第16話 生誕祭準備開始!(喧嘩は止めてくださいね)

そうして会長の部屋から逃げ去った次の日。

その放課後に


「それでは本日から本格的に聖アルテミス生誕祭の準備を始めて行きます」


生徒会室の中で私達、五人は一つの机を囲んで座っていた。その並びは、私と三上さん、一年生二人が向かい合って、会長はいわゆるお誕生日席だった。

だから、だからこそ良く会長の顔が見えるわけで――その表情は穏やかだった。


「それに伴い、まずは全体的な業務の確認と、その割り振りを行います」


昨日、私が逃げ去ってしまった事に対して、何か怒っていたりとか、悲しんでいたりとかしていた様子はなくて、それどころか、二日酔いの気配も無い。

だからいたっていつも通りの会長だったけど――でも、だとしても、一度は謝っておきたい。どれだけ困った状況になっても、逃げちゃうのは良くないかなって思ったから。

……いや、もちろん、あのままキスされちゃっても良かっただなんてよこしまなことは思っていないけれどでもどうしてあそこで逃げちゃったのかなって思ってるしおかげさまで昨日一日眠れなかったし睡眠不足気味そのせいで授業もあまり頭に入らなかったしいやこれだと妄想ばっかりして何も手に付かなかったみたいな感じになってるけど違うから!そう言う訳じゃないから――


「宮水さま?」

「えっ、き、聞いてるよ! 聞いてる!」

「……私、何もまだ言っていないのですが」


あ、墓穴だ。


「――宮水さん?」

「は、はい」

「ちゃんと話は聞いてくださいね? ダメですからね?」


あ、やっぱりちょっと怒ってるかも。昨日の事、やっぱり起こっているかもだって怖いもん笑顔が怖いもの止めてくださいその笑顔のママニッコリ私に向いてこないで謝れるなら謝りますから、ここで謝るとか会長の秘密がばれてしまうので、何もいませんけど一年生二人に笑われてるのはちょっと心にくるので許してもらえませんかね?


「さて、話を戻しますけれど、聖アルテミス生誕祭では主に三つの業務を行う必要があります。一つ目に、各クラスごとの出し物の管理。二つ目に生徒会主催のお茶会――『果花の集い』の準備。あとは、その他を、雑務として纏めたいと思います。主に、私がスピーチをする際の原稿の準備などですね……」


……うわ、文字面だけ聞いてても分かるぐらいに、やる事が多い。何と言うか、会長の口ぶりも、どことなく重たくて……きっと、去年や一昨年の大変さが頭の中でぐるぐるしていらっしゃるんだろう……


「うヘェ……聞いてただけでもうヤバそうだ」

「ダメだよ零ちゃんそんな事言っちゃ!! 頑張らないと!!!!」

「おう分かってるからその声の音量下げろよォ……耳がキンキンすんだよ」


一年生――零ちゃんと鳴ちゃんが、そう正直に言葉を交わしていた……凸凹って感じがするけど、意外と、というか普通に仲がいいみたい。


「えぇ、二人の言う通り……生誕祭の準備は、例年相当な量の業務をこなさねばなりません。しかしこれも、生徒の皆さんが、楽しく生誕祭を行い、その上でこの学園で思い出を作る事が出来る場を提供する、大切な生徒会のお仕事です。その為、皆さんには大変な苦労を掛けることだと思いますが、頑張っていただきたいと、そう思っています」

「はい、頑張ります」

「はーい私も頑張ります!」

「……ほどほどにやりまァす」

「私の出来る限りで、お手伝いさせていただきます」


そう口々に私達が返事をすると、少しだけ会長の顔がほころんだように見えた。

……良かったです。少しだけでも、元気が出たみたいで――


「ありがとうございます――では、これから業務の割り振りを行いますね」


――そう会長が言った瞬間に、ふと――三上さんの眼が変わったように感じられた……え、なに? なんで空気まで変えてるの? オーラ切り替えて戦う戦闘民族みたいなことしてない?


