第36話 後悔、そして…

 本当の話を聞いた次の日、俺は学校を休んだ。

 心はぐちゃぐちゃだった。


「兄ちゃん」


 弟が部屋のドア越しに話しかけてきた。


敦穂とんぼ…そっとしといてくれ」

「僕、学校行くよ?」

「ご飯食べなくても死なんから」

「うん」

「気をつけろよ」

「行ってきます」


 弟はパタパタと家を出た。

 仰向けになって天井にある黒い染みをじっと見る。


「…」


 これから俺は学校に希望なんて持てない。

 どんなに友達がいようと、先輩がいようと、行ったら君との思い出が、思い出したくなくても浮かんできて辛くなる。

 もう絶望の場所となりそうで、嫌だ。

 あんなに楽しかったのに、あんなにたくさん笑って、一緒にいれる時には必ず隣に寄り添ったのに。


 気付けなかった自分に腹が立つ。


 君の想いに応えるのが怖くて逃げていた自分を呪いたい。


 悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。


 どうしたらいいのか、分からない。


 俺は誰もいない家で、悲痛な思いを、大きな声となって吐き出した。



 七滝ななたきからメッセージアプリで連絡があった。

 『とりあえず学校来い』ということで、心の整理がつかないまま、それを抱えながら、重たい体を引きずるように学校に着いた。

 坂道を登っている時、君が隣にいないことに気付く。

 実感せざるを得ない。

 そうだ、思い出した。クリスマスにプレゼントしたヘアピンが、君の胸ポケットにあったこと。

 嬉しかった。

 でも、気の利いた事が言えず触れなかった。

 嬉しいよありがとうを言えば良かった。

 昇降口ではまた1つ思い出す。

 初めて会った日、放課後ここでばったり会って君は俺を見て逃げた。

 君を見失って諦めて、いつもの喫茶店に行くと、そこにいた。

 そこでようやく、話すようになったんだよな。

 教室に行くと「おはようさん」と七滝が出迎えてくれた。


「うっす」

「顔死んでるぞ」

「察してくれ」


 久しぶりの教室に何の感情もなく、真っ直ぐ自分の席に着いた。

 あれよあれよと昼休み。

 午前中の授業なんて記憶にはない。

 教科書を開いたのか、黒板の内容を書き写したか、全く記憶にない。


「大丈夫か?」

「大丈夫に見えるか?」

「そうは見えない」


 帰りたい感情が沸々と沸く。


「俺、お前もう学校来ないと思ってた」

「来年度、どうかな」

「おい…」


 気力がなくなり欠けているその時、教室の扉をバンと開く音が響いた。

 大きな音に体がビクッと反応した。

 入ってきた人の足音が、俺に近づいてくるのが分かった。


はち!」

「…こずえ


 怖い顔で俺を見下ろしている。


「あんた、今まで何してたの?」

「別に」


 会話したくない、ほっといてくれ。

 すると、いきなり胸ぐらを掴まれた。


「男顔負けなことすんな」


 気迫が凄い。早くその手を離してくれ梢。


「情けない顔しないでよ!バカッ面晒すな!」


 思い切り怒鳴られた。


「早く、早く…行きなさいよ…」


 何を言って…。


「なごみん…待ってるって…あんたのこと…」


 涙を流しながら俺に訴える梢。


「でも…」


 来るなって…。


「でももクソもヘッタクレもないから!」

「梢ちゃん」


 俺の胸ぐらを掴んでいる梢の手を、七滝はそっと掴む。

 すると、梢の手に力がなくなり離してくれた。


「うぅっ…」


 ずっと泣く梢。

 それでも俺はまだ覚めない。


「八、悪い」

「えっ」


 顔に衝撃がきて、倒れた。

 1発殴られた。


「これで覚めたか?」


 俺は……………


 ゆっくりと体を起こして立ち上がり、急いで筆箱などを鞄に突っ込む。


「ここは俺がなんとかする、行け」

「ああ」


 持つべきは友達、そうだな。

 教室を出る前に、1度振り返る。


りゅう

「何だ?」


 爽やかな顔は、今は優しい表情になっている。

 いつもの顔はやっぱりムカつくけどさ。

 でも、うん。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 親友がお前で本当に良かった。


 俺は教室を後にした。

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