第13話・二十三夜目の夜〈思い叶わず〉
「〈氷雹〉さま、あなたは、あな、あなたは一体、なにをしている、なに、なにを、したと思っているのですかぁ?」
言葉が往復する。
言語能力に支障が出る程に、旭日君夜は怒りに満ちていた。
「貴方が氷漬けにしているお方は、大事な大事な剣客様に他なりません、それ、そ、それなのにッ、なに、なにを、不敬な行いを、氷漬け、それは、構いません」
「後退、防御」
隠涼花は〈炎命炉刃金〉を握り締める旭日に警戒して、行動を宣言しながら移動する。
対して旭日君夜の口は塞がらない。
それによって、多数の針が彼女の体を貫くが……。
「あま、あまつさえっ、せ、接吻、くち、口づけをする、などと、その様な行い、下劣、愚劣、品の無い行いを、剣客さ、さまに、それは、粛清が、必要だと、そう、そう思いませんかぁ?」
頬に針が突き刺さる。
その一撃が一瞬だけ旭日君夜の邁進に小休止を挟ませた。
「攻撃。蛍雪」
その期を逃す事無く、隠涼花は刀を構え〈炎命炉刃金〉の能力を発揮。
米粒程の小さな毛の塊がふわふわと浮かびながらも旭日君夜の方へと向かう。
旭日君夜は、頬の針を引き抜きながら……微笑を咲かせていた。
その表情だけで、隠涼花は戦慄する。
――――来る。
そう思った直後、旭日君夜の黒色の刀身が鈍色の光を放つ。
「花弁の如く、火花を
その言葉と共に、旭日君夜の〈炎命炉刃金〉から黒い粉が舞い上がる。
「(不味い―――)防御、
「
周囲に散る黒い粉が赤い色が帯びると同時。
試刀寺家の屋敷は。
けたたましい音と共に建物の一部が爆破した。
破壊される建物。
敵味方構わず放たれる爆破の轟。
「まだ、ま、まだ生きて、生きているのでしょう?ねぇ、〈氷雹〉さまぁ。この、この程度の攻撃で怯む程に……弱くない、筈ですよねぇ?この程度で、わ、剣客さまをぉ、奪おうだなんて、考えてません、よねぇ?」
建物の瓦礫からは、辛うじてその攻撃を〈蛍雪〉で防御した隠涼花の姿がある。
だが、氷を破壊し、その塊が逆に自らの体を傷つけていた為に、体は既に死に体であった。
妖艶な顔を泥だらけにしながら、隠涼花は這いずりながら、突き進む。
「ふく、ろう……」
彼女が向かう先には、伏間昼隠居が横たわっている。
彼の体は無傷に等しい。それもこれも、自らの防御よりも彼の防御の方が大事だと、操作性を伏間昼隠居の氷に集中させた為だった。
爆破による直前に能力を解除する事で、氷を水に変えて衝撃を抑えた。
本来能力を解けば、その能力は消えるのだが。
大気中から集めた水分を氷にしていた為に、能力を解除すれば氷はただの水になる他ない。
それによって衝撃を緩和した為に、伏間昼隠居は無傷で済んでいた。
「ふくろう、ふ、くろう」
這いずり、横たわる伏間昼隠居に近づく隠涼花。
伏間昼隠居との心中を果たしたい。
体が動ける今、その願いを叶える事が出来るのはほんの一瞬だった。
隠涼花はこのまま、傷が原因で気絶し、そして息絶えるのだろう。
そうなる前に、早々に伏間昼隠居に覆い被さり、懐に入れた刃物で首を切って共に彼岸へ行く。
その計画はしかし、叶う事は出来ず。
「貴方如きが、剣客さまに、触れる事が出来る権利があると、思ってますかぁ?」
伏間昼隠居に伸びた手が踏み躙られる。
あと少しで、届く筈なのに………。
「(いや……わ、たしは、ふくろうと、この世を……)」
彼女の願いは叶う事無く。
背後から振り翳された粛清の刃が、彼女の心臓を背中から突き刺した。
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