第24話 楽しいはずなのに 後編

「では実行委員長から結果発表です!」


 もう1日目は終わろうとしていた。

 まずステージ発表は案の定、3年生のクラスが上位を独占して、明日も発表となった。

 そしてカラオケ大会は上位5人が明日も歌うことになっているが、2位まで発表を終えた。

 残るは1位のみ。


「第1回カラオケ大会の優勝者は!」


 ドラムロールが鳴り響く。

 数十秒鳴ると。


「栄光を掴んだ人はー・・・」


 デゲデン、ドラムロールが終わる。


十田とだなごみさんです!」


 盛大な拍手に会場は包まれた。

 和が優勝。なんてこった。

 ステージに立った和がいた。

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている。


「今の気持ちは?」

「驚いています、良いんですか私で」

「もちろん!」


 さらに拍手。


「ありがとうございます」


 ペコペコ頭を下げる和だった。



 2日目の文化祭。

 教室前の受付担当となった俺は、客が来る度に「2名様でーす」「3名様で1人お子さんいまーす」とかを教室にいるクラスメイトに言って、テーブル案内をスムーズに進めていた。

 回転率は凄まじく、出入りも凄かった。

 当番制のためそろそろ交代のはず。


平幡ひらはた、交代」

「おう」


 同じクラスの男子と交代した。

 さて、メッセージアプリを開く。


『隣のクラスにいて待ってる』


 と七滝ななたきから来ていた。

 隣のクラスとは、和とこずえのクラスのこと。

 お隣なので目と鼻の先。列が出来ていた。

 並ぶか。

 最後尾に並び待つこと10分。

 じりじりと前進していてあっという間に感じた。


「いらっしゃいませご主人様!」


 お腹が痛い、止めてくれ。

 辺りを見渡して手を上げている七滝を見つけた。


「くつろいでんな」

「楽しいからな」


 向かいに座る。

 一息つこうとしたら出来なかった。


はち君!」

「!?」


 言葉が出てこない。

 本当に定番の可愛らしいメイド服に身を包んでいた。

 何故か黒のタイツを履いている。

 うん、靴下でも良かったのでは?

 絶対領域とかあるだろ?なんて変なことが浮かんだのは謝罪しよう。


「可愛い?」

「はい、とても」


 こんなに似合う子はいないな。


「よっ八!」

「はいはい」


 梢も和と同じメイド服で現れた。


「感想を」

りゅうに聞いてみろ」

「恥ずかしいから、代わりにあんたに聞いたの」

「俺は龍の代弁者ではない」

「梢ちゃん、君は素敵だよ」


 あーロマンチック(またの名をキモい)七滝さん発動。


「龍ちゃん」


 梢、ときめく。

 だろうな、人前で七滝はひざまづき、梢の手を取っているからな。


「可愛いよ梢ちゃん」

「龍ちゃん!」


 ミュージカルが始まりそう。

 呆れているとじっと和は俺を見ていた。


「ちゃんと言って」

「はい?」


 和がニコッとした表情で圧をかけてきた。

 ちょっと困惑する俺。


「もう一度聞きます、可愛い?」


 あっ、そういうこと。

 俺は席から立ち、和と向き合う。


「八、ついにか!」

「そうよね!」


 やめろバカップル。からかうな。

 俺は意を決して、そっと和の頭をポンポン。


「可愛いぞ」


 こんなんで良いのかな?

 周りから祝福ともとれる小さな拍手が沸いた。

 恥ずかしいです、やめて下さい。


「あっ、ありがとう!」


 パァッと笑顔になった和。

 ルンルンで厨房に行ってしまった。


「八、やるじゃない。見直した!」


 梢はそう言って俺の背中を強く叩いて和の後を追った。


「俺も負けてらんないな」


 と七滝がポツリ。


「いやいや、龍に勝てんし」

「勉強以外は同等だと思うが」

「嫌味」

「あはは!」


 ため息を吐いて、その後は自然と野郎2人で談笑していた。



 閉会式が終わり、文化祭の日程が終了した。

 非現実の世界から現実へ戻る時が来てしまったようだ。

 帰りのホームルームも終わり、皆帰った。

 俺はというと、とある場所にいた。


「お待たせ!」

「うん」


 和が来た。


「うわぁ、綺麗な夕日だね」

「だな」


 山しか見えないここは、俺と和が出会った場所。

 屋上にいた。


「それで、どうした?」

「なんとなく」

「なんだそりゃ」

「えへへ♪」


 どんな理由であれ、君が指定した所に必ず行く。

 どこへでも。


「結局一緒に回れなかったね」


 都合が合えば一緒にと思っていたが叶わず。

 ふと、思い付く。


「今からどうだ?」

「えっ?」


 俺は和の手を引いて屋上を後にした。



 誰もいなくなった校舎を2人で見て回った。


「ここはお化け屋敷!」

「お化けのいない屋敷」

「それ言ったらダメだよ!」


 黒い布に覆われた教室。一体どんなお化けがいたのやら。


「覗いてみるか?」

「無理、嫌」

「あっ後ろ」

「えっ!?」


 大きな声を出して驚きビビる和。


「嘘」

「八君ったら!」

「悪い悪い」


 可愛い反応をするから、ついつい。

 次の所へ行く。


「図書委員の古本市だ」

「へぇー、こんなのあったのか」


 教室に入ると、表紙カバーのない文庫本やぼろぼろの親書に書籍、漫画や絵本もあった。


「いろんな世代が来てもいいように、か」

「来たかった」

「確かに」


 他には、席書大会や読書感想文で賞をもらった作品がズラリとあった展示コーナーの教室、夏休みから研究してきたことをまとめたコーナーの教室もあった。

 各部活動の手作りのフェルト作品やキルト作品、絵、創作小説などもあった。

 一通り見て回ってしまった。


「こんなにあったんだね」

「知らない所で頑張っていた人達がいたんだな」

「そうだね」


 自然と玄関に来ていた。


「このまま帰るか」

「うん」


 俺達は下校することにした。

 帰りも文化祭の話で盛り上がった。


「終わってほしくなかったなぁ」

「なんで?」

「それはね…」


 すると何か言いたげに、でも飲み込んだのか、和は苦笑。


「黙秘で」

「出た」

「ふふ」


 意味深だったから気になるが、黙秘されるとどうすることもできない。


「いつか話してくれ」

「話したくなったらね」


 この時に無理にでも聞き出せば良かったのかな。

 そうしたら、時間の使い方が変わっていたのかもしれない。

 この後悔は後に襲うこととなる。

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