第39話 またね
ほぼ毎日、学校が終わってから
もれなく、入院している子どもたちといつの間にか仲良くなっていた。
和とは前みたいに他愛ない会話をして、子どもたちがきた時は読み聞かせをしたり、遊んだりした。
そんなある日のこと。
「
「うーん、普通かな」
弟がいるから、年下というか子どもに苦手意識はない。
ただ、ずっと相手をしていると疲れるから、ほどよくかわすこともある。
そうやって、向き合っている。
「楽しそうだよ?」
「そうか?」
「そうだよ!」
和は自信を持てと言っているような感じを受ける。
小さい子どもとの接し方が上手いってよく言われてきてはいるが、意識はしていない。
「学校の先生、似合いそう」
突然、先生というワードが飛び込んでビビる。
「えっ?無理無理」
教えるとか、出来ない出来ない。
と思っていると、ズイッと和の顔が俺の目の前にきた。
ドキドキしてきた、離れてくれ。
「無理じゃないよ!」
力強く言って和は離れた。
ふぅ…やれやれ。
でも、煽てるな。
何にも出ないぞ。
「優しいから、大丈夫だと思うけどなぁ」
「優しさだけでは、先生になっちゃいけないさ」
「そうかなぁ?」
和さん、とんでもないこと言わないで。
うーんと和は考えて、ハッとして顔を上げた。
「私のいうことを聞くと良いことあるよ!」
目をキラキラさせといて、突然なにを言ってんの!?
おそるおそる質問する。
「言う通りにすると、良いことあるのか?」
「うん!ある!」
どこからそんな自信が出てくるんだ?
「信じてみんしゃい!」
「うぉっ!?」
また顔が近くなる。
「約束」
「えーっと、はい」
「よしよし!」
満足そうな顔をして和は離れた。
ふぅ…心臓が止まるかと思った。
※
いつものように病棟に行くと、入院している子どもの1人・
「健太、走る所じゃないよ」
「ごめん、でもねでもね!」
様子がおかしい。一体どうしたんだ。
「落ち着け、どうした?」
「今日は和ちゃん部屋から出てないの」
えっ…。思考が止まる。
「みんなで様子を見に行ったらね、具合が悪いからって」
「そっ…か…」
「それでね」
「ん?」
『八君が来たら、部屋に来てって伝えてね』
そう和が子どもたちに伝言を託したそうだ。
「分かった、ありがとう」
「八兄ちゃん」
「なんだ?」
健太は必死に何か大切なことを俺に訴えた。
「来れる時は来てね、話せる時は話してね、絶対だよ?」
長く入院しているからなのか、いろんな人たちを見てきた健太の言葉が重たくのし掛かる。
「絶対な、分かった」
健太は安心した表情になり「またね」と言って他の子達がいるデイルームに戻って行った。
※
扉をノックすると中から「どうぞ」と声が聞こえた。
静かに開けると「そろそろ来ると思った」と言って、笑顔で出迎えてくれた和。
個室に移っていた。
「車椅子?」
「長く歩けなくて、でも立ったり座ったりは出来るよ」
体力が落ちたのか。
「なぁ、具合大丈夫か?」
「八君が来てくれたから大丈夫!」
質問の仕方を間違えた。
大丈夫ですかと聞けば、大丈夫と返ってくるに決まってる。
病室から見える景色は田畑が広がっていて、山々もよく見えた。緑一色だ。
「景色良いな」
「んだね」
元々小柄な和だが、前に比べて小さく見える。
もう、時間が限られてきているんだな。
すると、和は自力で車椅子から立ち上がった。
「無理するなよ」
「うん」
和は俺の手を握った。
冷たい手、体温も低いのかな。
「あったかい手」
「そうかな」
「離したくないな」
そんなことを言われたら、余計に辛い。
「八君」
勇気を振り絞るように。
「こっち向いて」
言われた通りに和の方を向くとー…。
優しく微笑む和。
やっぱり、年上、なんだな。
いや、俺が、ヘタレだからか?
鼓動が激しくて言葉は出なかったけど、和を優しく抱き締めていた。
「またな」
「うん、またね」
最初で最後の、
そして、これが、和との最後の1日となった。
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