第17話 大輪の花

 祭りを俺となごみは満喫していた。

 屋台は坂道にあって、両脇にズラリと並んでいる。

 これはこれで圧巻といえる。

 最初はどんな屋台が並んでいるのかをゆっくり登りながら見て、目星をつけてから、ピンポイントで屋台を巡った。

 焼きそばを食べて、金魚すくいや射的にくじ引き、型抜き、わたあめを買った。

 メインのきらびやかな山車は練り歩く前に、駅前のロータリーに集まった。

 圧巻だった。歓声も凄い。

 商店街に向かうと、町内ごとに山車と共に練り歩いていた。

 ただ歩くのではなく、大人から子供まで幅広い世代が、町内それぞれの受け継がれた伝統の躍りとお囃子を披露する。

 活気ある賑やかなお囃子、落ち着いたゆっくりのお囃子。町内それぞれ色がはっきりしていて飽きない。

 両脇にいる見に来た地元民や観光客を沸かせた。

 腕時計を見ると、時間はあっという間に過ぎ去っていたことに気がついた。


「そろそろ花火を見に行くか?場所の確保もあるし」

「んだね。でも待って!寄りたい屋台があるからいい?」

「分かった、そうしようか」


 和の寄りたい屋台へ向かって歩き出す。

 また手を繋いだ。

 やはりドキドキする。もう持たないな。

 倒れそうだ。

 そんなことが頭の中で支配されていると、もう目的の場所に着いた。


「これ、これが欲しくて」


 彼女が指さした先に、甘い香りが漂う、真っ赤で艶々なあれ。


「分かった」


 俺はそれを1つ買ってきて彼女に渡した。


「お土産」

「あはは、ありがとう」


 棒に刺さった、地元では定番中の定番。


 いちご飴


 大きめのいちごが飴でコーティングされていて、光に照らすと輝いている。

 食べると、りんごとは違って、甘さに酸っぱさがある。


「甘酸っぱい、美味しい」


 嬉しそうに食べる君の横顔に魅とれてしまった。


はち君?」


 不思議そうにこちらを見上げてきた。

 うっ上目遣いではないか、目をそらしたくなる。


「一口ほしいとか?」


 えっ…。

 すると、いちご飴を俺の方に向けてきた。

 口元に近付いてくる。


「あっ、いや、大丈夫」


 間接キスは、思春期の男子には刺激的だ。


「和の分がなくなるから食べなさい」

「親みたい」


 くすくす笑う和。


「とにかく食べなさい」

「はーい」


 いちご飴はご主人の元に帰った。一安心。

 ううっ…デートって神経使うし、頭がくらくらするな。

 相手は好きな人だから、余計にな。

 俺の気持ちは露知らずの和は、美味しくいちご飴に舌鼓だった。



 道の駅の隣に坂があり、そこを下ると広い駐車場がある。

 そこで俺たちは花火を見ることにする。

 雰囲気は今か今かと待ちわびている。


『それでは花火大会を開始致します』


 アナウンスが響いた。

 そして、ひゅぅ~っという音が聞こえて、一発。

 どーんっと花火が打ち上がった。


「綺麗だね」

「だな」


 確かに綺麗な打ち上げ花火。

 でも・・・ここは察してくれ。


「これから5分待ちだね」

「毎年のことだからな」


 そう、5分か10分後に花火が打ち上がるのは当たり前。田舎なんで。

 連続で花火が打ち上がるのは本当の最後。

 ゆっくりと一発ずつ花火は打ち上がった。


 ひゅぅ~、どーん


 ひゅぅ~、どーん


「眠くなっちゃうね」

「待ちくたびれて、ことんってな」

「うんうん!」


 楽しく会話をしながら花火を待ち、打ち上がると花火を見て。

 繰り返すこと1時間。


「そろそろ終わりだな」

「名残惜しくなりそう」


 そうだな、分かる。

 花火が終わると、今日はお仕舞い。

 学校が始まるまで会えない。

 シンデレラは無事に帰宅させないと。

 草履、片方置いていかないように、なんてな。


「あっ、きたよ!」


 終わりの合図が打ち上がった。


 どーん、どーん、どどーん


 何十発もの花火が連続で打ち上がる。圧巻だ。


「これで夢から覚めるね」

「えっ?」


 不思議なことを和は言う。


「八君、夢が終わる前に、聞いて」

「?」


 和の顔を、目を真っ直ぐ見た。


「…」


 口がぱくぱく動いているが、花火の音で聞こえなかった。

 聞こえなかったのは本当。

 でも、口の動きでなんとなく理解はしていた。


 が、俺は。


『花火大会、終わります』


 終わりのアナウンスが聞こえた。


「ごめん、聞こえなかった」


 嘘をついた。


「そっ…か…」


 がっかりする君。


「じゃあ、また今度、ちゃんと言うね」


 悲しそうな顔を押し消した複雑ななんともいえない表情。


 大輪の花は見ていたはずだ。

 俺たちのことを。


 後からじわりじわりと理解する。


 この日を後悔することに。


 ちゃんと言ってやれば良かった、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る