第29話 帰ろうとしたらばったり

 初詣を済ませて、さあ帰ろうと思っていたら見覚えのある人を見つけた。


「「あっ…」」


 赤を基調とした着物を着ていたなごみがいた。

 なにを着ても似合うな。

 和服だから、美人に見える。

 ドキドキしてきた。


「初詣?」

「まあな」


 ちょっとぎこちない。何で?


「あっそうだ!」


 思い出したように和はこう一言。


「あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとう」


 そうだった、忘れていた。

 新年のご挨拶は大事だよな。


「今から帰るの?」

「そうだけど?」


 和は少々考えてから「今から付き合って!」と言った。

 だから、彼女の後をついていくと、顔を真っ赤にしたべろべろの人が、ベンチに座っていた。


「あけおめ~♪」


 出来上がっていた和の姉・めぐみさん。


「ごめんね、こんな姉で」

「もう分かってるから」

「何々?私の前でイチャつかないでよー。今、傷心中だから~」

「誰とも付き合ってないくせに」

「和ちゃーん?」

「はいはい」


 この姉、ある意味最強かも。


「ところで、おみくじ引いた?」

「まだだけど?」


 姉が酔っ払っていたため、1人で行けずにいた和。

 とりあえず俺は「まずくじ引こう」と言って、一緒におみくじを引きに行った。

 後からゆっくりと愛さんは歩いて来た。


「何が出るのかな~?」


 小さい子供のように、あどけなく、ワクワクした表情でくじを開くのを楽しみにしている和。

 さあ開くぞっていう、この瞬間が楽しみだよな。

 ドキドキしながらいっせーのーで!と開いた。


「やった!大大吉ー!」

「あら、良いじゃない♪良かったねー!」


 和の嬉しそうな顔にほっこり。

 俺はというと。


「…」


 絶句した。

 姉妹はそっと俺のくじの結果を覗く。


はち君はー…あら」と和。

「おぉ…御愁傷様~」と愛さん。


 大大凶。何ですかこれ、美味しいの?


「結んでくる」

「私も!」


 大大凶、はっ?ではあるが、それ以前に。


 “大切な何かが消える年”


 このことに引っ掛かった。

 何でもない、そう願って。

 伸びた枝におみくじを結んだ。


「これでマシになれば良いが」

「大丈夫大丈夫!悪いことの後は運が上がる予兆っていうし」

「だと良いな」

「元気出して!」

「ありがとう」


 初詣から躓く俺だったが、新年早々に和に会えたからいっか。



 3学期、1年間の集大成。

 大きなイベントは球技大会のみ。

 あとは、各部活と各委員会の引き継ぎのオンパレード。

 最後に卒業式、終了式、離任式と駆け抜ける。


 俺はまだ気付かない。

 音もたてずに、消えていく。

 それは、取り返しのつかないこと。

 向き合うなら今なのに…。

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