原発が爆発した日

ロッドユール

原発が爆発した日

「ええ、現在、○○原発で次々と爆発が起こり、深刻な放射能漏洩が・・」


(マジか、マジか、ついに起こった。ついに起こった。原発事故起こった。致命的な事故起こった。核燃料プールぶっ飛んだ。核燃料プールがぶっ飛んだ。死の灰。死の灰だ。死の灰が降って来る。降って来るぞ。どうしようどうしよう。死ぬ。死ぬ。俺死ぬ。っていうかみんな死ぬ。みんな死ぬんだ。全員、世界中、みんな死ぬ。死ぬ死ぬ。・・・。)

(マジか、マジか、マジなのか。うわっ、マジ膝震えてる。どうしよう。まじか。どうしよう。窓を閉めよう。でも入って来るぞ。隙間をテープで埋めるか。いや、でも空気が入ってこなかったらそれはそれで死ぬ。ダメだ。ダメだ。空気清浄機。空気清浄機。これをフル回転。フル回転。いや、そんなことしたって、ダメだ。放射能は次々くる。っていうか致死量の放射能が来るんだ。どうしようもない。どうしようもない。マジか。マジか。どうする。どうする。死ぬぞ。死ぬぞ。俺死ぬぞ。逃げる?どこに逃げる?致死量の放射能が漏れてんだぞ。どこに逃げたってどっちみちだめだ。逃げてもムダだ。逃げられない。逃げられない。みんな死ぬ。みんな死ぬんだ)

「どうする。マジどうする。親だ。そうだ親だ。こういう時は親だ。親に電話する。親はいつも子どもが困っていたら助けてくれる。絶対助けてくれる。そう。絶対助けてくれる心強い存在だ」

 ぷるるるぅー、ぷるるるぅー、

「あっ、もしもし、母さん、世界が滅びる。みんな死ぬ。みんな死ぬよ。どうしよう」

「バカなこと言ってないでちゃんと勉強しなさい。大学の授業料だってバカにならないんだから」

「テレビ見てテレビ見て。原発原発」

「見てるわよ。大丈夫よ。安倍さんが何とかしてくれるわよ」

「はあ?」

「安倍さんがまた何とかしてくれるから、あんたは心配しないで勉強しなさい。じゃあね」

「あ、おいっ」

 ガチャンッ、プーッ、プーッ、プーッ

「マジか・・」

(全然分ってないぞ。あの人。事の深刻さが。全く分かってないぞ。あの人・・。安倍とか言ってるし。あいつの無能さすらが分かっていない。あいつの超無能さすらが分ってない。それすらが分ってない。しかももう総理じゃねぇし、あいつ・・)

「っていうか、もともとNHKとか無条件に信じてた人だったしな・・、信仰レベルで信じてたしな・・」

(原発とか放射能危ないって俺が散々言ってんのに、NHKが大丈夫って言ってるんだから大丈夫だって訳の分からん事言い張ってたもんなぁ・・。NHKなんて、めっちゃ嘘ばっかだって、それ言っても全然聞かねぇし。なんでNHKが嘘言うのって真顔で言ってたもんな。嘘言うんだよ。テレビも新聞もラジオも政治家も役人も国も役所も、嘘言うんだよ。だから、福一は爆発したんだろ。だから、原発事故起こったんだろ。原発は安全ですって言ってたのあいつらだろ。あいつらだろ。まったく、だから言ったんだ。だから言ったんだよ)

「やっぱ、真面目さと勤勉さと従順さだけが取り柄の戦後の高度経済成長乗っかって安泰世代はダメだ」

(全くダメだ。使えない。全く使えない。有事の時になんの役にもたたない。まったくたたない。たたないどころか、重荷にすらなってる)

「ダメだ・・。色んな意味で終わってる・・」

(どうする。どうする。一番頼りがいのある親がさっそく終わったぞ。最初に終わったぞ。どうする俺。いきなりなんか絶望的だぞ)

「そうだ。兄貴。兄貴がいた。俺には三つ上の兄貴がいた。そうだ、俺には兄貴がいた」

(いや、だめだ。あいつは俺をめっちゃいじめた。小さい時めっちゃいじめた。虐待レベルで俺をいじめた。助けを求めるとか何かを相談するとかそういう人間じゃない。まったくない。それ以前の奴だ。というか、あんな奴は死ね。放射能で死ね。めっちゃ苦しんで死ね。死ね)

