第6話・二十夜目の朝〈定例会議〉
報告会は人数が少ない為か、スムーズに行われた。
まず、病院側が周辺の怪異を捜索、発見した現状対処不可能な怪異の情報を依頼として試刀寺家に報告。
それを了承して、試刀寺璃瑠華が配下(十剣騎衆・末席衆・斬人衆)に期限を設け討伐を行わせる。
その見返りとして、病院は負傷した斬人の無償治療、食料を提供している。
「斬人衆が十名程死亡、末席衆が三名、総員数が二百三十四名。また、負傷者が多いんで、近日中に其方に居る回復術師を派遣して下されば嬉しいでーす」
面倒臭そうに、予め用意しておいた資料に目を通しながら、試刀寺璃瑠華は欠伸をしそうな気だるさでほうこくする。
まるで食事終わりの午後の授業、教科書の朗読を仕方なく行っている様に見えた。
「了解しました。では一名。術師を其方に派遣致します。此方からは、食料が用意出来ましたので、受け渡しを行いますね」
「え、早いんですね、随分と。まあ、今は私とふくろうだけなんで、一度戻ってから受取人を寄越しますんで」
会話はトントン拍子で進んでいく。
一時間もしない内に、報告は終了するだろう。
「後は、最近出没する怪異が多くなって来ましたので、怪異の情報を明記した依頼書を八件作成しましたので、斬人衆の皆さまにお届けをお願いします」
「はいはーい……じゃあ、要件はこれくらいで」
「そうですね、あるとすればそのくらいでしょうか」
「後は、これはお願いなのですが、宜しいでしょうか?」
「お願い?珍しいね、なになに?」
報告が終了して気が抜けた試刀寺は懐から飴を取り出して口に放る。
「総合病院、我々の拠点の強化を行おうと思っています。なので、その補填を斬人衆にお願いしようと思いまして……いえ、些細な願いです。一人だけで十分です」
懇切丁寧に、自らの願望を口にする。
「貴方の懐刀でも」
瞬間、場が凍った。
常坂黄泉は相変わらず笑みを張り付け。
試刀寺璃瑠華は飴を口から取り外し、
伏間昼隠居は一瞬呆けていた。
「…………(え、俺?)」
数秒遅れて内容を理解する。
そして我が耳を疑った。
それが間違いで無ければ―――。
「………なに?常坂せんせー。私らと戦争でもしたいの?」
気に入らぬ、気に入らぬ。
その様な気性の粗さが目に見えた。
誰もが分かる殺意の放出。
伏間昼隠居は、並々ならぬ彼女の気にたじろいだ。
「え、ちょ(戦争って、何も其処まで)」
何故か弁解をしようとする伏間。
くすり、と声が聞こえて来て、顔を向ければ常坂黄泉が口を開き白い歯を浮かべながら笑っていた。
「少し冗長が過ぎましたね」
場を和ませる為に行ったと言いたげに。
その声色や表情を見れば、……いや、分かり難い。
冗談が本心であるなど、理解出来るはずがない。
彼女の表情は、不気味な程に笑みを張り付けているのだから。
「ジョーダン?……そっか、まあ、斬人衆なら、近いうち、一人か二人、病院勤務にする様にしとくケド……」
椅子から立ち上がると共に。
すぐそばにいた伏間昼隠居の横腹に抱き着く。
そして、見せつける様に視線を常坂に向けて。
「ふくろうはダメ。私の懐刀だから。誰にも渡したりしないから、だって私のものだもん」
所有物は既に試刀寺璃瑠華として上書きしている。
故に、伏間昼隠居の所在は試刀寺璃瑠華のものである。
それを否定する様な事を言う愚か者は、この部屋の中には居なかった。
「えぇ、仲が宜しい事で、羨ましい限りです」
「じゃ、定例会議これで終わりって事で、かえろーかえろー、ね、ふくろう」
「あ、あぁ。それじゃあ、失礼します」
伏間昼隠居は頭を下げる。
彼の腕を掴んで、ぐいぐいと引っ張る試刀寺璃瑠華。
その二人の姿を微笑みながら見送る、常坂黄泉。
「はい、お疲れ様でした」
手を振って、テーブルの上に置いたコーヒーを飲む。
長時間、さりて、三十分ほど。
それでも、熱は冷めて温くなっていた。
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