プロローグ
GAME START
大見たちが立ち去ったレストランで、八神節夫は血まみれで這いずっていた。
「助けてください、助けて……」
彼が手を伸ばす先は、「私」だった。
「私」は足元にすがろうとしてくる男を、冷たく見下ろしていた。
爆発まで幾ばくもない。
二人が生き残る術はもう存在しない。
いくら助けを求めても一言も言葉を発しないこちらに勝手に絶望したのか、八神は顔をぐちゃぐちゃにして泣き始めた。
「なんで、俺は、あなたの言う通りにしたのに……」
八神の血まみれの手が「私」の足に触れる。
「私」はそんな彼の前にしゃがみこみ――にぃっと愉悦の笑みを浮かべた。
「ばーか。わっかんないかなあ。お前らは生贄だよ」
それまでの「私」とはまったく違う喋り方に、八神は目を見開いている。
そうそう、そういう顔が見たかったんだよこっちはさ。
「アイツをもう一度ゲーム盤に乗せるための、い・け・に・え。わかる?」
馬鹿でも理解できるように繰り返してやったのに、八神は目を白黒させるばかりで何も察しようとしない。
あーあ。これだから愚鈍なモブは。
「なに、なんで」
「はぁ? 知らないの? 墓場からカードを戻すには生贄を使うのが常套手段なんだよ?」
常識中の常識を教えてやったのに、八神はやっぱりわかっていないみたいだ。
本当に凡人ってやつは大変だね? 同情するよ。何も施してはやらないけど。
「私」はそのへんに落ちていた銃を拾い上げ、恐怖と驚愕の形に固まった八神の額にコツンと当てた。
「じゃあねー、元『頂上葉佩』」
口の端をつりあげ、引き金に指をかける。
「君はここで、ゲームオーバーだ」
乾いた銃声が一発。
男は倒れる。
残された「私」は自分の頭に銃口を当てて、迷いなく引き金を引いた。
*
「あはっ(笑)」
薄暗い部屋の中で、青年は耳からスマホを離す。
誰にも繋がっていないはずのそれをぽいっと横に放り投げ、彼は大きなソファで寝返りを打った。
ソファの周囲にはところせましとゲームが積み上げられ、童顔であるというのも相まって、青年をまるで無邪気な子供のように見せている。
「やっぱり俺、RPGの天才だよね(笑)」
天井を向き、傷跡がある喉を晒して、彼はけらけらと笑う。
「性別違うキャラも使えるなんてさっすが俺(笑)」
青年は笑いながらそのへんに落ちていた人形を機嫌よくいじり、端が欠けてしまっていたそれを躊躇なくゴミ箱に放り投げた。
「演出としてあの女の子の脳裏に色々な奴浮かばせてあげたし(笑) そこそこ盛り上がってくれたみたいでよかったよ(笑)」
他に誰もいない部屋に、青年の笑い声が響いていく。
そのまま青年は気がすむまでソファで寝転んでいたが、やがてそれにも飽きたのか、意地悪な笑みを浮かべたまま反動をつけてぴょんっと起き上がった。
青年が腰かけるソファの目の前には低い机。
机の上には乱雑に置かれたボードゲームと、ゲームの違う様々な駒。
「さってと。これで盤面は整った」
青年は、乱雑に駒が置かれたゲーム盤を見下ろしてにんまりと笑う。
「ゲームマスターは俺。PC2はバッキー。そして栄えあるPC1は――」
「君だよ、水無瀬クン(笑)」
人でなしたちは恋をしない ~人間詐称とパペット探偵~ 黄鱗きいろ @cradleofdragon
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