第15話 お酒に呑まれちゃもう終わり

「……んくっ、んっ、ごくっん……! はぁぁぁ……! しゃぁわせぇぇっ……ですわぁぁ……!」

「あの、会長? ちょっと飲みすぎ……というか、ペースが速すぎますよ……!」


今飲み干したのが3本目のビール缶であることに、私が驚きながらそう質問をする。


「でも……お酒はガブガブのんで、しゃぁわせぇ……になるのが作法ではありませんかぁ」


というか、この返事一つとっても、ほとんど呂律が回っていなくて、私は、まぁ『サラブレット』であることと度数が低めなので大丈夫――というかまだギリギリ理性が頑張ってくれてますよ、えぇ――机一枚挟んでるのにすごくすごく会長の良い香りがして頭がクラクラしかけてますし全身結構ポカポカで頭が回ってない気もしますけどなんとかギリギリ踏ん張ってくれてるでしょう。マジで頑張って、って感じです。


――ですけど、会長の方はかなりまずいんじゃ――


「そんな作法無いと思いますよ!? むしろ、普通に考えれば、アルコール中毒の危険が高いんじゃ」

「何を言っているんですかぁ? もともと、アルコールじたいぃ毒なのですから、毒を飲んで中毒にかかるのはぁ……むしろ当たり前なんですよぉ?」

「いえ違いますからね当たり前じゃ不味いんですよ!?」


そう言い切った瞬間に、会長が手を折ろし、缶と机が軽い音を立てる。重量感の無いその音感は、缶の中身がすっからかんということを示している

と、まぁそんな時にはもう、会長の顔と頬は十分に赤く火照っていた。ニコニコしながらも左右に体が揺れていて。酔いが回っているんだなということがはっきりとわかる。


「っていうかその作法どこから学んだんですか!? いえ、まさかですけど、また――」

「もちろん、私のお付きのメイドから聞いた話なのですわぁ」


……あぁ、やっぱり……


「あのそのメイドさん―――酒癖悪いとかって言われてません?」

「……んぅ? あぁ、確かにぃ……そう言われている噂を、聞いたことはありますけどぉ」

「……ちなみに、ギャンブルがお好きだったりしませんか?」

「競馬にぃ競艇……あと、パチスロも好きと、言っておりましたわねぇ」


……あー……そっか、うん、そうなら……やっぱり契約切った方が良いと思います。

うん、マジで。マジですよ、本気です私。

自分の主人に『お酒はがばがば飲んでふわふわして幸せになるモノですよ』って教えるメイドさんヤバいですからね? 私は、やばいって思いますよ??


―――主にアルコール依存症的な観点で。


「ぷはぁっ……おいしぃ……っ」


……いや、まぁ、このお嬢様らしくないちょっと豪快めの飲み方してたらそんな風に言いたくなる気持ちは……分からないことも無いけれど……遠慮なくドンドンのみなと言いたくなる気持ちも分かるけれど……いや、でも、あぶないよね。間違いなく。


「……ふぅ……つぎ、つぎ」


―――なんて油断している間に、会長が机の上に置かれたもう一本の缶ビールを開けようとしました。まぁロング缶ではないお高めのビールではありますけど――うん、全部自分で飲むつもりなんですね、ヤバすぎますよ? 

まるでアニメの中の酒豪レベルで飲むじゃないですか。総計1L超えましたからね?


「ちょっダメです4本目は危ないですって! いくらそれがロング缶じゃないからってダメです!」

「うえぇ……なんで、ですかぁ?」

「な、なんでもなにも危ないんですってアルコールは毒なんですよ」

「そんなこといわれてもぉ……煽ったのは宮水さんじゃないですかぁ……」

「いえそんな事はし私のせいですけどとにかく落ち着いて……!」


そう言ったところで、会長の手はぐいぐいビールへと伸びて行ってしまって――あぁ、でもひとまず止めないと思って、その手をガシッと掴んで止めて――


――ん? 掴んで?


「えっ、あ、違いますこれは……!」


何やってるんでしょうか、私は。ちゃんと冷静に考えるより、早く手が先に出てしまっていた……絶対アルコールのせいだ。勝手に欲を出させないで欲しい――いや、違いますよ? 会長の手に触りたいとかそう言う欲望とか別に持っていませんから、違いますからどれだけ何重に否定すればいいんでしょうね会長……!?


「……と、とにかくダメです。危ないです」

「ど、どうしてぇ」

「どうしてって、そもそも会長っていつもそれぐらい飲んでるんですか?」

「あの、いつもこんなにのんでるんですか?」

「んん……? いいえ?」

「じゃあ尚更ダメです!」

「どうしてぇ」

「だから今理由を言ったじゃないですか!」


とことん飲みたい飲みたいと、会長が繰り返してくる。……でもなぁ、流石にいつも飲んでる量より多いのは流石に――居酒屋いえの手伝いをしてる時も、救急車で運ばれて行く人とか沢山見て来たし……ちょっと嫌だなぁ、会長が救急車で運ばれていくのは。


「いいですか? ダメなものはダメです」


そう言って、掴んだ手を一旦離してあげようとして――


「ん?」


――逆にぎゅっと握り返されてしまいました。

え、いや、え、ん? なんで?


