第10話 質疑応答

「あッ――ダメダメッ、逝っちゃう逝っちゃう逝っちゃうってッ――んあッ⁉」


 ……金田の堤防が決壊けっかいしたか。


 俺の中で整理はとうに終わっていた。しかし金田の方は中々終わらず、ついさっきようやっと昇天したところだ。


 ガラガラとトイレットペーパーを巻き取る音がし、次にジャーと流水音が聞こえてきた。処理してる姿が目に浮かぶ。


「ふぅ…………どうだ? ちゃんとまとまったか? 早太郎」


「とっくにな。金田待ちだったんだよ」


「なるほどな……………………なんだろ、一人になりたい」


「賢者になってんじゃねーよッ!」


「ウソウソウソッ! ジャパニーズジョークだ早太郎……ま、ここ、日本じゃないんだけどな! プ――クフフフッ!」


「……………………」


「…………ごめん」


 ツッコみどころは満載だった。


 どこが面白いの? ジャパニーズ関係なくね? そもそも何故に今45ったの?


 しかしそれらには触れず俺は敢えて黙ることを選択した。結果、金田は沈黙に耐え兼ね早々に謝罪を口にした。


「訊いていってもいいか?」


「ああ……たがその前に一つ、頭に入れておいてもらいたいことがある」


「……なんだ?」


「早太郎の質問に対しての俺からの答えはすべて真実である……という前提をだ」


「……つまりなんだ、俺からの質問はあらかた予想がついていて、んでその答えは現実味のないものばかりと……そゆことか?」


「そうだ。故に疑う必要はなし……この方が時間効率が良いだろ?」


 確かに、疑いを晴らす時間が省略できるのは非常に効率的だ。無論、俺が金田を完全に信用すればの話だが……。


「……わかった。その前提を踏まえた上で進めよう」


「話が早くて助かる」


 金髪シスターやマッシュゴリラの放った石の矢と、非現実的な光景を俺は既に目にしてきている。だからここは――なにを今更! と開き直ることにしよう。


 そう自分に言い聞かせ、俺は早速第一の質問を金田にぶつける。


「じゃあまずは金田についてだ。俺の記憶が確かならお前は金髪シスターによって殺されたはず……なのにどうして生きている?」


「それは俺のスキル――〝繁殖はんしょく〟によるものだ」


「スキル? なんだそれ、ロールプレイングとかででてくる特殊能力みたいなやつか?」


「有り体に言えばそうだ。そして俺のスキル〝繫殖〟は金田誠という存在を千、万、億と複製することができる能力だ」


「ま、マジが……」


 初っ端からぶっ飛んだ答えが返ってきたな……これが妄想での設定じゃなく真実だというのか。


 全答真実、恐ろしや。


「マジだ。そして俺という存在はありとあらゆる世界に点在し、どんな環境にも順応じゅんのうできる――謂わば生命体の完成形。覚えておけ、金田誠の類義語は不滅・永遠だ」


「へぇ……ゴキブリみたいなもんか」


「……………………」


 どうやら俺のたとえはお気に召さなかったらしい。


「……ん? てことは俺の目の前で金〇潰されて死んだあの金田は〝別の金田〟だったってことか?」


「ご名答。俺は生き返ったりなどしていない。が、記憶は共有できる。だから金〇潰されて死んだ俺の直前の出来事も把握しているというわけだ」


「めちゃくちゃ有能だなおい」


「いや、それがそうでもない……俺の持つ〝繫殖〟のスキルを発動、維持するには膨大な力――この世界でいう魔力を必要とする。だが俺の魔力量じゃ一人を複製することもできない」


「……でも現にお前は複製されてるじゃんか」


「それは俺が〝主人〟を媒介ばいかいにスキルを行使しているからだ。逆に言えば主人が供給が断たれた時点で俺は消滅する。一長一短というやつだ」


 でたな〝主人〟。俺が次に訊こうとしていたワードだ……まぁ十中八九あの女だろうが。


「金田の言う〝主人〟ってのはあの金髪シスターだろ? あいつは何者なんだよ」


「神だ」


「そ、そうか」


 すべて真実が前提であるだけに反応に困った。


 これであの金髪シスターは自称神じゃなく本物の神となったわけだ。もちろん、金田を信じればだが……悲しいことに金田の金〇に直接触れずに潰したり、俺になんらかの術をかけてきたりと神説を補強する事実はあるんだよなぁ。


 ひとまずは金髪シスター=神、金田=ゴキブリという認識でいいだろう。たとえ全部が金田の噓だったとしても、両者が人間をやめていることは確実だからな。


「それじゃ次――転生について訊くが、普通転生ってのは出生から始まるもんだろ? けどさっき便所の鏡で確認したが映っていたのは前世の俺そのまんまだったぞ? これって転生じゃなく転移じゃないのか?」


「いいや、間違いなく転生だ。その証拠にソータロー・ハヤミという人間は皆に認知されているだろ?」


 ソータロー・ハヤミ……姓名順序が逆になっているが、それがこの世界における前任者の名前なのだろう。


「てことはなにかをトリガーにこの体の、謂わば前任者と魂が入れ替わった……とか?」


「違うな。ソータロー・ハヤミが誕生したその時から速水早太郎の魂は宿っていた。但し、主人によって意図的に眠らされていたがな。そしてつい数十分前、童貞と馬鹿にされたことを引き金にソータロー・ハヤミの魂と切り替わった。まぁ、転移だと勘違いするのも無理ないがな……眠らされている間の記憶はないのだから」


「それじゃ、切り替わった前任者の魂は今、俺の中で眠っているってことか?」


「その通りだ」


「……金髪シスターはなんでそんなめんどくさいことを?」


「さあな。あのかたがなにを考えているのか、長く付き添う俺でも見当がつかん。奇人ならぬ奇神だ、我が主人は」


 金田に奇人扱いされてるとか……どんだけだよ。


「んじゃ最初に言ってた箝口令については? あの金髪シスターになんの利点がある?」


「主人の興味の対象はあくまで早太郎。俺が目立つのは良くないと思っての独断だ」


「ほぉん、なるほどな」


 思い返せば言ってたな、あの金髪シスター。俺に興味があるだとか俺が思い描いている転生と違うだとか。


『初めからそう言ってるだろうに……なにをわめいているのやら』そう思われていそうでムカつくな。


「次で最後だ……金田、この世界について教えてくれ」


「早太郎も実際に目の当たりにしたように、ここでは剣と魔法が当たり前の顔して日常に溶け込んでいるファンタジーの世界だ。まぁ、剣と魔法については正直、珍しくもなんともないのだがな。むしろこの世界では影が薄いまである……他二つの特徴のせいでな」


「剣と魔法がかすむほどって……一体どんな特徴なんだよ」


「それはだな…………おや?」


 肝心なところで金田の言葉が止まる。


「おいおいなんだよ、もったいぶってないで早く教えてくれよ」


「ふむ……たった今その必要がなくなった」


「あぁ? 冗談よせよ、ここにきてまさかの説明放棄か? さすがにないぞ金田」


「いいや違う。百聞は一見に如かず――実際に体験してみた方が説明するよりも遥かに早い」


「はぁ? それってどういう意味――」


 ――コンコンコン。


 俺の言葉は外側からのノック音によって遮られる。


「……ソータロー、いる?」


 その声は紛れもなく赤髪の美女のものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

隣の席の女子が授業中、俺のアソコをまさぐってくるんだが。 深谷花びら大回転 @takato1017

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