第14話 君のことをもっと知りたい

 体育祭の後は流れるように過ぎ去り、学期末テストでは現状維持で終わり、夏休みを無事に迎えた。

 部活に入ってはいない為、暇な日々は続く。

 宿題?それは終わらせた。

 夏休みが始まる1週間前から宿題のある科目は全て配られていた。

 だから、渡された日からさっさと終わらせたということである。

 残しているのは読書感想文のみ。

 これは、ぼちぼちやるとして。

 おかげさまで、ごろごろ出来る、ずっと寝ていられる。

 ただやはり、することがないから困る。

 スマホから着信音が鳴った。誰だ?

 画面を見ると七滝ななたきからだった。

 メッセージアプリを開くと、こんなことが書かれていた。


『今度の日曜、海を見に出掛けないか?』

『野郎2人はキツい。止めとけ。』

『いやいや、十田とださんたち呼ぶから』


 ドキッと、鼓動が大きく打つ。

 あの借り物競争事件から意識している人・十田。

 あの日以来、実は会わなかった。

 どんな顔していれば良いのやら、分からなくて怖くて。


『とりあえず、集合場所や時間は後で。んじゃ』


 七滝は何を考えてんだ、全く。

 心が少しざわついた。



 日曜日。待ち合わせ場所に、集合時間の30分前に着いた。

 ざわざわ、うろうろ。

 人通りが多すぎる場所だな、駅だからな。

 そわそわし過ぎて落ち着かない。

 久しぶりに会うから緊張している。

 仮病で帰ろうかな。本当に逃げたい。

 そんな気持ちでいると。


「「あっ」」


 十田がいた。いつの間に。


「おっす」

「おっ、おはよう!」


 いつも通りなんだが、少し緊張感がある。


「久しぶりだな」

「うっ、うん」


 互いに黙った。ダメだ、何を言えば良いのか、頭の中が真っ白だ。

 話題が思い付かない。

 あぁ、早く来てくれ七滝とこずえ

 十田と一緒に他2人を待つ。

 会話はない。

 緊張感が張り詰めていて、外部の音は一切耳に入らない。

 無言のまま待つと、七滝と梢は集合時間の10分前に到着した。

 全員揃った所でバスに乗って出発した。

 1番後ろに座り、向かって右側から俺、七滝、梢、十田の並びとなった。

 十田と梢は楽しそうに会話をしている。

 バスに揺られていると少し眠気が襲ってきた。

 そんな時、七滝が話しかけてきた。


「緊張してるのか?」

「なんだよ」


 七滝はくつくつと肩を揺らして笑っている。


「おかしいから」

「うるせぇ」


 そんなにバレバレか?


「落ち着け、チャンスは必ずくる」

「何を言ってんだ?」

「その内わかる」


 まさか、七滝と梢は何か企んでんな?

 やれやれ。ため息をつくと、眠気はどこかへいってしまった。



 バスから降りて、今度は電車に乗って降りて、またバスに揺られて数時間。


「うわぁー!」

「すごーい!」


 女子2人は海を見るやはしゃいでいる。

 一方、野郎2人は借りたパラソルの下にいた。

 普通、逆じゃね?


「男同士、相合い傘」

「気持ち悪い」

「あはは、だな!」


 ケラケラ笑っている七滝にちょっとだけイラッ。


「聞いても良いか?」

「何を?」


 グイッと顔を近付けてきた。えっ何々!?


「十田さんのこと、どう思ってんだよ?」


 グサリと心に突き刺さった。

 七滝は離れた。


「自分の気持ちに素直になれよ」


 七滝はそれだけ言って、女子2人の所に向かった。

 彼女のことをどう思っているのか。

 言葉に表すなら、あの言葉しか浮かばない。

 当てはまるのは、その言葉しかないからだ。

 出会い方はさておき、あの日以来、たくさん会話した。

 喫茶店で時を忘れて、他愛ない会話をした。

 それが積み重なって思うことは、一言。

 君のことをもっと知りたい。

 この一言に尽きる。

 ふと十田を見る。

 笑顔が素敵な、どこか抜けている女の子。

 でも何故だろう・・・。

 どこか儚げな雰囲気が拭えない。

 ちゃんと見ていないと、どこかへ行ってしまうのではないか。

 不安になる。

 唯一、怖い思いは、伝えてしまった後のこと。

 この関係が壊れてしまわないか。

 ただそれだけ。

 パラソルから出る気になれなくなった。

 隣にいたら、この心臓の鼓動が聞こえてしまうと思うと、とても恥ずかしい。

 だから、遠くから見守る。

 たまには、な。

 また後で、他愛ない会話をしよう。

 海ではしゃぐ3人を俺は静かに見守っていた。

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