第174話 俺の物語の主人公は

翌日。

桜の舞い散る中。

拓哉たちは居住地になる予定地を見に来ていた。


「何もないね。」

「今はな。」


「桜きれいだねー。」

「ほんとほんと。せっかくだから花見にすればよかったねー。」

「酒飲みてえけど、運転あるからな。」



「ていうか、俺全然知らなかったんだけど。陰でこんな計画してたの?」

「せや。あんたは西条家ちゃうし、しゃーない。」


「家を建てるんだよね?お金とか大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。ここ三年で十分すぎるほど稼いだ。。」

「ええ!?そうなの!?」

「・・・。儲けられそうな情報は無いんじゃなかったっけ・・・?」

「直接はな。光の情報から推測だよ。リスクも多かったから誰にも言わずやってただけ。」


(まぁ確かに、自分の推測なら他の人には話さないか。それに乗っかるのも怖いし。)


「唯志君すごーい。莉緒ちゃんとかは?」

「私は将来的にフリーになるつもりだから、隠居先としてはちょうど良いかもね。」

「目途は立ちそうか?」

「うーん、まぁなんとかなるっしょ。」


「佐藤さんと間宮さんは即答だったね。」

「そうだな。独り身だし、そもそもその頃には死んでるから、か。まぁ二人の年齢ならわからなくも無いか。」

「結婚する気ないのかな?」

「気楽な方が良いんじゃね?特に素行調査が仕事の人は。」

「あー、なんとなくわかるかも。」

「まぁ気が変わったら受け入れれば良いさ。全員が同意するとも思ってなかったし。」


「ていうか俺らは検討の余地すら無いよね?」

「お前はどうせ西条家の屋敷に住むんだから良いじゃん。」

「せやで。移住者が増えれば活気も出るし、村も発展して万々歳やろ?」

「まぁ退屈はしないかもだけど、だいぶ先の話でしょ?」

「せやな。それまでにコンビニくらいは作っておきたいな。」

「・・・客が来ないよ、客が。」

「せめて電車でも通ってたら観光地化することも出来るんだろうけどね。」

「それじゃ移住する意味無くなるだろ。」

「あー、確かに。」


「何にしてもまだ先の話だ。それまで生きてるかもわからねーし。」

「え!?唯志君死ぬの!?やだよ!」

「俺に限らず、この中の誰かに不幸があっても不思議じゃないって話。まぁそん時はそん時。」

「そうならない様に頑張ろうね!」

「そうだな。じゃあさっさと帰るか。莉緒はうちに泊まっていくんだろ?」

「うん。いやー、悪いねー。新婚さんの家にお邪魔して。」

「新婚って言っても、もう半年も経つだろ。」

「まだ半年だよ!新婚気分大事だよ!」

「じゃあ莉緒には野宿してもらう?」

「マジで!?」

「そ、それはまた別の話だよ!莉緒ちゃん泊まっていってよ!」

「なんだー。ひかりん暗に私が邪魔だと言ってるのかと・・・。」

「そんなことないよー。」

「あはは。じゃあ二人の新居見に行くか―。」

「うん。賃貸だけどね。あ、そうそう――」


「じゃあ、吉田・・・。いや西条って言った方が良いか?」

「どっちでも良いよ。呼びやすい方で。」

「んじゃ吉田で良いや。それと御子も。俺らはそろそろ帰るわ。」

「おっけー。また来てやー。」

「おう。次はガキの顔でも見せてくれ。」

「それやと当分先になるやろ!もっとはよ来い!」

「それに子供はそっちのが先でしょ。先に結婚してるのに。」

「まぁその辺は人それぞれペースがあっから。おーい、光と莉緒!帰るぞー。」


「えー、もう帰るの?」

「遠いからな。それよりお前、仕事はどうなんだ?」

「楽しいよ。希望してた通りの仕事出来てるし。」

「なるほどなー。困ってることとかないのか?」

「今のところないかなー。あー、それよりねー――」


「タク君。」

「どうしたの?」

「色々とありがとね。」

「祝って貰ったのこっちだよ?」

「そうじゃなくて。おかげさまでたくさん友達出来たし、未来に手紙も残せそうだよ。」

「ああ。もう良いって。前から何度もお礼言って貰ってるよ。」

「うん。でも改めてね。唯志君と出会えたのも、結婚できたのもタク君のおかげだし。」

「そんなの言い出したら、俺が御子ちゃんと結婚するのも光ちゃんのおかげだけど。」

「そうなるのかな?」

「うん。」

「最初はタイムスリップなんかに巻き込まれて、本当に運が悪いって、ちょっと絶望しちゃったけど。」

「そうなの?」

「うん。でもね、私今はとっても幸せだよ。」


「だからさ、そんなことよりも、もっと未来のこと考えよっか。タク君。」


――


急に現れた未来人に一目ぼれして。


自分の人生の物語が始まったと思って。


可愛いヒロインがいて、主人公になろうと必死に頑張って。


でも、結局その物語でも俺はモブで。


俺の物語にはヒロインだけがいて、主人公がいないって思ったりした。




でも、その物語の主人公は別の人だったし、ヒロインは俺のヒロインじゃなかった。



――


「おーい、拓哉。うちらも帰るでー。我が家に。」


「うん、御子ちゃん。」



でも、思い描いてた物語とは違ったけど。


ありきたりで平凡で、何の特徴も無いけど俺だけど。



「何ボケーッとしてんねん。はよ帰ろ。」


「うん。今行くよ。」



俺の物語に主人公はいた。


普通の人からしたらほんの少し変わった物語だけど。


今はこんな物語も悪くないって、そう思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る