「で、どうする。どうする。俺どうする。そうだ」

(そうだ。とりあえず、とりあえず、むかつく奴殺しにいくか。こんなチャンスは滅多にないぞ。というかこんなチャンスは多分二度と来ない。まず隣りの部屋のじじい。あいつだ。あいつはいつも掃除機の音がうるさい。あいつをまず殺して・・。そして、それから前にバイト先で無茶苦茶威張り散らしていた岸口。あいつを殺して・・。いや、だからそいつらも全員死ぬ。全員死ぬんだ。俺がわざわざ殺さなくても勝手に死ぬ。放射能で死ぬ。苦しみのたうって死ぬ。そっちのほうがいい。そっちの方がざまあみろ感がある。そっちの方が全然いい)

「あっ、そうだ。木村殺しに行くか。あいつには相当な恨みがある。あいつにはマジで恨みつらみ色々ある。中学時代からある。殺るか。マジで殺るか。こんなチャンスマジでないぞ。こんなチャンス二度とないぞ」

(いや、だから、死ぬんだ。木村も死ぬんだ。ほっといても死ぬんだ。落ち着け。落ち着け。くそぅっ、どうする。どうする。美人を犯しにいくか。今まで絶対にヤレなかったような、俺なんか全然相手にしなかったようなすごい美人をヤッちまうか・・。ヤッちまうか。思い切ってヤッちまうか。いや、ダメだ。ダメだ。絶対だめだ。そんなことをしても全然気持ちよくない。全然気持ちよくないぞ。というか逆に気持ち悪い。めっちゃ気持ち悪い。最悪だ。俺最悪だ。最悪だぞ俺。落ち着け、落ち着け。俺落ち着け。どうする。どうする。マジどうする)

「うううっ、くそうぅ」

(くそうぅっ、原子力村ぁ~、クソックソッ、原子力村ぁ~、あいつらのせいだ。あいつらのせいだ。危ないって、だから危ないって、だから言ったんだ。それをあいつら、無理矢理バカみたいな屁理屈こねて、嘘つきまくって、テレビ出て噓つきまくって、みんなだまして、原発動かして、自分たちの利権でそれで、原発動かして、金のために自分たちの金のために、それで、それで爆発してんだ。見事に爆発してるんだ。だから言ったんだ。だから言ったんだ。危ないって。福一で事故起こったんだから、また起こるぞって、だから言ったんだ。だから、言ったんだ。くそうぅ、くそうぅ、あいつらのせいだ。マジで殺しに行くか。マジで殺すか。あいつら。くそうぅ、滅茶苦茶むかつく。御用学者滅茶苦茶むかつく。経産省ぉ~。経産省ぉ~。官僚ぉ~、官僚ぉ~、マジでむかつくぅ~。マジでむかつくぞぉ~。あいつらのせいだ。あいつらのせいだ。自民党ぅ~。自民党ぅ~。あいつらのせいだ。あいつらのせいだ。マジで殺すか。あいつら。あいつら、マジで殺す。いや、だから、死ぬんだ。あいつらも全員死ぬんだ。全員死ぬ。ざまあみろ。あいつらも全員死ぬんだ。ほんとざまあみろ。っていうか俺も死ぬ。関係ない人間も死ぬ。みんな死ぬ。みんな死ぬ。罪のない奴もみんな死ぬ。みんな死ぬ。どうする。落ち着け。落ち着け。いや、落ち着いても死ぬ。みんな死ぬ。くそうぅ、やっぱむかつく、むかつくぞぉ。原子力村ぁ~。やっぱ放射能で死ぬ前にこの手で殺したい。めっちゃ殺したいぃ~)

