第23話 楽しいはずなのに 中編

 文化祭1日目。

 在校生全員、体育館にいた。

 文化祭の開会宣言をした花野はなの先輩は、真面目から豪快ないつもの先輩に戻り、高らかにこう言った。


「それでは皆様、ステージ発表を開催しまーす!」


 こうして始まった各クラスのステージ発表の幕が上がった。



 審査員の先生方は真剣にどこか楽しく生徒達の催しを見ていた。

 まあ3年生は最後なので忖度するようだが、皆分かっている。

 分かった上でそれでも目立ちたがりの生徒達を認めないといけないし、きちんと審査する。

 俺は眠気に襲われていた。飽きていたのだ。


「寝るなよーはち


 と七滝ななたき


「もうダメだ」


 すると七滝は俺の足を思い切り踏んだ。


「痛ッ!」

「頼むから起きてろ、そろそろだから!」


 さっきから何を言って…。


「ほら、見ろよ」

「えっ…」


 ステージの真ん中に、なごみがいた。


りゅう、クラスの出し物は?」

「そんなのとっくに終わって、今はカラオケ大会だぞ」


 いつの間に。本当に寝ていたのかも。

 て、そんなことはどうでもいい。


「知っていたのか?」

「知っていたけど、八に言わないでって十田とださんが」

「そうか」


 おいおい大丈夫なのか?倒れたら必ず行くけど。


「何を歌うんですか?」


 司会の文化祭実行委員の男子生徒が和に問う。

 なんか近いような、離れろアイツ。


「はい、流行りの曲は分からないので、少し懐メロを」


 和は緊張しているのか、ずっと下を向いたまま。


「では早速歌ってもらいましょう!」


 司会がはけた後、イントロが流れた。

 柔らかく優しい歌声が体育館中に響きわたった。

 聴き心地良く、いつまでも聴いていられる。

 和の一生懸命に心を込めて歌っている姿に、健気だなと思った。

 歌っている時にふと目が合ったような、気のせいか。

 が、目が合った瞬間にドキッとした。

 そして、2人だけの世界に感じた。

 もっと近くで聴きたい。

 そう思っていると、夢から覚める時がきた。


「ありがとうございました」


 和は一礼。すると拍手が起こった。



 君が人前に出るなんて驚いた。

 自己紹介で失敗した、と言っていたから、前に出ることが苦手なのではないかと思っていた。

 だが、君には度胸というものがあって、それで克服したのだろうか。

 とても良かった。本当に良かった。

 ただ、どこか挑戦の意味には感じられなかった。

 そう、これで最後、という雰囲気。

 やり残しのないよう片っ端からやる中の1つ。

 そう、感じた。

 そして、これは推測なんだが、俺の為に歌ったのかな、と。

 自惚れだろうか。

 あとで、たくさん褒めてやりたい。

 頭を撫でてやりたい、これは嫌かな。

 でも必ず頭を撫でてやる。

 この日を忘れない。ありがとう、和。

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