第49話 ヘルメス・トリスメギストス 5
「えっ、じゃあ……」
「ああ、結局『霧の結界調査』でも、気を使わないといけない部分があったしな。受けられる依頼に制限がないなら、その方が動きやすそうだ」
シエラ達が戻ってきたところで、俺は四人に旅団連合の話を受けることを告げた。
地位に未練が無いかといえば嘘になるけど、正直なところ俺には堅苦しい環境が合わないらしい。
「やった! じゃあセリカ達といつでも会えるね! リック!」
「ふぅ、正直なところ受けてくれるかどうか不安だったよ……」
「だが、これからは忙しくなるぞ。仕事はたくさんあるからな」
セリカ、アベル、サイゾウは素直に喜びを伝えてくる。
「うん、よろしく、みんな」
俺も口元を緩めて頷く。形は変わるけど、またシエラ白金旅団の一員として認めてもらえたような気がした。
「……」
「シエラ?」
そんな中、シエラは恥ずかしそうに俺から目を逸らす。
まあ、ここしばらくは色々なことがあった。気恥ずかしくなるのも仕方ないだろう。
「ほら、シエラ……素直が一番だよ!」
「流石にまた変なこと言うと、全員で説教するからな」
「旅団連合の首領となる人間が、その程度で恥ずかしがってどうする」
シエラを励ましてるのか叱咤しているのか分からない三人を見て、俺は苦笑いする。なんか……いいな、こういうの。
「リック……えっと、アタシが冒険者になろうって思えたのは、あなたのおかげで、ずっと憧れだった……」
シエラは顔を真っ赤にして俯きながら話す。
「だからずっと、アタシ達について行けなくなってたのが不安だったの……でも、あなたは本当はずっと強かったし、みんなはずっと優しかった。アタシは何も心配しなくて良かったんだって、ようやくわかった」
ぽつぽつと心情を吐露する彼女を見て、心に温かいものを感じる。消え入りそうな声は、俺を追放する前の彼女からは想像できない。
「その……アタシ、ずっとあなたの事が――」
「リックはおるかー!」
シエラが何かを言いかけた瞬間、セーフハウスの玄関が勢いよく開かれた。
――
「え……誰?」
玄関へ向かうと、銀髪の少女が腰に手を当てて仁王立ちしていた。
「リック様! なんかすごい音なりましたけど、どうかしました?」
音に気付いたリゼが二階から顔を出す。シエラ達も俺の後に続いて玄関まで集まってきていた。
「おお、いいのう、全員集まっておるわい」
少女は妙に老成した言葉遣いで、俺たちを見回して言う。
「優等生の人生を覗きたくなってな、しばらく世話になるぞ」
『……?』
自信満々に宣言するが、俺たちはそもそもこの女の子が誰だか分からない。迷子か何かかな?
「なんじゃ、揃いも揃ってハトが豆鉄砲食らったような顔しおって」
「……えーっと、迷子さん?」
リゼが沈黙を破る。
「迷子!? 迷子じゃと!? ……おお、しまった。この姿になったんじゃった」
少女は憤慨し、怒ったようなそぶりを見せるが、すぐに気を取り直したようで、奇妙なことを言いつつ居住まいを直した。
「儂じゃよ儂、ヘルメスじゃ」
「……え?」
ヘルメスと名乗る少女はにいっと笑い。自分を指差した。
「リックに生命力を譲渡したが、まだまだエルフはその程度で死なんよ、転生の禁呪を使いこの体まで成長したんじゃ、ということでよろしく頼むぞ、連鎖術師」
全員がぽかんとした表情を浮かべ、状況の理解が出来ていない様子だった。しかし、理解が進むにつれ、全員が同じ感情を抱く。
『ええええええええええぇぇぇぇっ!?』
真夜中過ぎのセーフハウスで、驚愕と困惑の絶叫が響き渡った。
――エルキ共和国編 完
連鎖術師の冒険譚 奥州寛 @itsuki1003
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。連鎖術師の冒険譚の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます