第171話 時は経ち
東京旅行から少しの日時が過ぎ去った。
三月十八日金曜日。
少しずつ暖かくなり、すごしやすくなってきた。
そんな三連休前の普通の平日の昼間。
拓哉と御子は新大阪駅に向かっていた。
平日ではあるが、拓哉は休みを取っている。
「早いもんやな。もう当日なんやから。」
「そうだね。先月の旅行で新大阪に来てから、もう一カ月以上だもんね。」
「
「そうだね。」
――
新大阪駅の新幹線乗り換え改札の前に着くと、そこには既に三人が集合していた。
「おいーっす!御子ちーとタク君。」
「二人とも、こんにちは。」
「おつー。」
莉緒、光、続いて唯志が挨拶をしてきたので、二人も軽く挨拶を返した。
この五人が集合したのは久しぶりで、しばらくの間は近況報告などをしていた。
「んじゃ、そろそろ行こうかな。」
一通り話し終わった頃、莉緒が言った。
「ホームで見送るよ。その為に来たんだし。」
光は少し寂しそうに返事をした。
莉緒が東京へ向かう。
その為に新幹線改札を通る。
そしてそれに続いて、見送りの四人は入場券で改札を通った。
――
東京方面に向かう新幹線の乗り場、二十七番ホーム。
指定席を取っているため並ぶ必要も無く、乗り込む号車の乗り場付近で別れを惜しみながら話をしていた。
特に女性陣は。
「お、来ちゃったね。それじゃしばしのお別れだ。」
莉緒は苦笑いを浮かべた。
「莉緒ちゃん、色々と本当にありがとう。たまには帰って来てね。ビデオ通話しようね。」
光は本当に悲しそうな顔をしている。
「おうよ!ひかりんは唯志と仲良くね。」
莉緒は笑顔で返事をした。
「しんどなったらいつでも帰ってきたらええで。」
御子も莉緒の心配をしているようだ。
「はいよー。御子ちーも何かあったら連絡してきてね。」
「うん、わかった。」
莉緒も莉緒で、御子のことを何かと気にかけている様子だった。
拓哉はただただ黙っていた。
色々あったけど、莉緒に対してかける言葉が特に無かったから。
だからあえて沈黙を貫いた。
それを見た莉緒は苦笑いしていた。
そして――
「莉緒。」
「うん。」
「頑張れよ。」
「おう!」
唯志の挨拶は簡潔なものだった。
でもたぶん、この二人はこれで分かり合えるんだと思う。
拓哉はこの時、初めてこの二人の関係が羨ましいと思った。
「それじゃあね。また落ち着いたら遊ぼうねー。」
莉緒が笑顔で手を振っている中、新幹線はドアが閉まり、ゆっくりと動き出した。
「行ってもうたな。」
「うん、行っちゃったね。」
「最後まで笑顔やったな。」
「うん。」
女性陣はしんみりとしながら新幹線が見えなくなっても見続けていた。
「せっかくだからこのまま飯でも行くか。」
ホームからの階段で唯志が言いだした。
「せやな。二人も休み取ったんやし。ついでに遊んでいこか?」
唯志の提案に御子が乗っかった。
「良いね!私カラオケ行ってみたい!」
光もノリノリだった。
光はこのところ現代の音楽をよく聞くようになっていた。
それ故にカラオケに行きたくなったんだろう。
(げ、カラオケは・・・。)
拓哉はカラオケが苦手だった。
というか、行った経験が無かった。
人前で歌うという行為、そのことの意味が分からないから。
しかし、笑顔の光を見ていると否定がし辛い。
さらに・・・
「ええやん。行こ行こ!」
御子もその意見に賛同したのでゲームオーバーだった。
こうなったらもう拓哉の意見は通らない。
従うしかなかった。
「良いのか、吉田?」
唯志がボソッと拓哉に聞いてきた。
唯志は拓哉がカラオケ嫌いなのを知っている。
流石に大学からの付き合いなだけはあった。
「しょうがないよ。・・・それに、良い経験かもね。」
拓哉は半ば諦め気味ではあったが、覚悟を決めた。
「そうだな。何でもやってみたら意外とハマるかもしれないぞ。」
唯志はくつくつと笑った。
――
「いやー、カラオケって楽しいなー。」
「うん、楽しかった。」
カラオケ後の居酒屋にて。
御子と光がカラオケの興奮冷めやらぬまま話している。
何を隠そう、田舎暮らしの御子も未来人の光も共にカラオケ初体験だった。
先程までの二人は、初めてのカラオケに大盛り上がりをみせた。
一方、同じく
というより、ほぼ歌っていない。
御子に強制的に歌うように指示され、苦渋の選択で二曲ほど歌ったが・・・
(最近の曲とかほとんど知らない・・・。というかアニソンしかわからない・・・。)
自分の無知さに愕然としていたところだった。
唯志は涼しい顔をして、最近の流行曲から女性陣の好きな曲、果ては拓哉の入れるアニソンまで全てをフォローしていた。
しかも、どれも上手に。
(天は二物を与えすぎだろ。なんだよこいつ。)
唯志がフォローできるので、他の人は何も気兼ねすることなく好きな曲を入れれる。
ここでも経験値の差が大きく感じた。
(まぁでも、良い経験になった。)
唯志との差を痛感する一方で、数曲歌っただけでも結構楽しかった。
そして今後の為にも、こういう事も覚えなきゃいけないと思った。
「何、呆けとんねん!」
カラオケのことを反省し、一人考え込んでいた拓哉だったが、御子にツッコまれたところで現実に引き戻された。
「あ、ごめん。何の話だっけ?」
「話しちゃうねん。乾杯するで。」
そう言われて目の前を見ると、注文していたビールが四人の前に並んでいた。
「あ、ごめん。」
そう言うと拓哉はジョッキを手に取った。
――
「で、あんたらどうや?
「えへへー、毎日楽しいよ。ね、唯志君!」
「そうだなー。」
ニコニコして答える光と、いつも通りの唯志。
この二人は旅行から程なくして同棲を始めた。
同棲の提案をしたのは、驚いたことに御子からだった。
元より、光もいずれはと考えていたようだが、居候の身ゆえに言い出しづらかったようで、唯志が了承したことでとんとん拍子で事が運んだ。
多分、御子は光の考えがわかっていたんだろう。
だから御子から言い出した、拓哉はそう思っている。
本格的に同棲が始まったのは一週間ほど前。
逆に言うと――
「お前らこそどうなんだよ?二人になって、困ったりして無いか?」
「まぁうちらは変わりないで。なあ、
「うん、そうだね。」
「そうか。なら良い。」
「二人は仲良しだもんねー。」
光はニコニコしながら言った。
御子は「そんなことないで。」とあっさりした返事をした。
「で、あんたらどうすんねん。未来のこと。」
御子が聞いたが、拓哉も気になっていた。
二人には何らかの
「ああ、それな。御子に相談があるんだよ。」
唯志が思い出したかのように答えた。
「なんや?また誰かの色、見るんか?」
「いやいや、そっちはもう良いや。というか相談ってのは、
そう言うと、唯志は
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