(マジで全部終わる。全部終わる。何もかも全部。全部終わるんだ。人類の歴史も未来も何もかも全部終わる。全部終わる、みんな死ぬんだ。みんな死ぬ。美人のあの子も滅茶苦茶かわいい子も、おっぱいボインボインな子も、あの子もこの子も広瀬すずちゃんも、みんな死んじまう。というか女そのものが消える。というかかわいいとか、美人とかいった概念自体が消える。概念自体が消える。全部消えちまう。全部消えちまうんだ。ああ、もう訳分からん。訳分からん。世界が滅ぶって訳分からん。あいつもこいつもみんな死ぬ。もれなく死ぬ。みんな死ぬ。みんな死ぬ。どうするどうする。俺どうする)

「贅沢?」

(贅沢?贅沢。贅沢。そうだ最後だ。人類の最後だ。思いっきり贅沢するか。贅沢するか。でも、贅沢ってなんだ?贅沢ってなんだ。真正面から考えると分からないぞ。全く分からないぞ。とりあえずうまい物食うか。なんだうまい物って。なんだ。なんだ。カップラーメン。俺はカップラーメンが好きだ。でも、体に悪い。いや、死ぬんだ。俺死ぬんだ。関係ない。体に悪いとか関係ない。もう、全然関係ない。添加物とか、化学調味料とか全然関係ない。よし、食うか。とりあえずカップラーメン食うか。いや、まて、最後の飯がカップラーメン?いくら好きだからって、それでいいのか俺。あまりにそれじゃ貧し過ぎないか。でも店とかやってねぇんじゃねぇのか。みんな逃げてるよな。ぜってぇ逃げてるよな。店なんかやってねぇよな。でも、とりあえず外出てみるか)


「あれっ?」

(みんな普通だ。みんな普通に歩いてる。みんないつものように歩いてる。なんだ?なんだ?なんでだ?みんな普通に歩いてるぞ)

「あっ」

(あいつ、作業着で会社の車乗ってる。仕事してんのか?仕事してんの?あいつ、仕事してんのか。今、この状況で仕事してんのか)

「あっ」

(あいつ、スーツ着てるあいつ。携帯でなんか話してる。絶対なんか仕事の話してる。あれは絶対仕事の電話してる。なんだ。何なんだ。どうなってる。みんな普通だぞ。いつもと変わってないぞ。どうなってるんだ。どうなってるんだ。マジでどうなってるんだ。あいつも。あいつもあいつもあいつも。みんな普通だぞ。いつも通りって顔してる。どうしたんだ。どうなってるんだ。みんな死ぬんだぞ。みんな死ぬんだぞ。っていうか世界が滅ぶんだぞ。人類が滅ぶんだぞ。なんで働いてるんだ。なんで社会が普通に回ってるんだ。俺がおかしいのか。俺がおかしいのか。俺がなんか間違ってるのか)

(まあいい、まあいい、とりあえず、飯だ。飯を食おう。この分じゃ店は確実にやってる。日本人はやっぱすげぇ。ここにきてみんな働いてる。働いてるぞ。世界が滅びるって時に、日本人働いてるぞ。普通に働いてるぞ。当たり前みたいに働いてるぞ。福一の事故でみんな慣れちまってるのか。それで、普通に働いてるのか。それにしても・・、っというか、どうする。何食う、何を食う。ラーメン?ラーメンか?)

「あっ」

(吉野家。吉野家があった。目の前に吉野家があった。どうする。時間がないかもしれない。それでもラーメン屋探すか。ラーメン屋を探すのか?とりあえずここでいいんじゃないのか。とりあえず。米だ。日本人はやっぱ米を食うべきだ。そしてなんだかんだ言って肉だ。そう肉だ。肉の方がいい。しかも牛肉だ。牛肉。でも、輸入牛肉は、成長ホルモン剤使ってるから体に悪い。体に悪いぞ。ガンになるかもしれない。いや、だから、もう関係ない。そんなもん関係ない。もっと体に悪いもんが飛んで来るんだ、すぐに死ぬような毒が、いっぱい飛んで来るんだこれから。そんなことは関係ない。全然関係ない。よし、俺は入る。吉野家へ入る)

「いらっしゃいませぇ~」

(やっぱ、やってる。普通にやってる。何やってんだ。ここの人たち。バイトとかしてる場合じゃねぇだろ。みんな死ぬんだぞ。これから死ぬんだぞ。みんな死ぬのになんでバイトとかしてんだ)

