第35話 番外編 其の四 尾沢さり side
あの子が喫茶店・
ずぶ濡れで店内に入ってきたから驚いた。
「大丈夫?傘は?」
そう言いながらタオルを渡した。
「ないです、忘れました」
暗く元気がない。
「とりあえず、カウンター席に座って!」
黙って彼はカウンター席に座った。
「はい、あったかいミルク」
「すみません」
「こういう時はありがとうで良いの」
「ぁっ…はい」
彼はホットミルクを一口飲んだ。
深いため息が出た。
「何かあったの?」
「俺が悪いんです」
彼が言うには、昨日女子生徒に図書室に呼び出されたから行った。
誰もいないその場所で突然告白をされた。
すると彼は、相手のことを人となりを全く知らないから断った。
そしたらその女の子は大きな声で泣いて出て行った。
「あらら…」
「それで今日学校行ったら、友達がヤバいぞお前!って言って、裏サイトを見せてきたんです」
スマホを取り出し画面を見せてきた。
見てみると酷かった。
「バカにされました」
ふざけた遊びのターゲットにされたのか。
「最低な女ね」
「良いんです、もう」
元気出して、気にしないで、なんて言えない。
「学校、行きたくないっす」
これは、重症だ。
どうしよう、と困っていると。
「だったら行かない方がいい」
珍しい人が奥から姿を現した。
「マスター?」
ここの店主・
黒と白髪が混ざったグレーヘアで、眼鏡をかけていて、口髭を生やして、ザ・おじ様である。
めったに出て来ないので本当にびっくり。
「その分、行きづらくなるが、どうするかは君が決めなさい」
それだけ角司さんは言って奥に戻った。
「…」
彼は少し考え始めた。
様子を見ること5分。
「帰ります」
「えっ?」
もう帰るの!?
「あの、」
彼はこう言った。
「行きたくない日とか放課後、来ても良いですか?」
入店した彼と今の彼はもう別人。
「もちろん!場所が見つけづらいから、他の中学生は全く来ないし、安心して!」
「…ありがとうございます」
「いえいえ」
良かった、元気が出て。
「あと、ホットミルクっていくらですか?」
「いいわよ、サービス」
「でも」
「あなたは優しいってことが分かったから、今日のこともあるし、常連になってくれるなら嬉しいし!いつでも来て良いからね」
彼はほっとした表情に。
「はい、ありがとうございます」
それから彼は常連客になった。
無口で寡黙、話すとわりと毒を吐くこともあるそんな彼。
高校生になってからも来てくれて、お姉さんは嬉しいです。
そして、
愛が彼に和ちゃんのことを話した日。
彼が帰った後のこと。
「語りすぎたかな?」
珍しく不安がる愛。
「大丈夫だよ」
あの子は意外と心は丈夫だから。
「あのずぶ濡れ坊やがあの子だったとはね」
「良い子でしょ?」
「うん、文句なし」
そう言って愛はふぅーとひと息つく。
「さりの言う通り、とても優しい子だ」
「そうそう」
「優しいから、和に何かあった時にそれを伝えたら潰れそうだ」
「んだね」
「心の整理の意味でも、連れてけば良かったかな?」
「たぶん自分で行くよ、和ちゃんの所に」
「王子様か」
「和ちゃんにとってはね」
大人が手助けするより、ここは見守ることに徹した方がいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます