段ボールのツバサ・イカロス

101゛50(トビウオ)


 深夜も過ぎ、新聞の配達がそろそろ始まろうかという頃合いになってある男が思わずといった風だろうか。快哉を叫んだ。

「ついに完成した。これを使って新たな人生を歩むのだ…フフフ」

 怪しく笑う男。その視線の先には、段ボールでできたスーツとフルフェイスマスクが置かれていた。一見気が狂ってしまったのかとも思える光景である。

 しかし男は庭に運び出したのちに嬉しそうにスーツとマスクを身に着けていく。

「ここに遺伝子チップを入れればその生物の力が得られる。こんなにワクワクすることはあるまい、遂に大空を駈けるという夢が叶うのだ」

 男は口にしながらチップをトレーに乗せて押し込む。

 すると「フオン」と音がして起動したようで

「現在のチップは鳥類が入っています、よろしいですか」

 と確認されるが

「これでいい」

 と鷹揚に言い、男は大きく両手を広げて羽ばたきを打つ。すると僅かに風の流れにを感じたようだった。男はやがてコツを掴んだのか風に乗って大空へと旅立った。


 そうして眼下の街を、抜けるような青空と入道雲、普段なら見えないところを見ながら遊覧飛行を続けていると、やがて昼の一番暑い時間が過ぎた頃だろうか、男は不意にどこまで飛べるのかを試したくなった。

 思い立ったが幸いとばかりに仰角をとり上昇していく。余りにもすいすいと風を切り往くので

「こんなにも気持ちの良くなることは初めてじゃないか」

 と驚きと嬉しさが半分くらいに混ざったような言葉が出るほどであった。

 

 やがて飛行機が飛んでいるのを見つけた。そして下を見て地上を見ては

「ずいぶんと遠くまで来たものだ。ここまで来たならいっそどこまで行けるかを試そうじゃないか」

 その旅路には限界など無いように感じられもっともっと、と上昇した。

 しかしそれは突然だった。

 ぱりぱりと音が鳴る。羽が凍っていたのだ。

「これはマズイことになった」

 男は慌てて地上に戻ろうとするが、既にまともに飛行はできなくなっていた。


  光へと近づいている。そして呟いた。

 「まったく、地面に足のついた生活があんなに素晴らしいものだったとは・・・」


―――――

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段ボールのツバサ・イカロス 101゛50(トビウオ) @flyfry

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