「あの、離してくれませんか? 手」

「いやです」

「そ、そう言われましても、離してもらわないと――」

「や!」

「急に知能下がりましたね!」


正しく酔っぱらいだった――悪酔いしてる感じの、酔っぱらいになってしまわれたんです会長が……うわぁ……やっぱり飲ませすぎだったんだ……そう言えば、初めて会長の飲酒シーン見た時もこんな感じだったかもしれない……止めとけばよかった……


「じゃ、じゃあ、どうすれば離して――」

「もう一本だけぇ」

「――お返事めっちゃ早いですね! ダメって言ってるじゃないですか」

「むぅ―――おねがぁい、宮水しゃん。今日だけですからぁ」


そう会長は、私の手を掴んだまま『おねがぁい』って言葉を顔全面に出してきました。甘えるとか、ねだるとか、こんな表情できたんですかってレベルの、どんなお願いでも聞いてしまいそうになる、魔性の表情。

それに、陶酔と色気がガッツリ重なっていて――酒臭ささえ、そう、酒臭ささえなければ、首を振って正気を取り戻すことも出来なかったでしょう。


「……ダ、ダメです! 危ないですから……」


奇跡的に残った理性でもって、断固として会長に主張する……いや、だめですよそんなウルウルした目で見つめられても……多分酒飲んで体温上がっているから勝手に出てきてるだけだと思うけどダメですよ??


「う…………むぅ、わたくしは宮水さんが来てくれるからたくさん飲もうと思っていましたのにぃ」

「え?」

「だってぇ、宮水さんがいてくれればぁ……万が一中毒、があっても大丈夫でしょう?」

「え、いや、中毒になってほしくは無いんですけど?」

「その時にもぉ……救急車もちゃんと読んでくれるでしょう?」

「いやですから、会長が救急車で運ばれる所とか見たくないって言ってるじゃないですか―――なんて返事を口から出す前に、スルスルと会長が私に近づいて来る。


え、

いや、

だから、

これさっきもやったけど


――近づいて来る!? なんで!?


「わたくし……いつも頑張っておりますのよぉ? 宮水さんを生徒会にひきずりこむために、たくさんたくさん書類作ったんですのよ?」

「ひ、引きずり込むって……」

「それから監査会に審査を通して、全校集会用の原稿も作ってぇ」

「いや、まぁ、大変だったのは分かりますけど」

「……わたくし、頑張ったのですよぉ? 宮水さぁん」

「えっ、ちょっ―――なんで這い寄ってくるんですかっ!?」


正座で座布団に座っていた私へ、四つん這いで会長が近づいて来る。


「おねがぁい、ですわぁ」

「―――うひっ!?」


そして、そのままグリグリ私の二の腕に頭を擦り付けてくる。


―――え?? 

―――いや待って意味わかんない??

―――どういうこと??


「ねぇ? 今日ぐらい、良いではありませんかぁ? わたくし、ちゃあんと頑張ったんですのよぉ?」

「えっ、ひゃっ、まっ!」

「たまにはバカみたいに飲んで、疲れをいやす必要がありますわぁ」

「いやそうかもしれませんけど1%ぐらいでそうかもしれませんけど!?」

「えぇ……宮水さんは頑固なんですからぁ――ふぅっ」

「うひゃっ!?」


―――耳に息を吹きかけられた―――んだけどっ!? なぜに!?


「みやみずさん……ねぇ、みやみずさぁん?」


待って待って本当に意味わかんないなんでこうなってるのなんで子猫みたいに擦り寄られて甘えられてるの全然意味わかんないんだけどうわぁ待って胸を当てて来ないで抱き着いてこないで絡まないでくださいねぇどうしちゃったんですか会長!!?


「お、ね、がぁい……もう一本だけ……のませてくださいな」


するっ、と

ピタリ、と制服ごしに密着した所から、体温が伝わってくる。

ポテッ、と火照った頬が、


―――なんか、唇が迫ってきているのは、気のせいだよね???


「…………んっ」

「えっいや『んっ』じゃないんですけど!? なんでキスしようとしてきてるんですか!?えっいや待って待ってください会長!?」


もう何も考えずに口からスルスル静止の言葉が飛び出てくるけれど、それじゃあ会長は止まってくれない――あぁどうして忘れていたんだろう。

――そうだ。会長は多分酔うとキス魔になるタイプの人なんだった!


「ちょ、ちょっと……本当に、会長……っ」


だから、だからもう――唇と唇の距離が縮んでいく。


「だ、め、ですって」


1m。50cm。


「本当、ほんとに」


―――10cm。8cm、5、3。


「――――だ」


そして、そして後―――1cm―――












「―――だ、だだだだだだダメです!!」

「きゃっ」


気付いた時に私は――会長を突き飛ばしていた。繋がれていた手を振り払って、空いていた手も使って、必死に。それはもう、会長のおへそが出てしまうぐらいに勢いよく、会長を突き放して――


「わ、わわわたし! かかかかえりますからぁっ!」


逃げ帰るように会長の部屋から飛び出す直前に――


「…………けち」


――って言葉が聞こえてきたけど、絶対気のせいだよね会長がそんなことを言う訳ないから!


――――いくらこれ以上飲めないからって!

――――悪態なんかつかないよね! 






――――――――――――

お読みいただきありがとうございました!

次回から二章に入りまして、本格的に生徒会のお仕事が始まっていきます!

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