「いらっしゃいませ」

「あの、牛丼並で、あ、いや、大盛りで、大盛りで、牛丼大盛りで、味噌汁も」

「はい、かしこまりました」

(ああ、かわいい。あの子だ。いつもいるあの子だ。大内ちゃん。そう大内ちゃんだ。胸のネームプレートに書いてあった。大内ちゃん。かわいい。大内ちゃん、かわいい。ほんとにかわいい。愛想もいい。ほんとかわいい。堪らなくかわいい。なんて可憐なんだ。なんて可憐でかわいいんだ。最後に彼女の顔を見れて幸せだ。俺は幸せだ)

「お待たせしました」

(速い。やっぱ牛丼にしてよかった。時間がないんだ。放射能はすぐ来るぞ。風に乗ってすぐ来るぞ。早く食べよう)

(うん、うまい。やっぱり牛丼にしてよかった。正解だった。ここにきて正解だった。大内ちゃんにも会えたし、正解だった。うん、うまい。うまい。うまいぞ。牛丼。牛丼うま過ぎる。うまい。うまい。やっぱ体に悪いものはうまい。うまいうまい。健康のことを気にしなくていいから余計にうまい。うまい)

「まてよ」

(まてよ。今気づいた。気付いたことがあるぞ。どうせ、みんな死ぬ。死ぬんだ。だったら、大内ちゃんに好きだって言うのはどうだろうか。つき合ってくださいと言ったらどうだろうか。どうせみんな死ぬんだ。最後に告白したって全然恥ずかしくない。フラれたってどうせみんな死ぬ。何も恥ずかしいことはない。みんな死ぬ。みんな死ぬんだから。そう、みんな死ぬ。だから・・、いや、待てよ。それでもやっぱりフラれたら悲しい。やっぱり悲しい。最後に悲しい思いをして死ぬのは嫌だ。それにもし、奇跡的に付き合ってくれたとしても、みんな死ぬ。みんな死ぬ。俺たち二人も死ぬ。それはそれで悲しい。っていうか、フラれるよりそっちの方が悲しいぞ。せっかくあんなかわいい子と付き合えるのに、すぐに二人とも死んじゃうなんて、そっちの方が悲しい。やっぱダメだ。ダメだ。告白するとかそれはダメだ。っていうかそんなことしている場合じゃない。全然ない)

「ありがとうございましたぁ~」

(さあ、腹ごしらえはできた。この後どうする。逃げる?どこへ逃げる?逃げてどうする?世界のどこへ逃げたって、もう無駄だ。致死量の放射能が漏れちまってるんだ。どこにも逃げ場所なんてない。すぐに放射能がやって来る。どこに逃げたってやって来る。どこにも逃げ場所なんてない。どうする。どうする。俺どうする)

「あっ、カップル」

(おいおい、普通にデートしているぞ。しかもなんかめっちゃラブラブで楽しそうだぞ。しかも、女の方めっちゃかわいいぞ。しかもめっちゃ俺好みだぞ。くそうぅ、羨ましい。めっちゃ羨ましい。胸もデカいぞ。とても大きいぞ。くそうぅ、くそうぅ、めっちゃ羨ましい。めっちゃ羨ましい。羨まし過ぎるぅ。くっそうぅ)

「あっ」

(あの彼氏むかつくぅ~。今めっちゃドヤ顔で俺のこと見やがった。くっそうぅ、殺したろか。けちょんけちょんにぶん殴って。ボコボコにして殺したろか。くそうぅ、くそうぅ、いや、だからみんな死ぬんだ。みんな死ぬ。死ぬんだ。そうだみんな死ぬんだ。ざまぁみろ。あいつらも死ぬ。ざまぁみろ。ざまぁみろ。死ね死ね。めっちゃ苦しんで死ね。原発事故もまんざら悪くない。悪くないぞ。原発事故もいいことはある。いいことはあるぞ。みんな平等に死ぬ。むかつく奴も死ぬ。リア充な奴らも死ぬ。ざまあみろ。ざまあみろ。っていうか、だから俺はどうするんだ。これからどうするんだ)


