第40話 ありがとう
新学期になり、2年に進級しても
そこについに来てしまった。
「よっ
はぁ…
てことは、そう。
「梢ちゃん、ついに同じクラスだね!」
「
「あぁ、俺もー!」
止めろ、バカップル。
でも、この2人が変わらないなら、今までと変わらないな。
「お前らは元気だこと」
「まぁね~♪」
「俺と梢ちゃんがいれば、八は寂しくないだろ?」
「寂しくない分、疲れが凄いしうるさいわ」
「うるさいだなんて!賑やかでしょ!」
オーノー、何とかしてくれ。
毒づくけど、本当は同じクラスで嬉しかったのは内緒にしておこう。
※
久しぶりにあの場所に来た。
「変わらないな」
ここでの思い出は忘れない。
心地よい風だが、ちょっと冷たい。
木々を見ると桜がちらほら。
君がいなくなってから、初めての屋上。
もう、いないんだな。
しみじみ感じていると、女子生徒が1人いた。
靴の色は緑、1年か。
双眼鏡を持ってなんか見ている。
うん、関わらない方が良いな。
教室に戻ろう。
踵を返すと「おめ、だいだ(誰だ)?」と声をかけられた。
見つかった。しかも訛ってる。
「お前こそ」
「おらはピカピカの1年!JKってやつだ!」
言葉遣いからしてJKとは程遠い。
それはさておき。
「そうじゃなくて」
「なめえ(名前)が?おらのなめえっこは、
ふーん…無の感情になる。
「あっそ、じゃあな」
すると高巣はぷりぷりと怒った。
「待ででば!おめさんも名のれし!」
「はあ?」
「名のれ名のれ!」
やれやれと、呆れる俺。
「あのさ、俺先輩」
「ほだが(本当か)!?そいだば(それは)
「まぁ良いけど。俺は
こんな訛り女子に自己紹介をするとはな。
というか、変な後輩が入学してきたもんだ。
「八先輩だな!おべだ(覚えた)!」
なんなんだ。
見た目は可愛いといえば可愛い方なんじゃないのか。
ただ、おかっぱの髪型はなんとも言えん。
しゃべると残念系女子とでも言おう。
「なんが、おらのごどバガにしてねが?」
「いやいや」
こいつ恐るべし。
俺の心は駄々漏れなのかと疑う。
気を付けよう。
「んじゃ、本当にこれで」
「おめさん、もしがしで、これ探しでだが?」
高巣は封筒を俺に見せてきた。
「手紙?」
知らない、なんのことだ?
「なめっこ聞いで、おめさんのだっで!ほら見でみ」
手紙を受けとると、俺宛だ。
見覚えのある字体…。
「まさか!」
「んぉ?」
表ばかり気をとられてしまったが裏を見ると驚き絶句する。
「なんで…」
君からの手紙だった。
「大事なもんだべ?今読むど良い」
「あのなぁ」
「そんた気がすんの!信じでみんしゃい!」
促されるままに、開けてみた。
「おらは戻る」
「当たり前だ」
「泣ぐなよ?」
「うるせえ」
変なお節介女子め。
でも、ありがとさん。
※
高巣ののか side
双眼鏡で雲や山や木にとまる鳥や猫ちゃんを堪能中に来だあの先輩。
でも、その前に見づげだあの手紙。
先輩の名前を聞いで宛名と同じ人ど思った。
丁寧に書かれてっから、大切な人に書いだのが伝わっでぎだ。
どこさあっだがというと、古い机が1つあっで、なんが入ってねえがなー?って覗いだっげあったのや。
おらは先輩とバイバイして、ドアを開げるど、まだ知らない人。
今度は男女2人。
そして直ぐに直感が働いた。
「もしがしで、あの先輩の友達ですが?」
「そうだけど?」
と眼鏡男子。
「今は行がない方が良いっすよ」
「なんでよ?」
とツインテール女子。
「手紙読んでらがら。先輩が泣いだら行っであげで下さい」
「「えっ」」
「では失礼しまーす」
タタタッと屋上を出で、教室におらは戻っだ。
中身は見でないけど、見なぐでも分がる。
読んだら絶対泣ぐど思うがら、あの先輩は。
※
手紙を開けたまでは良かった。
2つ折りにしてある便箋を開けられない。
手がぷるぷると震える。
何が書かれてあるのか、謝っていたら、違うと思えても、もう伝えることは出来ない。
とても読むのが怖くなる。
でもー…。
深呼吸をして、意を決して開いた。
あたたかい言葉が、つらつらと書かれていて、俺への想いが駄々漏れで、照れくさくて、嬉しくて、泣きたくなってきた。
『平幡八君へ
病院にお見舞いに来てくれたわぁちゃんに、屋上に置いてとお願いして託したお手紙です。
今、読んでるってことは、私はいないってことだね。
そして、何も知らない生徒や先生に、この手紙が捨てられていないのであれば、なお良しです。
たくさんたくさん、私の願いを叶えてくれて、彩り豊かにしてくれて、ありがとう。
八君と屋上で出逢ったからだね。
出逢った人があなたで本当に良かった。
恋の相手、初恋の人が、あなたで本当に良かった。
来世で、もしまた出逢ったら、おじいちゃんおばあちゃんになっても、ずっと一緒にいたいな。
なんて、言ったら可笑しいかな。
梢ちゃんと七滝君と仲良くね!
わぁちゃんと大ちゃんのことよろしくね!
あと、めぐ姉のことは特に!
実は、本当に良い人を見つけたらしく…なので、変な虫だったら、尾沢さんにも協力してもらって別れさせてね!絶対だよ!
では、さよならは言わないから、ここで筆を置きます。
またね、八君。 和より
P.S.
私のことは気にせず、良い人がいたら幸せ掴んでね。
あと、学校の先生になるんだよ!約束守ってね!』
止めどなく、堪えようとしても、涙は止まらない。
梢と七滝に先輩方のことは分かった、でも君の姉に関してはどうだろう。
何かあれば
君のことを1番でも良いって言ってくれる人がいたら…。
なかなか見つからないな、一生独身かもな。
まぁそれも悪かない。
忘れてた、あの約束。覚えていたとはな。
最後に…。こちらの方こそ、だよ。
こんな俺を好きになってくれて、感謝しかない。
こんなどうしようもないヤツなのに、あんなに優しくしてくれて、仲良くしてもらって…。
かけがえのない思い出を、たくさんたくさん、ありがとう。
本当に本当に本当にー…ありがとう。
空を見上げると、ゆっくりと雲が流れていた。
そして、ふわりと、穏やかな優しい風が吹いた。
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