第8話


 成人の儀から数日が経った。 

 現在オレは大きな鞄を背負い村の正門で人を待っている。


「忘れ物はない? たまには便りも送ってね」

「大丈夫だよ母さん。便りもできるだけ小まめに書くから」


 この数日間は驚くほど早く過ぎていった。

 難航すると予想していた父さんと母さんの説得は思いの外上手くいき、というかむしろ2人とも背中を押してくれたことには感謝しきれないほど感謝している。

 ただ昨日の今日で直ぐ村を発つのは急すぎるということで、もう少しだけ居てくれと母さんにせがまれたわけだが。

 涙ぐむ母さんを宥めていると横から父さんが母さんの肩に置いた。

 

「母さん。昨日の夜ルストの前では泣かないって言ってたじゃないか」

「そっ、それでもやっぱり悲しい……じゃない」

「まったく……。ルスト達者でな」

「うん、父さんも体に気を付けて」

「あぁ。ところでそろそろ時間じゃないのか?」

「そのはずなんだけど――」

「ルスト―!」


 と丁度その時、広場の方から大きく手を振ったマリが走ってきた。

 背中にはオレと同様、大きな鞄を背負っている。


「おはよう! お待たせー」

「約束の時間とっくに過ぎてるぞ」

「寝坊しちゃったんだよね」


 タハハと笑って誤魔化すマリに1つか2つ悪態を吐いてやろうと思ったが、これしきのことで一々目くじら立ててはキリがないと悟る。

 大きく深呼吸して気持ちを切り替え、オレはマリに言った。


「じゃあ行くか」

「うん!」


 行ってきます。

 見送ってくれた父さんたちに万感の想いを込めてそう言ったオレたちは生まれ育った村をあとにした。 


「ねぇルスト。まずはどこに行く?」


 村を出てしばらく。あっという間に歩は進み、もう振り返っても村は見えないところで、ふとマリが問うてきた。

 どこに行こうか? 何をしようか? そういえば具体的なことは何も決めてなかった。

 だから思ったままのことをオレは口にしてみる。


「とりあえずこのまま歩いて着いた町で何か食べながら決めるで良いんじゃないか」

「良いね、それ」


 即答で好感触の反応が返ってくる。


「そうだ! アタシ昨日の夜、いいこと思いついたんだ。このアタシたちの旅のことを本にしたりうたにするのはどうかな? 吟遊詩人みたいに!」

「何だよそれ。スゲェ子どもっぽい」

「子どもっぽいってどういうこと!?」

「素人が書いた本やら話に誰か興味をもってくれるって考えが甘いんだって」


 素直を感想を言うと、マリは言葉に負けず劣らずブーッと子どもっぽく膨れてみせた。


「面白いと思うんだけどなぁ」

「……まぁ、面白そうではあるが」

「やっぱりルストも興味あるじゃん」


 などとマリと2人。馬鹿みたいなことを言いながらオレたちの歩みは進んでいく。 


 未来がどうなるかなんて全部わかる人なんていない。

 だから「もしも」に備えて安全な道を準備をするのは間違いじゃない。

 だけど不安や心配ばかりして、好きなことができない息苦しい生活は本当に幸せなのだろうか。

 理解されなくたって良い。

 今の自分が後悔しない選択を。

 辛くても貧しくても、いつの日かこれで良かったって笑い合える人生を。

 そんな生き方を選んでも良いんじゃないだろうか?

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クリア後の世界にロマンを見ちゃダメですか? 夜々 @YAYAIMARU8810

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