「ふうっ」

(結局家に戻ってきちまった。どうするんだよ。どうするんだよ。死ぬ準備?死ぬ準備。どうなるんだ。死ぬんだぞ死ぬんだぞ。俺。めっちゃ怖ぇ~、怖ぇ~よ。どうする。どうするよ。ああ、なんか気分が悪くなってきた。なんか気分悪い。来たのかついに来たのか。放射能。放射能来たのか。とりあえずベッドに横になるか。やっぱ死ぬってベッドだよな)

「ん?」

(やっぱ気のせいなのか。気のせいなのか。横になったらなんか大丈夫な気もしてきたぞ。もしかして大丈夫なのか。人類滅びるとか、考え過ぎなのか。とりあえず漫画でも読むか・・)

「・・・」


「っていうか、漫画なんか読んでる場合なのか」

(でも、他に何も思いつかない。何も思いつかない。何をしたらいいんだ。みんな死ぬ。みんな死ぬ。俺も死ぬ。世界も滅ぶ。最後だ最後。世界が滅ぶんだぞ。世界が消えちまうんだぞ。他になんかもっとなんかあるだろ。もっと、何か今しなきゃいけないこと。何をする?俺何をする?貴重な時間だ。めっちゃ貴重な時間だ)

「でも、何をしていいのか全く分からん・・、分らん。全く分からん」

(いきなり、いきなりもう終わりですって、いきなり過ぎる。いきなり過ぎるぞ。世界が滅ぶのいきなり過ぎるぞ。もっと時間をくれ。時間をくれ。もっと時間が欲しい。時間だ。時間が欲しい。心の準備がしたい。心の準備が必要だ。でもムダだ。ムダだ。結局何をやっても全部ムダだ。世界が滅ぶんだ。世界が滅ぶんだ。全部ムダだ。全部が消えちまうんだ。何をやってもムダだ。何も残らない。何も残らないんだ。残してもそれを認識する奴自体がいないんだ。誰もいないんだ。世界そのもが消えちまうんだ。丸ごと消えちまうんだ。もう訳分からん。世界が滅ぶってめっちゃ訳分からん。くそうぅ、なんなんだよ。なんなんだよ。なんで、世界滅ぶんだよ。俺が死んでから滅んでくれよ。なんで俺の時代に滅ぶんだよ。全く、やめてくれよ。っていうか、なんで人類とか誕生したんだよ。滅ぶなら最初から出てくんなよ。人類とか。しかも自分たちで作った原発で滅びてるし。めっちゃバカ。めっちゃバカ人類。人類バカ過ぎる。っていうか、だから今俺は何をしたらいいんだ。どうしたらいいんだ・・)

「・・・」

(・・・)

「とりあえず、やっぱ漫画を読もう。それしか思いつかん」

(やっぱ面白れぇ。漫画面白れぇ。これ新刊来月発売だったな。めっちゃ楽しみ。早くこれの続き読みてぇ。早く来月ならねぇかな。早く来い来い来月。来月来い来い。早く来い)


「・・・」

(なんか大丈夫そうだな。何も起きない。何も変化ない。普通に漫画読めてる。もしかして滅びないのか。滅びないのか人類。なんだかんだいってやっぱ滅びないのか。福一の事故の時みたいに結局なんとかなっちゃうのか。なっちゃうのか?なんかそんな気がしてきた。なんか大丈夫な気がしてきた。これからもコンビニは二十四時間開いてるし、新聞配達のおっさんたちは近所をぐるぐる回るんだ。そうだ。そうに違いない。大丈夫だ。うん、うん、大丈夫。大丈夫だ。人類は大丈夫だ)



「ん?」

(でもやっぱり、なんか気分悪い。気分悪い気がする。やっぱり来てるのか。放射能来てるのか。目に見えないから全然分かんねぇ。くそうぅ、なんだよ、放射能、分りづれぇよ)

「あっ」

(なんか口の中がヌルっとする)

「あっ」

(歯ぐきから血が出てる。なんかめっちゃ出てる。こんなの今までなかった。今までこんなことなかった。歯槽膿漏とかじゃないよな。これはそういうやつじゃないよな。これはそういう類のじゃないよな。やっぱ来てる。やっぱ来てる。放射能来てる。めっちゃ来てる。やっぱ来てる。めっちゃ怖いぇ~。めっちゃ怖ぇ~)

