最終話・九十七夜目の夜
――――灰髪がこの辺りに居るらしいよ。
――――なんでも、怪異を一人で倒しているらしい。
――――そうだっけ?
――――怪異を二人で倒しているんだよ。
――――二人?一人じゃないの?
――――式神、女性の姿だから、そう見えるだけだよ。
――――今度は、百面相の鬼を倒したらしい。
――――その前は怪異に支配された人間を解放したらしいよ。
――――あの、人間を怪異にする怪異も倒したの?
――――聞く所によると、百夜目に、倒しに行くらしい。
――――九十九百足一。アイツと、どっちが強いかな。
――――決まってるじゃんか。あんな奴よりも灰髪の方が強いよ。
――――あっ……ねえ、今の。
――――うん、灰髪だ。本当に居たんだ。
――――けど髪、全部が灰色ってワケじゃないんだね。
――――灰色とチョコみたいな髪の色だったね。
――――肌の色も若干違ったケド、なんだろうね……。
――――少し、女っぽい?
――――………いやぁ、それは無いんじゃないかなぁ?
―――
――
。
―――空を見上げる。
今日も一日、怪異を倒して回った。
俺の肉体は不眠不休で動く事が出来るから、日夜関係無く動き回れた。
これも、煤木がくれた術理のおかげだ。
増殖術理による細胞の無限増殖。
それによって、俺の体は休みを必要としなくなった。
「……はぁ」
地面に座って俺は空を眺めた。
此処は、安全地帯のひとつ。
多くの術師、有志たちによって作られた人が安心出来る場所だ。
怪異が出る事は少ないが、油断していれば、外部から怪異が現れて来る可能性もある。
今は、その怪異を潰す事が俺の役目だ。
「……少し、休むか」
俺の肉体に疲労は存在しない。
それでも気苦労はある。
精神的に疲弊する事もあるし、心が擦り減る事もある。
戦い続ければ、自分が人間ではなく修羅であると錯覚してしまう。
けれど、その度に、俺は空を眺めた。
其処には、彼女が居る。
「煤木」
遥か上には、月があった。
月を見ると、彼女の姿を思い出す。
触れあった感触、確かめ合った熱を、月と共に再現する事が出来る。
「煤木、俺は」
俺は……今でも、お前が居なくなった穴が、痛んでいる。
恐らく、この感情は俺が死んでも消える事は無いだろう。
けど、それで良かったのだと思う。
この痛みは、お前がくれたものだから。
俺はこの痛みを一生背負って、生きていくよ。
「さて……もう少しだけ、頑張るかな」
俺は月から目を離す。
薄暗い道は、それでも、月明かりによって照らされていた。
仄かな光と共に、俺は歩き続ける――――。
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