【3分×SF】『頭脳×掌握』~ブレイン・グラスプ~
松本タケル
『頭脳×掌握』 ~ブレイン・グラスプ~
【1】
「博士、副作用はないんですね」
中年男性が聞く。
「ないと言っておるじゃろ」
博士と呼ばれた白衣の男性がオドオドと答えた。
「ドーピング検査にも掛からないんですよね」
父親が心配そうに問いかけた。
「掛からんよ。そもそも、薬は使わん」
博士は脳専門の医者で、長年ここで研究をしている。
「まずは説明を聞け。この装置で脳細胞に刺激を与える。シナプスの接続を変えるんじゃ」
博士は後ろの装置を
「オレは強くなれるんですか」
「強くなるというのは不正確じゃ。お前さんは 『自分の意思で自分の体を完全にコントロールできる』 ようになるんじゃ。 『頭脳』 で全身を完全に 『
「そうだ、
「頭脳も100%使えるようになる。まあ、人でこの技術を試すのは初めてじゃがな」
「明日、勝てれば思い残すことはありません。ズルせずに力を出し切りたいんです」
「これも、ズルと言えなくはないがのう」
博士がボソボソと言いながら続けた。
「一度、装置を使うと元に戻すことはできん。身体のリミッターを外すので疲れは何倍にもなる。あと、最も注意すべきなのは・・・・・・」
「計量まで時間がないんです。とにかくやって下さい」
「まず、誓約書にサインをしてくれ。ワシは責任を負いとうない」
博士は不満そうに装置の準備を始めた。
「5分もかからん」
博士はスイッチを入れた。頭にビリビリと電流を感じ、
【2】
翌日、観客は全盛期の
試合の間、
「身体をコントロールするとは、こういう感覚なのか」
1ラウンドで終わらせることもできたが、それでは観客が喜ばない。手加減しつつ3ラウンドまで引き延ばし、華麗な右ストレートで勝負を決めた。
「思い残すことはない」
そう思った瞬間、意識を失った。身体を酷使しすぎた結果だった。
【3】
目覚めると
「博士、何ですかこれは?」
「気を失っている間、装置が体を制御していたんじゃ」
「すまん、
父親が申し訳なさそうな顔をした。
「いったい、何が?」
「お前さんも父親も最後まで説明を聞かんからじゃ」
博士は
「説明してください」
「お前さんは自分の意思で全身を制御できるようになった。あらゆる神経をコントロールできるということじゃ。この神経には自律神経も含まれる」
「?!」
「自律神経は、心臓を動かす、呼吸をするなど生きていく上で必要な仕事を意識しなくてもやってくれる。お前さんはそれもコントロールできるようになった」
「つまり?」
「つまり、自律神経の仕事を自分の意思でする必要があるということじゃ」
頭脳が冴えている
「じゃあ、寝たり、気を失ったりすると・・・・・・心臓も呼吸も止まると」
「今は呼吸と心臓だけじゃが、数日もすると内臓の動きやホルモン調整も自分でやらんといかんようになる。装置では制御でけん」
「博士、対策はないんですか」
父親がかすれた声で聞いた。
「ワシに責任はない」
博士はイスに腰かけ、テーブルの上にある誓約書を指でコンコンと
(終)
【3分×SF】『頭脳×掌握』~ブレイン・グラスプ~ 松本タケル @matu3980454
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