「まず、前提として、今期は生徒会の人数が足りないことは確かですので、業務の割り振りを行った上でも、人が足りない所には、全員で手伝うなど柔軟に仕事を回していきます。その上で一つ目のクラスでの出し物ですが、こちらは一年生二人にお任せしたいと思います」

「ん、頑張りまァす」

「はい! 頑張りますね!」

「それで次に雑多な業務ですが、こちらは三上さんにお願いしようと思います。理由としては中等部時代生徒会長だった経験を活かしていただきたいと……まぁ、雑用になってしまうのは確かですけれど」

「構いませんよ。最大限、頑張らせていただきます」

「それで、次の『果花の集い』ですが、こちらは私が担当したいと思います。結局は、私が主に主賓の皆さんをおもてなしすることになるわけですから、私が担当した方が良いともいますが……異論はありませんか?」


その言葉には、誰も異論はあげなかった……まぁ、確かに、会長の言う通りなら、会長が担当するのが一番良いのは確かでしょうし、それに、私は『果花の集い』には当然参加したことが無いから、何も分からないのは確かだし―――




「――あと、宮水さんにもこちらを手伝っていただきます」

「――異議あり!」




――いや待って。

なんでそんなオセロみたいな裁判ゲームみたいな声をあげたの、

緊迫したBGMが流れ始めそうだよ?


「会長。今、宮水さんを『果花の集い』の手伝いに回すと、そうおっしゃいましたよね」

「えぇ、そう言いましたわ」


と、返事をした会長の眼もどこかギラギラとしていました――え、待って、正面衝突するつもりなんですか? え、なんで?


「会長の事でしょうから、何か『複雑』で『』のある割り振りをなさったのでしょう。しかしながら、雑多な業務こそ人員が必要であるのは確かでしょう。ゆえに、宮水さんが手伝うべきなのは、私と同じ雑多な業務で――」

「――異議ありですわ。『果花の集い』。それは生徒会主催であり、現体制の色を主賓の方々にきちんと示せるもっとも重要な機会です。場の空気、庭園の飾りつけ、当日の料理、そして、おもてなしを通して、OGOBやスポンサーが、当学園を見るのですから。ゆえに、人員は一人でも多い方が良く、宮水さんには『果花の集い』の準備を手伝っていただくのが一番良いと――」


え、えぇっと? もう何が起こっているのか分かったものじゃないんけど、なんで喧嘩しているの? 


「あァお熱いなァ」

「ね? ラブラブだね」

「え、ちょっと何言ってるの? どういう事なの?」


そう問いかけてもニヤニヤしたまま一年生二人も何も教えてくれない。

どうして、どうしてなの――っていうか、どうやって止めよう!


「――それでも、雑多業務の方が――」

「それでも――果花の集いの方が――」


とにかく止めないと……えぇっと、私がどっちを手伝うかで喧嘩しているんだったら、だったら私が増えればいいわけだから――


「――むむむむむむむ」

「――うむむむむむむ」

「お、落ち着いてください! 二人とも!」

「「え?」」

「人が足りないのであれば私が両方とも手伝いますから!」

「え、いえ、そう言う話ではないんですよ宮水さま」

「ちょっとぐらい大変かもしれませんけど私頑張りますから!」

「いえ、ですからそう言う話では――」

「ですので喧嘩しないでください!」

「「あ、は、はい」」


ふぅ、これで収まったよね。私が両方とも手伝えばいい話だし

――って思ってだけど、なんか二人とも微妙な顔してる……何でだろう。違ったのかな――って思った辺りで、会長がコホンと咳ばらいをして、話をまとめた。


「コホン。では、そのように割り振りますね……これから大変な日々が続くことでしょうが、皆さんで協力して乗り越えて行きましょう……!」


その言葉を皮切りに、生誕祭の準備が始まった――


「いえでもやはり宮水さんは――」

「いえいえ宮水さんは勿論――」


――二人は早く喧嘩止めてくださいね?


――――――


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生徒会長は呑んだくれっ!? 星ノ芽 ルナ @Hijyouguchi

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