第4話・二十夜目の朝〈朝ですよ〉
明朝の時。
伏間昼隠居は試刀寺璃瑠華が眠る病室の前で待機していた。
この場合の待機とは、部屋の前で休息や睡眠を摂ると言う事である。
睡眠時間は約五時間程。元々、伏間昼隠居はロングスリーパーであったが、試刀寺璃瑠華の懐刀となってから、彼の睡眠時間は減っていき、短時間の休息でも活動出来る様に意識を切り替えていた。
「……お嬢、朝ですよ」
伏間昼隠居はそう言って戸を叩く。
一度めは優しく、だが、伏間昼隠居はそれで試刀寺璃瑠華が眠りから目覚める筈が無い事を知っているから、二度目は強く戸を叩き声を荒げる。
「お嬢ッ!朝ッ!朝ぁ!あぁああああッ!!」
半ば狂乱している風に叫ぶ、その声で目覚めるのは隣に眠る術師だった。
扉を開いて睥睨されて伏間昼隠居はびくりと驚いて、申し訳ないと言う気持ちで頭を下げる。
「………もう、仕方ないな」
伏間昼隠居は扉を開いて部屋の中に入る。
三度目は病室に入り、直に彼女を起こす他無かった。
「お嬢、朝ですよ……っとと」
伏間昼隠居は目を細めた。
病室。白いベッドの上に眠る試刀寺璃瑠華の恰好は何とも破廉恥で。
桜色のパンツ一枚、上にはボタンが開けっ放しのワイシャツのみ。
あとは、ブラジャーが床に転がって、スカートも無造作に脱ぎ捨てられていた。
「あーあー……恥じらいとか無いのかな」
伏間昼隠居は溜息を吐きながら衣類を持って一か所に集める。
彼女の露出の多い恰好のまま起こすと、動きによって乳房が見えてしまいそうだったから、起こす前に胸元のボタンでも閉めようと手を伸ばす。
「ん、うぅう……」
ボタンに手を掛けた時。
試刀寺璃瑠華が目を覚ました。
重たい瞼を開いて、琥珀色の瞳が伏間昼隠居を覗いている。
そして、伏間昼隠居の顔と、自らの胸元に伸びる手を交互に見て。
「………え?なに、夜這い?」
そう呟いた。
「……もう朝なんで、夜這いじゃないです」
「あぁ……そう。なら……襲ってる?」
「襲ってないです」
伏間昼隠居は彼女に性的な興味など抱いていない風を装い。
自分が当初行おうとしていた事、彼女の胸元のボタンを締めると言う行為を実行する。
ぐぃ、っと。ボタンを引っ張ると。
「んあ」
色っぽい声が出て来て、試刀寺璃瑠華が体を起こす。
「……あのさ、知らないだろうけど」
「………はい」
「敏感だから、胸の、ここの、所」
両手で胸元を抑える試刀寺璃瑠華。
流石に顔を赤らめて、伏間昼隠居を睨む彼女。
頭を項垂れて、流石に出過ぎた真似だったと、伏間昼隠居は頭を下げる。
「えっち」
「すいませんでした」
そう言いながらも。
「(色っぽい声、出るんだな)」
と、何気にそんな事を考えていた。
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