第38話 今
何を話そうか、考えながら病棟についた。
エレベーターを降りると、子どもの声が聞こえてきた。
「大きな大きなケーキを、動物たちは仲良く食べることにしました」
この声は…。
デイルームを覗くと、その人はいた。
体重が減ったのか、前より痩せてしまっていて、頬は少しほっそりしている。
絵本の読み聞かせを邪魔しないよう、終わるまで隅で待つことにした。
「「「お姉ちゃんまたねー!」」」
「またね!」
子どもたちはそれぞれの部屋へ戻っていった。
俺はすぐ動いた。
「
「…!?」
彼女は、驚きを隠せないといわんばかり、思い切り見開いて。
「どう…して…」
「見舞い」
今にも泣きそうな顔。
「まず、話そうか」
和は頷いた。
※
沈黙を破るように俺から言った。
「何で本当のことを言ってくれなかった?」
「…」
なかなか言わない和。
「言いたくないなら、いいよ」
ふるふると和は首を横に振った。
「怖かった…」
和の声が掠れる。
「本当のことを言ったら、嫌われると思った…だから、」
俺は彼女の言葉を遮って言った。
「嫌わない」
「えっ」
目を丸くする和。
「嫌うわけないだろう?言ってもらった方が良かった」
「そう…なの?」
半信半疑の和。
だから、力強くこう言った。
「俺と和の関係は、そんなことで壊れない。自信ある」
「
こんなことで壊れるなら、とっくにどこかで壊れてる。
「辛かったろう、寂しくなかったか?」
「ぅっ…うぅっ…」
優しく和の頭を撫でた。
「ごめんね、本当に…ごめん…なさい…」
和は泣いていた。
「和は悪くない。全部俺が悪い」
「そんなこと、」
「嘘、ついてたから」
「八、君…?」
踏み出す時がきた。
※
「花火大会の時、覚えてるか?」
「もちろん。楽しかったし、花火は綺麗だったよね」
「その時にさ、和は俺に言ったよな?」
そう、俺が謝らなければならないことは、あの時のことだ。
「あの時、花火の音で聞こえなかったって言ったけど」
深呼吸を1つ挟む。
「音で聞こえなかった、でも、口の動きでなんとなく理解はしていたんだ」
「…!?」
和は驚いた顔になる。
そりゃ驚くよな。
「ごめん、はぐらかして」
和は1度俯いて、それからゆっくり顔を上げて、俺を見た。
「じゃぁ、聞かせて」
君は少しだけ俺に近づいた。
「今、返事して」
トクン…。
じっと和は俺を見詰める。
気圧されそうになるが、そらさない。
ちゃんと伝えるって決めてここにいるから。
「遅くなったけど、」
きっと受け止めてくれるはずだ。
「好きだよ、和」
やっと…やっと、言えた。
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