第173話 未来へ

「須々木の件の後、光は現代に残ることを選んだ。そこまではみんな知ってるよな?」

唯志は全員を見渡した。

否定する人はいなかった。


「で、元々並行して考えてた、光の先祖を見つけてそいつに手紙なりを渡して、未来の光の家族に情報だけ伝える。そういうプランに目的を変えた。」

唯志の説明に、光がこくこくと頷いている。


「それで俺やめぐみん、唯志君が集めた情報から東京に先祖探し旅行に行った。そうだよね?」

佐藤が横から補足説明の様に聞き返した。

「そうです。」

唯志が佐藤の話を肯定した。


「で、その結果、先祖は見つからなかった。そこまでは聞いてるよ。」

今度は間宮が続き話した。

これも唯志が頷いて肯定した。


「先祖が見つからなかった時の案は元々あった。というより、先祖の件より先に考えていたことなんだが・・・。」

と、唯志は前置きして話し始めようとした。


「多分だけど、俺たちの中の誰かの子孫に情報を託す。そういう事だよね?」

続けたのは拓哉だった。

全員が一斉に拓哉の方を見た。


「気づいてたのか?」

唯志が驚いた表情で拓哉を見た。


「あの東京旅行からずっと考えてたからね。気づいたのは最近。御子ちゃんとの結婚が決まった頃、なんとなく思いついた。」


「へぇ。」

唯志は感心したような表情で拓哉を見ていた。

それは佐藤や間宮も同じだった。


「あれ?でもそれだけだったら当時話しても良かったんじゃない?」

聞いていた莉緒が疑問を口にした。

恵も頷いている。


その意見に対しても、拓哉が続けて答えた。

「でもこれを実行するには、なるべく俺たちの中で完結させた方が良い。色々と事情が事情だからね。特に光ちゃんがやるのが良いんだろうけど――」

「未来に情報を残すために誰かと結婚して子供を産め・・・、なんて言えないからな。」

拓哉の話に続いて、唯志が苦笑いしながら言った。


「その話、教えてくれたのがの夢の国の中だったよねー。」

光は当時を思い出してか、キラキラした目でうっとりしていた。

相変わらず唯志にベタ惚れのようだ。


「まぁ光と付き合う様になって、俺も覚悟を決める必要があったから。」

唯志は若干ため息交じりで言った。


「あの時、あんたらそんな話してたんか・・・。それであの時やたらと光が上機嫌だったんやな。」

「そうなの!唯志君、結婚してくれるって言うから嬉しくて。」

光は当時を思い出してにやけていた。


「いや、そうなったらって話しただけで――」

「でも結婚したもんねー。」

光が唯志にまとわりついている。

この二人は当時と変わらずバカップルだ。

いや、今は夫婦か。


「まぁとにかく、そういう事なら確かに先祖探しより確実だよね。実際、二人が結婚したわけだし。」

拓哉は唯志にまとわりついている光を見ながら、やれやれといった表情を浮かべた。


「他人事みたいに言ってるけどな、

話し終わり、自分の仕事は終わったという表情を浮かべている拓哉に向かって、唯志が言った。


「うん・・・。うん?」

拓哉は不意打ちを喰らい、目を見開いて唯志を二度見していた。


「ごめん、もう一回言って。」

そして聞き返した。


「だから、お前もその当事者だって。」

ちょっと意味が分からない。

こいつ何言ってんだ?

拓哉はそう思った。

だが、周りはなるほどといった表情をしていた。


「だって、お前も条件に当てはまるじゃん。俺らの中で完結出来て、子孫が残せそうって。」


「・・・。ええ!?」

拓哉は驚きの余り目を見開いて挙動不審になっていた。


「確率は高い方が良いからな。お前らにも協力してもらうってことにした。ちな、御子は了解済みだぞ?」

「せやで。ええやん、協力したろうや。」

御子が胸を張っていた。


(また勝手に・・・。はぁ・・・、まぁしょうがないか。)

拓哉は頭が痛かったが、こんな形でも光に協力できるならそれはそれで嬉しかった。


「で、何をしたらいいの?」

拓哉は若干諦めモードで質問した。


「それだけどな。まずは俺たち全員も子孫も。特に六十年後くらいに起こるから。」


「まぁ確かに。子供が出来たとしても全滅したら意味ないもんね。ならどうするの?」

拓哉は頭を捻らせたが、特段何も思いつかず、結局質問を返した。


「例のAI。多分たいていの被害は都市部だ。つまり――」

「全員、時妻村に移住じゃ!」

御子が拓哉に向かってビシッと指を差しながら言った。


「「「え!?」」」


これには拓哉だけじゃなく、他にも何人かは口を開けて驚いていた。


「あー、つまりな・・・。」

明らかに説明不足なので、唯志が引き続き補足説明を始める。

「ここ時妻村なら、AI自壊事件の影響も少ないだろうし、大災害を避けるにはちょうど良いって話だ。まぁすぐじゃないし、希望者だけな。」


「ええ?家とか仕事とかはどうするの?」

恵が質問した。


「その辺も考えてある。住宅地に良さそうな、余ってる土地を御子に紹介してもらったし、ノムさんの会社の新規事業でAIを活用した農業とか始める足掛かりに時妻村をあたってもらってる。ゆくゆくは事業拡大して色々できるようにな。」

「そうだねー。計画自体は悪くないし、なんとかなると思うよー。」

唯志が説明し、野村がそれに後押しをした。


「というわけでさ。答えはすぐにじゃなくて良いけど、ここにいる人は真剣に考えてみて欲しい。自分たちの未来のこと。」

唯志が全員に向かって、そう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る