地上と地下

バブみ道日丿宮組

お題:走る雲 制限時間:15分

地上と地下

 影踏みという世界の仕組みは人間から太陽を奪った。

 太陽の光は人間に有毒となり、地上は人間の住める場所ではなくなった。

 人間に変わって支配したのは昆虫。進化に進化を重ね、おとぎ話にでてくる巨大な猛獣へと姿を変えた。

 猛獣の身体は様々な用途に使われる。そのために全身を覆う防具を身に着けた狩人たちが地下から地上へと旅に出る。

 地上から戻った狩人は告げる。

 かつて見た空は、今や走る雲という獣へ変わった、と。

 偽りの空の元で生活してる人間にはその言葉の意味がよくわからなかった。獣は空を走らないし、雲も走らない。

 あまりにも空想めいたことを言い出す狩人が多いため、大地病と言われ病院送りになるものが後を絶たなかった。

 そのため、狩人たちは何も言わなくなった。

 ただ獲物を狩る人間へと変貌した。

 そんな姿を見て、つまらないと僕は思った。

 閉鎖的空間で生活してる僕らに体験談を持ち帰ってきてるというのに、それを否定するとはいかがなものか。そういう疑いを持ったからこそ、地下へと人間は追いやられたのではないだろうか。

 このままでは地上で暮らしてた記憶さえ消えてしまう。そう僕は考え、狩人としてではなく研究者としてついてくことを決めた。

 そして3ヶ月間に渡って地上を観察しまとめた。

 今では身体に異常が見つかり、こうして本を書くことしかできなくなった。周りは地上へなんかいくからと僕に激怒する。

 あれを見た僕としては周りにむしろ激怒する。

 あんなにも素晴らしい世界があるなんて僕は知らなかった。そしてその世界から人間が排除された理由もなんとなくわかってしまった。

 地下での生活は奪い、そして奪う。

 協力スべき相手であろうと、自分を優先する。

 地上に残された痕跡はおそらくそういった奪い合いによって生まれたものなのだろう。

 いずれ人間が地下から追い出される日も近い。

 数年、あるいは数十年……あと何年過ごせるのだろうか。

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地上と地下 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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