第6話 実は…

 ~十田とだなごみ side~


 失敗してしまった、自己紹介。


「西中からきました、十田和です。よろしくお願いします」


 ここまでは良かった。

 クラスメイト達は出身中学と名前を言った後に、必ず一言二言付け加えていた。

 私は何もなかったので、このまま着席しようとした。

 すると先生に「何か一言」と言われてしまい、頭の中でパニックを起こして、そのまま倒れてしまった。

 気がつくと保健室。


「あら、目が覚めた?」


 養護教諭の竹西たけにし沙代さよ先生がいた。


「すみませんでした、ご迷惑をおかけして」

「良いのよ。たまに居るから、自己紹介で倒れる子」


 そうなんだ、でもたまにって事は数年とか十数年に1人いるかいないかって事だよね?


「本当にごめんなさい」

「大丈夫よ、気にしないで」


 だんだん悲しくなってきて、とっさに動いた。

 内履きの靴を履き、ベッドから立つ。


「あら、戻るの?まだゆっくり…えっ!?」

「ありがとうございました!」


 保健室を後にして向かった先は屋上。

 辿り着くと、堪えていたいろんな感情が溢れ出し、涙となって吐き出した。

 暫く泣いていたので、平幡ひらはた君の事に気づかなかった。

 声をかけられて初めて、彼が屋上にいつの間にか居た事を知ったのだから。


 今思うと、申し訳ない。

 訳も分からず呼び止めて、でも自己紹介で倒れたなんて恥ずかしくて言えなかった。

 聞いて欲しかったのに。

 何故彼に言えなかったのかな?

 恥ずかしい、だけではない気がする。

 会った瞬間に、心が先に動いていたとしたら…。

 やっぱり、そうだよね。

 良かった、彼で。はち君で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る