第9話 4545

「な――なに言ってるのよソータローッ⁉ バカッ――バカァッ!」


 高らかに宣言した俺に向かって、赤髪の美女は髪色に負けないくらい顔を真っ赤にして不満をぶつけてきた。どうやらガチで俺とやりたくないようだ。


 ……ちょっと前に戻って発言取り消したい。


「ふっ……さすがは〝ゴッデス〟に気に入られし存在。決め台詞一つとっても常識外れだな」


「え、なにそれ? 褒めてんの? それともけなしてんの?」


「ふッ……俺にもわからない」


「なんだお前 ――つかそんなことはどうでもいんだよ。金田、どうしてお前が生きてここにいるのか、ちゃんと説明してくれるんだよな?」


「もちろんだ」


 金田は俺に背を向けたままイエスと答えた。が、どうやらまだ続きがあるようで。


「ただここではできん。早太郎、すまないがトイレに向かってくれ、そこで落ち合おう」


「お前はどうすんだよ?」


「なに、心配するな。ことが済み次第、俺もすぐに向かう」


「……わかった。さっさと済ませろよ?」


「ああ」


 金田の短い返事を聞いてから、俺はその場を後にした。


 素直に従ったのは、俺よりも金田の方がこの世界を知っていると思ったからに他ならない。


 マッシュゴリラみたいな無法者がそこらにいるとしたら――この世界について無知であることは命をもおびやかしかねない。


 故に今の俺に必要なものは――知識だ。


     ***


「……やっと落ち着ける」


 探し回ること少々、俺はようやくトイレを見つけ個室に入った。洋式タイプだったおかげで腰を下ろせる。


 ――ガチャリ。


 それから程なくして隣の個室に誰かが入ってきた。


「――早太郎、いるか?」


 金田だ。ここに来たということは用事が終わったのだろう。


「おう、いるぜ。残ってなにやってたんだ?」


「なに、大したことじゃない。早太郎のクラスにちょっとした箝口令かんこうれいいてきただけだ」


「箝口令? 内容は?」


「〝俺が早太郎に使役されていることを他の誰にも漏らすな〟……それだけだ」


「その内容を敷くことでお前にどんな利点が?」


「俺にメリットはないが俺の〝主人〟には生まれる」


「主人? そいつは誰だ?」


「まあ待て早太郎。焦る気持ちはわかるがまずはお前自身の整理が必要だ。目まぐるしい状況の変化にパンク寸前のようだからな。前もって言っておくが俺はお前の質問から逃げたりはしない……だから安心して落ち着いてくれ」


「……金田」


 正直驚いた。まさか金田にさとされる日がくるなんて……真夏に雪が降るレベル、日本にいた時じゃ到底考えられなかったことだ。


 でも、嬉しくもあるかな。なんつーかこう、感慨深いっていうか……友の成長に込み上げてくるものがあるよな。うし、ここはお言葉に甘えさせていただくとしますか!


「……サンキューな、金田」


「ふっ……礼などいらん――俺は俺で4545して待っているから、好きなだけ整理しろ」


「……………………」


 前言撤回。やっぱコイツ、なに一つ成長してねーや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る