第172話 ちょっとした未来

月日は流れ。

二千二十五年四月五日、土曜日。

暖かい春の陽気、舞い散る桜の花びらと一面桜色の景色。


「うおー!絶景だねー!」

時妻村の少し小高い場所から見下ろし、莉緒が感嘆の声を上げた。

山や田んぼののどかな田舎風景だが、この季節だけはピンク色に染まり、確かに絶景と言って差し支えなかった。


「うん、凄いね。前に来た時は風景見てる余裕なんて無かったな、私。」

隣で光も目を輝かせながら呟いていた。

「あはは、確かに。必死な頃だったもんね。」

莉緒は当時を思い出し笑っていた。


「おいっすー、ひかりん!莉緒ちゃんは久しぶりー!」

二人を見るや否や、元気に挨拶をしてきたのは恵だった。

後ろには佐藤と間宮も見える。


「おー、めぐみんも元気そうだねー!後ろのお二人も!」

「莉緒ちゃんこそ、また一段と美人になったね。光ちゃんもね。」

間宮が軽口をたたき、二人は満更でもない顔をしていた。


久しぶりに会った一同は、思い出話に花を咲かせていた。

特に莉緒と間宮や佐藤は三年以上ぶりになる。


しばらくすると、一同の真後ろにある巨大な門扉が開き、中から人が出てきた。

恐らく使用人と思われる人を伴って。


「お久しぶりです、皆さん。」

「おー、タク君久しぶりー!」

莉緒が声をかけ、みんながそれに続いて挨拶を交わした。

「タク君、先に着いてたんだ。遅刻癖、治ったのかな?」

光はニコッと微笑んだ。


「うん。ってあれ?光ちゃん、は?」

「唯志君ならノムさんと一緒にどっか行ったよ。御子ちゃんも一緒。」

「え、も!?どうりで見かけないと思った・・・。」

拓哉は頭を抱えるような仕草を見せた。


「あはは、相変わらず振り回されてるねー。」

その様子を見て莉緒が笑っていた。


「ほら、あそこに小さく見えるのがそうじゃないかな?」


光にそう言われ、みんなで見下ろした先には豆粒の様に小さい三人が見えた。


――

「--って感じやけど、居住地用はこんなもんでどうや?」

御子が何もない更地を見ながら言った。

見た目は以前よりは少し落ち着いた感じにになっているが、その言動は相変わらずだった。


「十分すぎ。庭付きの戸建て何個建つんだよ。でかいマンションだって建てれるだろ。」

言葉とは裏腹に、唯志は嬉しそうな表情だった。

「事務所とかも建てるにしても十分だね。」

野村も周囲を見渡しながら後に続いた。


「商業施設とかは?」

「それはこれから考える。どうせすぐの話やないやろ?」

「そうだね~。こっちも準備とかあるし、それ以前にまだ計画段階だし。」

「でも着手はそろそろ始めないと、遅れをとるぞ?」

「経営会議で提案中だからもう少し待ってて~。」


三人は何やら悪巧みをしているらしく、悪そうな笑みを浮かべながら話し合っている。


――

用事が済んだ三人は、唯志の運転する車で屋敷に向かっていた。

「で、どうなんや?あんたらの新婚生活は。」

「変わりねーよ。つーか先月も聞いたろ。むしろ今日はの方だろ。」

「ほんとだねー。うまくやれそうなの?」

「まぁうちらもが長いからなぁ。今更やろ。」

「確かにな。」


そんなことを話しているうちに、早くも屋敷が見えてきた。


「ん?なんか大所帯で門の前にいるぞ?」

「ほんとだね~。雑談でもしてるのかな?」


――

「おい拓哉!客人やで!立たせて無いで、客間に通さんかい!」

車を降りるなり御子が拓哉に怒鳴っていた。


「いや、よそ様の家に勝手に通せないでしょ・・・。」

やろ!何遠慮してんねん!」

「いや、遠慮するでしょ!」

拓哉は押され気味だが、なんとか抵抗していた。


「あはは、相変わらずでホッとする。」

「ね。仲良しだよねー。」

その様子を眺める莉緒と光は、くすくす笑いあっていた。


「何にしても全員揃ったな?大広間に行くで!」

御子がそう言うと、黙って立っていた使用人らしき人が道案内をはじめた。


――

「全員に行き渡ったか?始めるでー。」

御子がそう言うと、全員が飲み物を手に構えた。


「ほら拓哉、挨拶!」

御子が急に拓哉に振った。

「え!?俺!?」

「当たり前やろ!」

「考えてなかったんだけど。」

「ええから適当にしゃべるんや!」

その光景に、周りは爆笑していた。


「えーっと。本日は御日柄も良く――」

「それ、お前が言うんかい!」

まるで漫才を見せられているようだった。

周囲も自然と笑っていた。


拓哉は「ごほん」と咳払いをすると、気を取り直して話し始めた。


「えっと、今日は俺と御子ちゃんの為に集まって頂きありがとうございます。前祝いという扱いで申し訳ありませんが、ここに集まっていただいた方々は僕たちの出会いについて、を知っている人たちです。色々と紆余曲折はあって、色んな人の御協力もあり、時には迷惑をかけたりもしましたが――」

「今度は長いわ!」

全員から笑いが起きた。


「はよ飲ませろー!」

莉緒からヤジが飛ぶ。

「あはは、相変わらずだねータク君は―。」

光は楽しそうだった。

「こういう時は・・・。」

恵が言い出すと、みんなが一斉に唯志の方を見た。


唯志はやれやれと言った表情で、立ち上がった。

「じゃあ、は後でゆっくり聞くとして・・・。吉田と御子、御結婚おめでとう。かんぱーい!」

唯志の掛け声とともに、全員が二人を祝福した。


来週は拓哉と御子の結婚式。

そして、二人が出会うきっかけとなったは、この日に前祝い会を行うこととなった。

この面子だけでしか共有できない話題も多かったがために。


会は順当な盛り上がりをみせていた。

全員が入れ替わりで主役の二人を祝って回っていた。


「まさかこの二人がねー。」

御子のそばで、恵は感慨深げに口にした。

「そかな?二人はずっと仲良しだったよ。」

光は自分のことの様に嬉しそうだった。

「そんなことないやろ。最初は喧嘩ばっかりだったで。今もやけど。」

御子は不服そうに言っているが、その表情は晴れやかだった。


「ねーねー、きっかけは―?」

莉緒は興味津々とばかりに、身を乗り出して質問した。

「さー、どうやろなー。まぁ強いて言えばになるんかな・・・。色んな意味で。」

御子は当時を思い出しながら、懐かしそうに言った。


「あー、あれ!そう言えば夢の国でデートしたもんね。二人で。」

光も懐かしそうに語った。

「いや、それはあんたらバカップルがおるから、しゃーなしやろ。それに、その後すぐに同棲し始めたやろ?やっぱり、あの東京旅行のせいやな。」

御子は不貞腐れたような表情でそう言った。


「そう言えばさ、その東京旅行だけど、結局ひかりんの先祖は見つからなかったんだよね?その後ってどうなったの?」

莉緒はふと思い出したかのように首を傾げていた。

同様に恵も首を傾げていた。


「あー、それね。唯志君、もう話して良いんだっけ?」

光はそう言って唯志の方に目を配った。


「そうだな。いい機会だし、話しとくか。」

そう言うと、唯志はジョッキを置いて姿勢を正した。

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