第36話 後悔、そして…
本当の話を聞いた次の日、俺は学校を休んだ。
心はぐちゃぐちゃだった。
「兄ちゃん」
弟が部屋のドア越しに話しかけてきた。
「
「僕、学校行くよ?」
「ご飯食べなくても死なんから」
「うん」
「気をつけろよ」
「行ってきます」
弟はパタパタと家を出た。
仰向けになって天井にある黒い染みをじっと見る。
「…」
これから俺は学校に希望なんて持てない。
どんなに友達がいようと、先輩がいようと、行ったら君との思い出が、思い出したくなくても浮かんできて辛くなる。
もう絶望の場所となりそうで、嫌だ。
あんなに楽しかったのに、あんなにたくさん笑って、一緒にいれる時には必ず隣に寄り添ったのに。
気付けなかった自分に腹が立つ。
君の想いに応えるのが怖くて逃げていた自分を呪いたい。
悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。
どうしたらいいのか、分からない。
俺は誰もいない家で、悲痛な思いを、大きな声となって吐き出した。
※
『とりあえず学校来い』ということで、心の整理がつかないまま、それを抱えながら、重たい体を引きずるように学校に着いた。
坂道を登っている時、君が隣にいないことに気付く。
実感せざるを得ない。
そうだ、思い出した。クリスマスにプレゼントしたヘアピンが、君の胸ポケットにあったこと。
嬉しかった。
でも、気の利いた事が言えず触れなかった。
嬉しいよありがとうを言えば良かった。
昇降口ではまた1つ思い出す。
初めて会った日、放課後ここでばったり会って君は俺を見て逃げた。
君を見失って諦めて、いつもの喫茶店に行くと、そこにいた。
そこでようやく、話すようになったんだよな。
教室に行くと「おはようさん」と七滝が出迎えてくれた。
「うっす」
「顔死んでるぞ」
「察してくれ」
久しぶりの教室に何の感情もなく、真っ直ぐ自分の席に着いた。
あれよあれよと昼休み。
午前中の授業なんて記憶にはない。
教科書を開いたのか、黒板の内容を書き写したか、全く記憶にない。
「大丈夫か?」
「大丈夫に見えるか?」
「そうは見えない」
帰りたい感情が沸々と沸く。
「俺、お前もう学校来ないと思ってた」
「来年度、どうかな」
「おい…」
気力がなくなり欠けているその時、教室の扉をバンと開く音が響いた。
大きな音に体がビクッと反応した。
入ってきた人の足音が、俺に近づいてくるのが分かった。
「
「…
怖い顔で俺を見下ろしている。
「あんた、今まで何してたの?」
「別に」
会話したくない、ほっといてくれ。
すると、いきなり胸ぐらを掴まれた。
「男顔負けなことすんな」
気迫が凄い。早くその手を離してくれ梢。
「情けない顔しないでよ!バカッ面晒すな!」
思い切り怒鳴られた。
「早く、早く…行きなさいよ…」
何を言って…。
「なごみん…待ってるって…あんたのこと…」
涙を流しながら俺に訴える梢。
「でも…」
来るなって…。
「でももクソもヘッタクレもないから!」
「梢ちゃん」
俺の胸ぐらを掴んでいる梢の手を、七滝はそっと掴む。
すると、梢の手に力がなくなり離してくれた。
「うぅっ…」
ずっと泣く梢。
それでも俺はまだ覚めない。
「八、悪い」
「えっ」
顔に衝撃がきて、倒れた。
1発殴られた。
「これで覚めたか?」
俺は……………
ゆっくりと体を起こして立ち上がり、急いで筆箱などを鞄に突っ込む。
「ここは俺がなんとかする、行け」
「ああ」
持つべきは友達、そうだな。
教室を出る前に、1度振り返る。
「
「何だ?」
爽やかな顔は、今は優しい表情になっている。
いつもの顔はやっぱりムカつくけどさ。
でも、うん。
「ありがとう」
「どういたしまして」
親友がお前で本当に良かった。
俺は教室を後にした。
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