「うううっ」

(なんか急にトイレ行きたくなった。めっちゃトイレ行きたくなった)

「ああっ」

(血便だ。血便が出てる。こんなの初めてだ。こんなの出るの生まれて初めてだ。どうしよう。どうしよう。赤いぞ。めっちゃ赤い。医者か。医者か。医者に行くのか)

「とりあえずベッドだ。ベッドで横になろう。落ち着け。落ち着け俺」

(くそうぅ、めっちゃはだしのゲンみたいになってる。俺はだしのゲンみたいになってる。血便出ている。血がケツから出てる。ああ、やっぱ気分わりぃ、来てる。来てる。放射能来てる。やっぱ来てる。確実に来てる。気分悪い。気分悪りぃ)

「くそうぅ」

(だから言ったんだ。だから言ったんだ。原発危ないって、放射能やばいって。だから言ったんだ。だから言ったんだ。それを、それを、みんな俺のこと笑いやがって。放射脳とかバカにしやがって。だから言ったんだ。危ないって。だから言ったんだ。でも、バカにした奴らも死ぬ。俺のことバカにした奴らも死ぬ。ざまぁみろ。ざまあみろ。死ね死ね。めっちゃ苦しんで死ね。でも俺も死ぬ。俺も死ぬ。くそうぅ、俺も死ぬ・・)



「苦しい。痛い・・」

(なんか変な痛み出て来た。なんかやばい。まじでやばい。この痛みはなんかやばい感じがする。どこの向きに寝ても痛い。痛みが引かない。これはなんかやばい。やばいぞ)



(そう言えば、JCOの臨界事故で被曝した人って、滅茶苦茶悲惨な死に方したんだよな。体が内側から腐っていって・・、何日も痛みと苦しみにのたうって・・。原爆で被爆した人たちとか、チェルノブイリ原発事故の被曝作業に関わった人たちも、何日も苦しんで、そして・・)



「うううっ」

(苦しい苦しい。病院、病院。救急車?いや、ダメだろ。っていうか多分やってねぇ。っていうか絶対やってねぇ。さすがにやってねぇ。みんな死ぬんだ。みんな死ぬんだ。死ぬしかないんだ)

「やっぱダメだ」

(携帯繋がんねぇ。やっぱダメなんだ。人類ダメなんだ。病院の人とかもみんな倒れてる。多分みんな倒れてる・・)


「み、水・・」

(ああ、水止まってる。水道止まってる。全然出ない。やっぱダメなんだ。文明ダメなんだ。くそうぅ、文明ダメなんだ・・)


「い、痛っ・・、色んなとこ痛い感じがする」

(痛い・・、なんか心臓とか、肺とか、下っ腹とか、頭とか色んなとこが痛くなってきた。やべぇ、やべぇ、なんかやべぇ。マジやべぇ。これやべぇ)


「あっ、なんだよ。これ」

(変なあざ出来てる。腕のとこ、紫色の斑点出来てる。なんだよこれ。なんだよこれ)


「息が苦しい・・」

(なんか息苦しい。なんかマジでやばいぞ。やばいこれはやばい)

「ああ、苦しい。なんかめっちゃ苦しい、気持ち悪りい・・」

(ああ、怖ぇ~、怖ぇ~、すぐに死なねぇのかよ。じわじわ来るのかよ。苦しい。苦しい。なんかめっちゃ気分悪い。どうしよう。どうしよう。自殺?自殺?そっちの方が楽かなのか?どうする。どうする。どうやって死ぬ。でも、怖え~、めっちゃ怖ぇ~。自分で死ぬなんてできねぇ。出来ねぇよ。そんなの)


「ああ、暗くなってきた・・」

(電気もつかない・・。やっぱ、そうなんだな。そうなんだ。もう、ダメなんだ。人類ダメなんだ。終わったんだ。マジで終わったんだ。文明社会終わったんだ。やっぱ終わったんだ。みんな死ぬんだ。みんな、全員死ぬんだ。なんかめっちゃ不安。明かりがないとめっちゃ不安。堪らなく不安だぞぉ)

「やっぱ、携帯もだめだ」

(やっぱダメだ。人類ダメだ。終わるんだ。終わるんだ人類。今までの人類の歴史なんなんだってくらい完全に終わるんだ。終わるんだ。完全に終わるんだ。もう何も残らないんだ。何も・・、未来もないんだ。これから先も何にもないんだ。何もないんだ)



