第4話

「ユウ、なんだよそのバカでかい荷物は」

電話で伝えられた持ち物は着替えとタオルと衛生セット位の筈だ。

ユウワはそのマンガみたいなパンパンのリュックをポンと叩いた(ビリって音がした気がするけど気のせいだ気のせい)。

「ええとね、カルタと花札と」

「俺ルール知らねーよ花札なんて」

「投げる用の枕と」

「人んで枕投げすんなよ」

「しめ縄と」

「今すぐ家に戻せ!」

「だって神様相手なんでしょ?ほらお神酒みきも」

「お前さては神棚から盗ってきたな!?」



冷静に考えてそもそも何故お泊まり会などという発想に至ったのか。


普通なら真っ先に口にすべき疑問を放置したまま、俺達はコンビニに向かった。


「相変わらずオモロイな、あんたらのノリ」


1人増えた状態で。



あまり時間がないとこぼしたレイラは、去り際、この部全体に関わる話だから他の部員にもこのお泊まり会の連絡を回すよう指示して帰っていった。

残った部員は、幽霊部員を入れてあと3人(同好会ギリギリ)。

その内、(おおむね予想通り)メチャクチャ好色を示した1人の男子生徒が乗ってきた。


名前は永峰素晴ながみねすばる

最大の特徴は、その両親が関西出身故に出る、割とネイティブな関西弁。あと敢えていうならチャラい。

母親と二人暮らし(本人曰く「驚く程の貧乏」らしい)。

…親無し子を集めて結成された青空倶楽部の中では珍しい、一人親家庭の一人っ子だ。


そんな訳で、日頃、口を開けば暇だ暇だとうるさいこの関西弁が、真っ先に着いてきた。


俺が偉そうに言える立場じゃないけど、


「もう少し親孝行しろよ」


「シツレーな。僕かて平日はかなりシフト組んでんねで。今日はたまたま早上がりでお袋も残業やさかい、どうせ独りやし、家での食費少しでも浮いた方がええやろ。ちゃんと夕朝一食分ずつは作ってから来たし」


「ああ…」


いや、そんな膨れ面だとバカに見えるけど、意外とただ考えなしにバカをやってる訳でもないらしい。

ていうか俺より親孝行してた(俺はそもそも孝行する親がいない訳だが)。

「…ごめんスバル」


…そうこうしているうちに、コンビニ到着。


レイラは既に待っているようだ。


「お待たせ」

「ああ、待った」

「…事実なんだろうけどそれ言う普通?」

「冗談だっつの。あーそっちに居るのもメンバー?」

「初めまして、永峰スバルです。あんたがレイラさん?エライべっぴんさんやね」

「ありがたいが、まさか人生で初めての褒め言葉が関西弁べっぴんさんとは思わなかったな」

「中々個性的な人やね。まあ宜しくして下さい」


そこから自転車で五分強。

「ねーカユい蚊に刺された!」

「自転車乗ったまま掻く訳にゃいかないんだから我慢しろよ」

「ね、家着いたらかゆみ止め貸して!」

「いいけど」

なんて会話をしつつ、到着したのは、


『バカでっかっ!』


家というよりは、瓦屋根の平家の屋敷だった。

レイラは迷わずインターホンをピンポーン。

「ただいま」

出たのはやや年上感のする低い男の声。

「お帰り。ダチ連れだろ?裏から入って」

「ん」

門をくぐり(門!)、砂利を踏みしめて、案内されるまま歩く。

「今のは…お父さん?」

「にしてはガラ悪くない?」

天然とはいえ人の家族にガラ悪いとは。

「兄貴」

「…親は」

「居ない」

それが今家にという意味か、この世にという意味かは訊けなかった。

「自分の家入るのにピンポン鳴らすの初めて見たー」

「…ここ、お前の家だよな?」

「前に強盗に入られたんだよ。それで厳重警戒に」

「ご、強盗!?」

「大丈夫やったんかそれ」

「とっさに木刀で殴ったからまあ」

『………』

「正当防衛」

「それはそうなんだろうけどさ…」

「…大丈夫やったん?…強盗犯が」

「無いよな?犬鳴村伝説みたいの無いよな?ここは治外法権じゃないよな?」

「仮にも交番の真ん前だぞ。治外法権なんかあってたまるか」

「あの錆びたちっこい建物交番だったの!?」

生まれ故郷でないとはいえ、もう三年はここに住んでるはずなのに一度も気付かなかった。

「ていうかいくら屋敷が大きい言うたって交番の前で強盗はアホやろ」

「それは同意しちゃうよね」


…なんて会話が一通りできてしまう程、裏口への道のりは遠かった。


『お邪魔します』

「どーもどーも」


玄関先で出迎えられたのだが、


「キャー!!」

「うおぉ!?」

レイラの兄はともかく、ユウワが叫んだのも無理はない。

「…なぜ上裸!?」

「お風呂上がりなんとちゃう?髪濡れてるし」

「おいレイお前女子が来るなんて聞いてねえぞ!」

「てンめこのバカショウ!」

非常に珍しく、レイラが声を荒げた。

…この口の悪さ、兄譲りだったのか。

「いくらなんでも客人の前でそんなカッコするなんて誰が考えるか!」

「だってお前が連れてくる奴なら男だと思うだろうが!?」

「どういう意味だよそれ年頃の妹のダチなんだから普通女だろ!」

「お前を女だと思ったことはねえよ!」

「おい」

「…やばいちょっとおもろい」

「ね。なんか見てるの楽しい」

叫んでいた頃の気持ちを忘れ口喧嘩に熱中(?)し始めたユウワに、

「見世物じゃないって…」

落ち着いたらしい兄貴が呆れ顔で突っ込む。

「ったくさっさと上着てこい」

「へいへい。おっかねぇ弟だまったく」

「うるせぇ弟言うな」


「で、何がどうしてお前ん家でお泊まり会っていう流れになった訳?」

一通りシャワーも浴び、レイラお手製の晩飯を食い(普通に美味かった)、花札もして、枕も投げ終えた(一マス障子破った…)十時四十分。

そろそろ本題に入りたい。

…正直今までの流れで言われるがままになっているが、勿論まだ信じていない。

まずは根拠を見せるためという題目で、今日俺達は呼ばれたのだ。

取り敢えず何も分かってなかったスバルに事情を説明する。

「一応理屈はわかったけど…まあツッコミどころは置いとくとして」

「ああ。一つ目の質問の答えだが。…問題、君達に憑いた神って何神か当ててごらん」

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