第20話 微力ながらご協力をさせて頂きました

 生徒会選挙は、今週は立候補の受付期間で自薦他薦問わない。

 来週になると立候補者が公示されて、月曜から木曜まで選挙活動、金曜日に投票が行われる。

 花野はなの先輩は生徒会長に立候補。

 ライバルは大したことない人と先輩は言っていた。

 選挙公約はまとめるだけ。1年かけて練り上げたらしい。

 どんだけなりたいの?生徒会長って大変そうだぞ。

 投票当日の立合演説会では、推薦人は誰が立つのか。

 それはさておき、俺は本当に助っ人のようなもの。

 お役に立てるか分かりませんが。



 選挙活動って朝からなんだな。

 いつもゆっくり登校するが、この4日間は早寝早起きである。

 登校時間帯の30分前には学校に到着。

 朝だけ親に送ってもらうので感謝。


「おはよう八坊はちぼう!」

「おはようございます」


 花野先輩がご到着。

 俺への呼び方は気にしないでくれ。

 いつの間にかそう呼ばれるようになり、訂正するのが面倒で諦めた。


「おはよう!お姉ちゃん!八君!」


 和も到着。


「あともう1人来るから」


 誰だろう?


和歌わか、おはよう!」

だいちゃん!」


 先輩と同じ学年だろう。丸刈りの体格がしっかりしている男子生徒が来た。


「君たちかい、和歌の後輩」

「はじめまして平幡ひらはたです」

「はじめまして十田とだです」

「俺は犬館いぬだて大!よろしく」


 なんかマスコットのような見た目だな。


「大ちゃんはね、小学校の時からの幼馴染で、気が付いたら小学校から高校まで同じクラスでずっと一緒なんだよ」


 楽しそうに花野先輩は話す。


「1度もクラスが別々になったことないんですか?」

「ないよ!凄いでしょ!」


 自慢話に聞こえるんだが。語る花野先輩はどこか嬉しそう。

 和はニコニコしながら聞きつつ、「八君」と小声で話しかけてきた。


「お姉ちゃん、犬館先輩の事が好きなんだけど、犬館先輩は全く気付いてなくて」

「なんですと?」

「鈍感なんだよ、犬館先輩」


 なんとなく分かる。恋には疎そうだ。

 花野先輩の犬館先輩に対する好きはあからさま。

 一方の犬館先輩は優しく見守るお兄さんにしか見えない。


「さて、頑張るよー!おー!」


 花野先輩の気合いの入った掛け声を合図に選挙活動が始まった。



 選挙活動を元気良く行った花野先輩。

 楽しそうに在校生徒に「清き一票をー!」と大音声で呼び掛けた。

 放課後はグラウンドで部活動に励む生徒達には、遠くに聞こえるように、拡声器を使って呼び掛けた。

 俺と犬館先輩は登下校の時間帯に「花野和歌さんに清き一票をよろしくお願いします」と呼び掛けた。

 和は花野先輩と演説内容を一緒に考えたり相談事にのったりとサポートに裏方に徹した。

 ライバル生徒は活発に動いてはいるが、どこか本気が分からなかった。

 少し不気味である。

 でも気にしていても仕方がない。考えないようにしよう。


「よし、終わり」

「はい」


 選挙活動4日目、最終日。


「八君、今から一緒にどっかで話さない?」

「良いですけど」


 犬館先輩どうしたんですか急に。


「いい場所ってある?」

「ありますよ」


 あの場所しかないっしょ。



「いらっしゃーい!あら男の子同士じゃない!」

「どうも」

「はじめまして」

「ゆっくりしてってねー!」


 尾沢おざわさんが変わらず素敵な笑顔で迎えてくれた。

 いい場所といえば、そう喫茶店・みずうみ

 ここ以外、考えられない。

 いつもの振り子時計の近くの席に座った。

 向かいに先輩。マナー違反?上だ下だはあとにしてくれ。


「ここ良いねぇ」

「行きつけっす」

「行きつけがあるってカッコいい」

「そうですかね」


 ちょっとドヤりそうになるが、それは目上の方に失礼だから抑える。


「はい、アイスコーヒーとミルクティーです!」

「「ありがとうございます」」

「ごゆっくり~」


 先輩はミルクティーを頼んだ。

 イメージはブラックコーヒーかと思ったが、人は見た目で判断してはいけませんね。


「さて、話なんだけどさ」


 犬館先輩から切り出した。


「和歌に言いたい事があって、選挙後がベストかなと」

「はい」

「落選した場合は更に時間置くけどさ」

「あの、何をお伝えに?」


 まさか、告白、とか?


「俺って見た感じ読み取れなかったり、鈍感とか思われてるけど、気付いてるから和歌の気持ちを」


 おっ!まさかの事実!


「だから、そろそろ応えようと思って」

「そうでしたか」


 花野先輩、倒れるんじゃね。


「タイミングは何回もあったけど言えなくてね」

「なんか、分かります」


 俺もです、和への気持ちを伝えたいけど言えない。


「てことは和ちゃんか」


 体がビクッと大きく反応した。


「図星」

「バレますか」

「見てれば分かる」


 犬館先輩って勘が超鋭くて、観察力というか洞察力がずば抜けていそう。見た目は真逆に思われてるのにね。


「お互い頑張ろう」

「うっす」


 男同士の会話は、恋バナとなりました。

 気持ちがスッキリして良かった。



 投票は終了し、放課後になり、先輩方と結果待ちをしていた。


「早く、早くして!」

「そろそろだと思うけど」

「あっ来たよ!」


 選挙管理委員2人が模造紙を持って現れた。

 壁にその模造紙をセロテープで四つ角をペタペタ。


「あっ…」


 結果は、一目瞭然。


「よっしゃあああー!!!」


 花野先輩が当選した。こうして生徒会長になったのだ。


「これで私が生徒会長、やりたい放題できる!」


 この人、当選したから目がキラキラしている。


「犬館先輩」

「あっうん」

「ファイトっす」

「ありがとう」


 先輩方を2人きりにすべく、「和、ちょっと」と言って、そっと和と一緒にその場から離れた。

 この後どうなったかは後日知った。

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