第14話・二十三夜目の夜〈瀕死に瀕す〉


隠涼花の死亡に囀る声があった。


「きゃはは、死にましたわ。隠様が、罪深い人でしたのね」


瓦礫の後から顔を出す、桜色の髪を靡かせる女性。

頬を緩まして涎を垂らし、目をとろんとさせいる表情は、絶頂や薬を使っての覚醒の様な卑下た表情に似ていた。


「何が罪深いだこのアマがよォ!(アイツが普通に喋れるって事は能力が解除されてる、叩くなら今だな)」


叫びながらも、内心は冷静に錆月季咲良は攻撃用意を行う。


「あら、言葉遣いが汚いですわ。もっとお上品に、言葉の前におを付ければ、少しは品良く見えるのではなくて?」


「あ?ならお望み通り付けてやんよ。お前さまをおぶっ殺して差し上げますわおこの野郎ッ!」


彼女の言う通りに言葉の前におを付けて喋る錆月季咲良。


「まあ下品なこと、きゃひっ」


「テメェの笑い声に比べたらどおって事ねぇだろォがよォ!!」


針生呱々の聞けば耳にこびり付く、彼女の笑い声は粘性に似ていた。

いざ、戦闘準備が出来た所で、上空に紫色の煙が舞う。

暗闇の中でも、辛うじて可視出来るくらいの煙だが、針生呱々はそれを目視する事が出来た。


「申し訳ありませんが、既に要件は済みましたので、これにて失礼致しますわ」


ピンクのドレスのスカートの端をつまんで軽くお辞儀をする針生呱々。

彼女の仕草に錆月季咲良は癪に障るから声を荒げて威嚇する。


「あぁ!?なんだァ!用てのはよぉ!!」


「さあ、それを答える義理なんてあるのでしょうか?」


尤もな言葉であった。

ならば戦闘しか考える能が無い錆月季咲良は自らの〈炎命炉刃金〉を構えて能力を発動しようとする。


「上等だァ!無理矢理吐かせてやらァ!!集えや―――」


「あら、だから、もう用は済みましたの。戦う気はありませんわ」



そう言うと、錆月季咲良に向けて針生呱々は投げキッスを行うと共にその場を離脱する。

脱兎の如く逃走に対して錆月季咲良は不完全燃焼の様な物足りなさを感じて叫ぶ。


「あぁ!?待てやゴラァ!おいッ戻って来いテメェエエエ!!」


叫び、針生呱々の後を付けようとしたが。


「錆月さま、今はそれどころではありません、こちらへ、そう、剣客さまを安全な所へ運ぶのです」


旭日君夜が針生呱々の追跡を無理矢理拒ませた。


「そんな奴どうでもいいだろうがッ!あたしはアイツを追うッ」


「ダメです。剣客さまの命が最優先、さあ、錆月さま、運びますよ」


「ぐ、うぅぅぅぅうぅぅぅうううぅううぅぅううぅぅ」


旭日君夜が其処まで言うのならば。

錆月季咲良は追跡を止めて、伏間昼隠居の移動に付き合う他無かった。


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