第30話 時間の流れ

 2月のある日のこと。

 男子共がそわそわしていた。

 俺は動じない。

 ふりです。

 心の中はめちゃくちゃそわそわしています。


「今日が平日で良かった」

りゅうはどうせたくさんだろ」

「ふっ、たくさんはいらん」

「はぁ?」


 ドヤ顔で彼はこう言った。


を有り難く受け取る。これぞ彼氏としての礼儀とけじめ」

「ふーん」


 やっぱりな、アホ。


「ムードのある情景が目に浮かぶ」


 お前、本当に本当に、学年末テスト落ちろ。


「毒吐いた?」

「バレたか」

「毒吐いて貰わなきゃ、な?」

「待ってるんかい!」


 高校生になっても、義理でも良いから1つは欲しいもの、かもしれない。

 もうお分かりでしょう?

 バレンタインデーです。

 誰が作ったんだか、男を惑わし、天と地の分岐点となるこの日を。

 まあ、今は友チョコだなんだとあるから、何でもありなんだろうけど。

 やっぱり1つは欲しいよね?

 好きな人気になる人からは特に、頂けるのなら頂きたいものだ。



 放課後の喫茶店・みずうみ


「はい、はち君どうぞ」

「ありがとう」


 目の前にいるなごみから貰った。


「お口に合うか分からないけど」

「頑張って作ったんだろ?」

「もちろん!」

「なら美味しいさ」


 可愛らしくラッピングされた箱。


「これ聞いて良いのかわかんないんだが…」

「?」


 なんだろうって顔をする和。

 今から言う言葉を聞いたらどんな反応になるのか。

 ゆっくりと俺は言った。


「本命?」

「!!」


 真っ赤になった和。大丈夫か?


「は、はい、そう、でひゅっ」


 ん?噛んだか?


「もう聞くなんてずるい!」


 怒られたー!?


「悪かった悪かった」

「うぅっ」


 涙目にならないで!

 懸命になだめることに徹した。

 思ったこと、反応が可愛すぎるだろ!



 2月下旬。 各クラス、最後の一致団結。

 絆が試される(?)、球技大会が行われていた。

 俺のクラスは順調に男子はバスケで、女子はバレーで準決勝まできていた。


「ここを越えると決勝、そこで勝てば優勝!」


 熱血大好き七滝ななたき君。


「俺はメンバーじゃないから頑張れや」

「卓球、おつ」

「うるせぇわ!」


 個人戦とダブルスで出た卓球。

 準々決勝で敗退しました。

 健闘したと思って前向きに。


「勝てよ」

「当たり前さ!クラスのた…」


 あれ?区切った。

 七滝の目線を追うと、あっなるほど、そゆこと。


「龍ちゃーん!頑張ってー!」

こずえちゃーん!頑張るよー!」


 あれ?てことは…。


「よしっ!梢ちゃんにカッコいい俺を見てもらうために頑張る!」


 クラスのためにが、梢のために大幅変更しやがった。

 愛の力で、クラスの運命を良好にしてくれ。

 はぁ…お幸せに。



「あら八、出る競技ないの?」

「ないから来た」

「お疲れ様、八君!」

「ありがとう」


 和と梢と一緒に七滝が出ているバスケの試合を見守っていた。


「頑張ってー!」

「はーい!」


 梢の応援を原動力にその都度シュートを決めて、スリーポイントまで決める七滝は天才か。


「七滝君って弱点ないのかな?」


 俺もそう思っていたな、最初の頃は。

 だが、しかし。


「そんなのあるだろ」


 彼を知れば分かること。


「あるの?」


 和は首を傾げる。

 まだ分からないか。なら答えを言おう。


「あぁ、なるほどぉ」


 納得した和。


「愛ですね」

「愛ですな」


 俺と和は頷いた。


「はぁ…うっとりするくらいカッコいい!」


 キャッキャッしている梢の様子を見て、このままそっと離れても問題ないと判断。

 和の肩をポンと叩く。


「?」

「しーっ」


 俺と和はそっと体育館を後にした。



「終わる頃に戻れば大丈夫だろう」

「んだね」


 こっそり2人で屋上にいた。


「んーっ!寒いねー」

「太陽あるからマシかな」


 ここに来る前に教室に寄ってコートを取って着てからここにいる。


「ねぇ八君?」

「なんだ?」


 和は微笑みながら、確認するようにこう言った。


「ここで会ったんだよね、私と八君」

「急にどうした?」


 おかしなことを言うなーと思いつつ。


「なんか振り返りたくなって」

「なんだそりゃ」


 どうしたんだよ、本当に。

 でも、和の言う通り、ここで会ったんだ、君に。


「なぁ、泣いていた理由、そろそろ解禁しないか?」

「どーしよっかなー?」


 とぼける和。


「遊ぶな」

「ふふふ」


 楽しくて他愛ない会話。


「じゃんけんして勝ったらね」

「言い出しっぺは大抵負ける」

「そんなの知らないなー」


 とか言って、じゃんけん開始。


「「じゃーんけーん、ぽん!!」」


 俺はグー、和はチョキ。


「ほらな」

「ほんとだー!」


 ちょっと悔しがる和。


「では、お約束通りに」

「承知しました八さまー」


 何故か一礼をした和。


「あの時ね、自己紹介で緊張し過ぎてね」

「うん」

「倒れたの」

「えっ?」

「気付いたら保健室のベッドの上」

「そうだったのか」

「だから恥ずかしくなって泣きながら飛び出して、屋上にいたの」


 繊細だな、和は。

 とっさに俺は和の頭を撫でた。


「八君?」

「頑張ったのに倒れたとか、そりゃ恥ずかしいよなって思って」

「ありがとう、八君」


 いつ見ても守ってあげたくなる、それが君。

 よしよし、と。


「お願い」


 俯いた和。


「今だけ、今だけ…」


 どうした?

 和は俺に抱き付いてきた。


「和?」

「お願い、何も聞かないで、このまま」


 だから受け入れて、優しく抱き締めた。

 しばらく無言でいた。

 チャイムが鳴った。


「時間、だな」

「あっ、うん」


 離れた俺たち。


「ごめんね、いきなり」

「ううん、大丈夫」

「ありがとう、八君」

「さっ戻るぞ」

「うん!」


 何もなかったように屋上を出た。


 体育館に戻ると、出入り口にいた先生に怒られた。

 が、すみませんと2人で言って頭を下げている時に、目を合わせて笑い合った。

 男子のバスケと女子のバレーは準決勝を突破したが、3年生には勝てずどちらも準優勝に終わったとのこと。

 クラス応援も良いが、こっそり抜け出すのも悪くない。

 そう思った。



「おーい梢ー」

「何よ八?」


 当たりが強いな。


「和は?」

「なごみん?休みよ」

「3月、1回も来てなくないか?」

「それは、その…」


 なんか知ってんな。


「言え」

「嫌」

「なんで」

「約束守る」

「おいおい」


 和、口止めしてんのか。


「言え」

「嫌なことはいーや!」

「分かったよ」


 諦めた。教室に戻ろう。


「ちょっと」

「なに?」

「…今日なごみんのお姉さん、喫茶店の尾沢おざわさんに会いに行くらしいから聞いてみたら?」


 なるほど。

 自分からは言えないから、姉に聞けということか。


「ありがとう」

「内緒よ、なごみんに言わないでよね」

「分かった分かった」


 守秘義務は守りますとも。

 授業中はあまり集中が出来なかった。

 早く放課後になれ。

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