「わかってるよ。でも、が見れるんだぞ?」

タクミと呼ばれた少年は興奮気味に答えた。


「わかってるよ。私も楽しみなのは楽しみだよ。」

少女もニコッと笑った。


――

数時間後。

時刻は既に夕方になっていた。


「昼間って話だったよな?」

タクミがユイに問いかける。

「うん。・・・来なかったね。」

ユイもそれに答える。


「何か間違ってたか?」

「ううん。メモの通りだよ。絶対間違ってない。」

「じゃあなんで!?」

「・・・わかんない。」


「そもそも、曾祖母ひいばあちゃんの更に前の頃のメモだろ?」

タクミは怪訝そうな目でユイを見た。

「うん。私の高祖母ひいひいばあちゃんからの言伝だって聞いてるよ。」

ユイも自信なさげに答える。


「写真だとユイそっくりだし、見逃してるは無いよなぁ。」

タクミは一枚の古い写真を眺めながら言った。

「うん、私でもわかると思う。」

ユイも不思議そうに首を傾げていた。


「あ、もしかして、お前の高祖母ひいひいばあちゃんって、お前に似て何か大事なこと隠してるとか?」

「人聞き悪いよ。私は言う必要のないことを言わないだけだもん。」

「だよなぁ。それにこの写真の人、お前とずいぶん性格が違いそうだし。」


タクミが手に持った写真には、桜の木の下で満面の笑みを浮かべる光が映っていた。

周りは友人たちに囲まれ、とても幸せそうに見える。

非常に明るく、活発だったであろうことが写真からもわかる。


「じゃあ一体どういう事なんだ?」

タクミは額に手を当て悩みこんだ。


「とりあえず明日わかるんじゃない?どうせ結城さんの家に行くんだし。」

ユイの方はこれと言って気にしていない様子だ。


「まぁそうなんだけど・・・。」


――

翌日。

都内某所。


「マンション、合ってるよな?」

タクミがユイに質問する。

「うん、住所もマンションの名前も合ってる。」

ユイはメモを確認しながら答えた。


「じゃあ、これ・・・。どういう事?」

タクミは、指定された部屋番号の郵便受けに書かれた苗字を指さしながら、ユイに訊ねた。

そこにあった名前は『結城』では無かった。


「さあ?考えてもわからないし、呼び出してみよっか。」

そう言ってユイはエントランスのインターホンで部屋番号を入力した。


「――はい。」

数秒後、インターホンのマイクから返答があった。

恐らくカメラで見られていることだろう。


「あの、こちらのお宅に結城光さんはいらっしゃいますか?」

ユイが臆する様子も無く、普通に質問をした。

タクミはというと、後ろではらはらしていた。


「いえ・・・。うちは菅原ですけど?どちらかとお間違えではないですか?」

声の主はそう答えた。


「え!?」

タクミが後ろで驚いている。


「・・・。あの、このマンションに結城さんってお宅はありませんか?」

ユイが続けて質問をする。

「さあ・・・。他の部屋はわからないです。」

「・・・。ありがとうございました。」

ユイがそう言うと、通話が途切れた。


タクミとユイは改めて郵便受けに書かれている苗字を確認していた。

さっきも確認した。


「無くね?」


何度見てもこのマンションには『結城』という苗字は無い。

いや、正確には無いとは限らない。

何故なら・・・


「名札、貼ってない部屋もあるよ。そこはどうだろ?」

そう言うと、ユイは手当たり次第にインターホンに入力し始めた。


――


「・・・いなかったな。」

「うん。」

暗い表情のタクミと、特段変わりなく涼しい顔をしているユイ。


「まぁそういう事もあるよ。気にしたらダメだよ、タクミ君。」

そう言うとユイはニコッと笑った。

その様は光の生き写しの様だ。


「そんなこと言ったってさ。ご先祖様のお願いを達成できなかったんだぞ?それに、結城光さんがいないってことは、ってことじゃないのか!?」

タクミは必死の形相でユイに訴えかけた。


「どうかな?少なくとも私はピンピンしてるよ。」

そんなタクミに、ユイは優しく微笑んだ。


――

帰阪するリニアモーターカーの中。


「なぁ、結局どういうことなんだろ?」

タクミが隣に座るユイに聞く。


「結城光さんは。それだけのことだよ。」

ユイはビールを飲みながら答えた。


「そうじゃなくて!お前の高祖母ひいひいばあちゃんのことだよ!」

タクミは何やらヒートアップしている。


「どういうこと?一緒じゃないの?」

ユイのビールを飲む手は止まらない。


?見つからなかったんだぞ?」

タクミは身振り手振りを交えて、必死にアピールしていた。


「・・・。」

ユイは次のビール缶を開けている。


「本当は違ったんじゃないのか?」

タクミは意を決したようにユイに訊ねた。

その目は真剣そのものだった。


「それは無いよ。だって。予言してるじゃん。」

「あ。」

タクミもそのことに気づいて、開いた口が塞がっていなかった。


『世界同時AI自壊事件』

光が予言したもの。

それは確かに約四十年前に発生していた。


そして唯志の目論見通り、時妻村に移住した面々の一族は生き残ることに成功した。

すべては光の情報のおかげで。


「そんなの、AIが発展する前の時代で予言するの無理でしょ。その結果私たちは安全圏に住めてたんだし。」

「そう・・・だよな。」

タクミは腑に落ちない様子だったが、渋々納得していた。


「なに?まだ納得できない?」

ユイはニヤッとしながらタクミの方を見た。

「いや、う~ん・・・。どうだろう。」

タクミは釈然としないものの、反論する意見も出てこなかった。


。」

「え?」

「バタフライ効果って知ってる?」

「いや、聞いたことない。」

「そっか。まぁでも、高祖母ひいひいばあちゃんいなかったんだし、未来が変わったって考えるのが妥当じゃない?それか--」

「それか・・・?」

タクミのユイを見つめて聞き返したが、返事はなかった。


「まぁ細かいことは良いじゃん。高祖母ひいひいばあちゃんがタクミ君の高祖父ひいひいじいちゃんに会えなかったら、私たちもいないんだよ?」

「それはそうだけど・・・。」


「だからさ。いま私たちがこうして出会えてることは奇跡みたいなもんなんだよ。」

「そうかな。・・・そうかもな。」


「だからさ、そんなことよりも、もっと未来のこと考えよっか。タク君。」

そう言って微笑んだユイはまるで天使のような笑顔だった。

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俺の物語には主人公だけがいない モコ @mocomoco0428

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