第5話・二十夜目の朝〈寝ぼけた朝〉


なんとか服を整えて、常坂黄泉が待つミーティングルームへと急ぐ伏間昼隠居。

しかし、眠気が覚めない試刀寺璃瑠華は呆けた様子で千鳥足で歩く。


「ねむーい……今日はもう良いんじゃない?帰らない、ねぇ、ふくろうさぁ」


「何寝ぼけた事言ってるんですか、ダメですよ、常坂先生との話があるんですから」


彼女が病院に来たのは頭目同士での会話があるからだ。


「代わりに聞いててよ、それくらい代理でも大丈夫でしょ?」


「駄目ですよ、何の為に俺とお嬢が一緒に来たと思ってるんですか」


大人数で来なかったのは、ひとえに人員を割かない為の手段だ。

試刀寺家と総合病院は徒歩で歩けば半日は掛かる。

更に、怪異が存在する土地を歩くとなれば、細心の注意を払ってしまう為に最悪一日以上掛かってしまう。

迅速に動くのならば、二人が最適だった。


「……観光?」


「このご時勢にそんな台詞を吐ける事に驚きなんですけど……」


寝惚けたセリフだった。


「いいから、ほら、行きますよ」


「はいはーい……あ、ふくろう」


「なんですか?」


「おんぶ」


両手を開いて背中に乗ろうとする試刀寺。

それは大きな子供としか見れなかった。

それ程に、彼に良く甘えている。


「歩いて下さいよ、子供じゃないんですから」


流石に、おんぶしている所を他の人間に見られる事を嫌い、拒む。

あくまでも、試刀寺璃瑠華は試刀寺家の当主。

そんな情けない姿を見せる事は、当主として失格に他ならない。


なんとか時間通りにミーティングルームへ到着する二人。

白色をモチーフとした病院と同じ様に、ミーティングルームも質素なものだった。

白で統一されは広い部屋は、大き目なテーブルに左右に八個ずつ椅子が並んでいる。

ホワイトボードが掲げられた位置に、白い電気ポッドと白いマグカップ、そして唯一の異色であるインスタントコーヒーの黒色が置かれていた。

部屋に入ると、試刀寺璃瑠華は中に居る人間に挨拶をする。


「どもどもでーす。常坂せんせー」


声に反応して常坂黄泉が振り向いた。


茶色のベストに赤のネクタイ。その上には清潔感漂う白衣を着込んでいて、死んだ死体の様に蒼白な肌には、不気味の谷を連想させる人形の様な美しい美貌が張り付いていた。

それが常坂黄泉だった。


相変わらず愛飲のコーヒーを飲んでいて、人形の様な笑みを浮かべている。


「こんにちは、試刀寺さん。定期報告ご苦労様です、現状の成果などをお聞かせ願いますか?」


席に座る試刀寺璃瑠華と、常坂黄泉の会話が始まった。


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