「うわっ、なんじゃこりゃぁ」

(めっちゃ抜けてる。俺の髪、めっちゃ抜けてる)

「・・・」

(枕が真っ黒になってる・・)

「なんじゃこりゃ。なんじゃこりゃぁ~」

(マジ怖ぇ~、マジ怖ぇ~よ)


「うわっ」

(鼻血も出た。大量に出た。でもなんかもうこれくらいじゃ驚かなくなってる俺。俺、これくらいじゃ驚かなくなってる。そう言えば、福一の事故の時、鼻血問題ってあったよな。あれやっぱ放射能じゃん。俺めっちゃ鼻血出てるし・・。やっぱ御用学者最悪だな。御用学者嘘ばっかだな)



「苦しい。苦しくなってきた」

(ああ、めっちゃ気分悪ぃ~。なんだよこれ。マジできつい。放射能やっぱすげぇ。マジでやべぇ。放射能マジでやべぇぞ。誰だよ放射能大丈夫とか言ってた奴。全然大丈夫じゃねぇよ。全然大丈夫じゃねぇ。くそうぅ、御用学者、御用学者死ね。死ね御用学者)


「苦しい、苦しい。痛い。痛い」

(なんだこれ。なんなんだよ。めっちゃ苦しい、苦しい、苦しい。ありとあらゆるところが苦しい。苦しい、痛い、痛い・・、色んなとこが痛い。痛い、痛い)

「うううっ、ううううっ、めっちゃ苦しい、苦しい、助けてくれ、誰か助けてくれ、苦しい・・、痛い、苦しい」

(痛いのか苦しいのかもう訳分からなくなってきた。マジでやばい。なんだよこれ。なんだよ。早く終わってくれよ。終わってくれよ。苦しい、苦しい・・)



「ううううぅぅぅ・・」

(苦しい。やっぱ 苦しい。いつまで続くんだよ。これ、いつまで続くんだよ・・。苦しい・・、苦しい・・)



(俺・・、死ぬのか・・、俺が消えるのか・・、俺が・・、死ぬ・・、死ぬ・・)



「あっ、夜が明けてきた・・」

(また明るくなってきた・・。でもなんかもう力が入らない・・、全身に力が入らない・・)



「もういい・・」

(なんかもうどうでもよくなってきた。どうでもいい。なんかどうでもいい・・、全部どうでもいい・・、全部が滅びるんだ。全てが滅びるんだ・・、もうどうでもいい・・、全てどうでもいい・・)

「くだらん人生だったな・・」

(よく考えたら、別に生きたくもないな。こんな人生。友だちもいないし、恋人もついにできなかった。同級生にもバカにされてばっかりだったし、大した大学にも行けなかった。どうせ大した仕事にも就けないだろうし、競争とか出世とかついていけねぇし、先は知れてる。短い人生だったけど、どうせ生きたってこれからもくだらない、惨めで孤独な人生が待っているだけだ・・。年金だって俺らの世代じゃ殆どもらえないし、税金も上がる一方だし、社会保険料だって、上がる一方だ。みんな死ぬんだし、一人で惨めに死ぬよりこのこの方が良かったのかもしれないな・・)



「・・・」



「うううっ」

(またきた)

「ううううううううっ、ああああぁぁぁ、苦しい・・」




「ぎぎぎぎぎっ」




「くるしい・・」

(もう、誰か殺してくれ。殺してくれ。頼む誰か殺してくれぇ)




「ううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅ、ううううううううううううううぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ、ウうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううウううううううううううううううウううううううううううううううウうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううう、あああああああああああああああああぁぁぁぁあああああああ・・・・」






「誰か・・、殺してくれ・・、殺してくれ・・」









「苦しい・・」









「痛い・・」









「うううっ」










「・・・」







「・・・」

(そう言えば、静かだな。鳥の鳴き声すらが全然しない・・)

「みんな死んじまったのか・・、やっぱりみんな死んじまったのか・・」

(これが世界の終わりなのか・・)









              (これが現実になることを予言して) おわり 



 



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