第7話・二十二夜目の昼〈謀反ですよ謀反〉
その後、なんと二日に渡って本拠地へと帰省する二人。
伏間昼隠居は試刀寺璃瑠華の護衛で神経を外囲に張っていた為に、試刀寺家の敷地内に入ると共に糸が切れた人形の様に項垂れた。
複数の斬人衆が伏間と試刀寺に近づき、まずは暖かなお絞りを渡してくる。
女中が試刀寺璃瑠華の体を拭き、伏間昼隠居は受け取るとまずは顔を拭いた。
じんわりと、乾いた肌に沁みる潤い。
顔と首筋を拭いて開くと、茶色い汚れと垢が張り付いていた。
早々に風呂に入って休みたいと、伏間昼隠居は今後の癒しに思いを膨らませた最中。
「やあ姉さん、お疲れ様、それと義兄さん」
玄関口から出て来る、白い学生用制服と駱駝色のコートを着込んだ、灰色の髪を持つ男がやって来た。
伏間は、その発言に眉を顰めて、声を洩らす。
「反応に困る。突っ込めば良いのか?それとも頷けば良いのか?珀瑯」
と。名を呼ぶ。
珀瑯。正式な名前は試刀寺珀瑯。
試刀寺家の養子であり、現十剣騎衆の第一席に属する男。
そして、試刀寺璃瑠華の法律上の姉弟である。
「あぁ、ごめんね」
猫の様な顔を曇らせて、自分の台詞に誤解があったと窘めた。
そして、珀瑯は間違いを訂正する為に、彼に聞いた。
「じゃあ、お義兄ちゃんと兄貴、どっちが良い?」
「呼び方の事を言ってるワケじゃないんだ」
呼び方の問題ではない。
言い分の問題でしかなかった。
「もしかして……義兄様呼び?……業が深いね」
「俺はお前と会話がしたいよ、珀瑯」
噛み合わない台詞を嘆きながら、伏間昼隠居はお絞りを斬人衆に渡す。
其処で伏間昼隠居は、異様な感覚に苛まれた。
「はい珀瑯、これ依頼書ー、斬人衆に適当に受けさせて」
「あ、姉さん、そういえば」
その感覚。
何時もは庭辺りで屯をする斬人衆が、何時もよりも少ない、と言う違和感。
日毎に人の増減はあるだろうが、しかし、約十人が三人に変われば、森から林に変わる位に違うだろう。
「ん。あ、あと、病院勤務してくれそうな斬人も決めといて」
淡々と会話を進める最中。
「十剣騎衆第二席・一刀谷の爺さまが謀反を起こしてるんだけど」
爆弾発言を伏間は逃す事が出来なかった。
「……え?謀反」
聞き間違い、なのだろうか。
彼らの焦りも焦燥も見られぬ爽やかな表情から想像出来ない言葉だった。
「あぁ、義了が謀反?そっかそっか」
やはり聞き間違えでは無かった。
謀反、試刀寺家に刃を向けた。
それなのに、余裕を貫いている。
「じゃあごはんにしよっか」
「順序可笑しく無いですか?」
お腹を押さえてふざけたセリフを口にする試刀寺に伏間は言う。
「そう言うと思って用意したよ」
さも当然かの様に、食事の準備は出来ていると珀瑯は告げた。
「可笑しいのは俺なのか?」
伏間はこの価値観の違う姉弟に頭を悩ませつつあった。
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