第37話 番外編 其の五 坂町梢 side
あいつは小さい頃から大人しくて臆病者。
良い所といえば、優しい所。
幼稚園の時、電車のおもちゃで喧嘩する子達に「他の電車も使って一緒に遊べば」と言って解決して、転んだ子には「大丈夫?」と言っておぶろうとしたり(そしたら先生に怒られてた)。
小学校の時、みんなが嫌がることを押し付けられても文句を言わずに黙々とこなしていたり、校外学習や修学旅行では「行きたい所ないから」と言って、みんなの行きたい所について行くのみ。
中学校は別々とはいえ、風の噂で本人にとって大きな出来事があって傷ついたことは知っていた。
だから私はあいつを傷つけた人を取っ捕まえて言葉で圧力をかけてやった。
あいつは何も言わない言えないと思って、聞いてムカついたし善は急げでこらしめただけ。
そして、高校でなごみんを通して再会。
本当にびっくりした。
相変わらずだった。
ただ、なごみんと出会ったからなのか、表情は柔らかくなった気がした。
※
自己紹介の時に倒れたなごみん。
席が近かったからおぶって保健室まで運んだ。
「あとは私が見てるから戻りなさい」
「失礼します」
保健室の先生の言葉を信用して、この時は教室に戻った。
しばらくすると、なごみんは俯いて教室に戻って来たので真っ先に私は話しかけた。
「あなた大丈夫?」
「あっ…はい」
何か怯えているような。
「ねえ、もう1度教えて名前」
「…
可愛い名前。なごみ、なごみ…と少し逡巡する。
そして、私は、1つ閃いた。
「和…なごみん!」
「えっ?」
彼女は驚いた顔になる。
「私は
私は手を差し出した。
目を丸くするなごみんは、少し落ち着いてからこう言った。
「あっ…はい!」
少しだけ表情が良くなり、私の手を握った。
なごみんの手は冷たかった。
あれ?保健室にいなかったっけ?
でも、そんなこと、どうでもいいや。
私となごみんは直ぐに仲良くなった。
他の友達よりも、なごみんと一緒にいた方が楽しかった。
可愛くて優しくて守ってあげたくなる小動物のような女の子。
そんなある日、屋上で知り合った人と勉強するから一緒に行こうと誘われた。
どういう人なのか。
悪い虫ならなごみんを連れて即帰る決意で行ったら、あいつだった。
あいつの隣にはイケメン眼鏡男子の
カッコいい…。
ちょっとクラっときた。
この出会いが運命だったなんて、なごみんに感謝。
それから4人で一緒にいることが当たり前になっていた。
海を見に行った時、龍ちゃんとコンビニに行って、なごみんとあいつを2人きりにした。
これで一気に進展すると思ったら、半歩しか進まず。
この後も、話を聞くとガッカリして、あいつのヘタレっぷりにイライラした。
夏休みになごみんと2人で遊んだ時のこと。
ショッピングセンターで可愛い服を見て試着したり、本屋にいって漫画コーナーで盛り上がり、ゲームコーナーでクレーンゲームに悪戦苦闘したり。
とても楽しかった。たくさん笑った。
帰りに公園に寄って、ブランコに乗った。
「やっぱブランコ好きー!」
「私もー!」
キーコー、キーコー。
ブランコを楽しんでいると、なごみんの様子が変化した。
意を決したように「梢ちゃん、聞いて」と真剣な顔でなごみんは私を見た。
私もちゃんとしようとブランコで遊ぶのを止めた。
「ベンチに座らない?」
「んだね」
ベンチに座ってから、なごみんは深呼吸をしてから、今までのことを、本当のことを語り出した。
衝撃的だったけど、思ったことを言った。
「これからは何かあったら直ぐ言うこと!」
「うっ、うん」
「あと、これからも変わらずなごみんって呼ぶし、いつも通り接するし!1つ歳違うだけで気にする必要ないし!1年早く生まれようがなんだろうが、同じクラスなんだから同級生に変わりなし!以上!」
捲し立てたような気がする、大丈夫かなと心配すると、なごみんはすすり泣きし出した。
「あっごめん!勢いでその…」
慌てて慰めようとすると、なごみんは首を横に振った。
「違うの、嬉しくて」
「なごみん…」
泣き出したから不安になったけど、大丈夫なようで一安心。
「ありがとう、梢ちゃん」
「こちらこそ、話してくれてありがとう」
本当の意味で、私となごみんは親友になった。
どんなことがあっても、なごみんのことを大切にしようと決めて、何かあったら助けるって決めた。
あとは、あいつを何とかしなきゃと思っていたけど、なごみんのタイムリミットが迫っていたことにショックを受けた。
そして、あいつが本当のことを知り、学校に数日来なかった。
やっと来たかと思えば、辛気くさくて情けない顔をしていて、イライラしたから昼休みに会いに行った。
胸ぐらを掴むまではしたけど、ひっぱたく勇気がなくて、でもあいつのことを覚まさなきゃならないって思っていたら、龍ちゃんがあいつの胸ぐらを掴む私の手を優しく離してくれた。
そして、彼はあいつを1発殴った。
そしたら、やっと覚めて、あいつはなごみんの所に向かった。
「龍ちゃん、龍ちゃん…私、わたっし…」
「梢ちゃん、大丈夫だから」
「うぅっ…」
「よしよし」
涙が止まらない。
なごみんを思うと、あいつを思うと、辛く悲しい。
誰か、助けてよ、あの2人を幸せにしてー…。
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