ループ??周目

開幕前

………ふと。唐突に。

私は、思い出す。

目を開く。

白い天井が目の前にあった。


「―――ふしま、くん」


私は、体を起こします。

つい声が漏れてしまいます。

昨日の時なら、私は声も出せず、感情すら表に出せなかったのに。

……今日は、二十日め。

先程思い出した記憶は、四十四日めまでの記憶がある。


其処には、伏間くんと過ごした記憶も。


「あぁ……私」


私は、戻って来た、らしい。

自分は死んだ。伏間くんを生き返らすために、死んだ筈だった。

けど、どうしてか、時間が戻って、生き返っている。


「……伏間くん、は、何処、に」


何処に、居るのだろう。

私は、お気に入りの制服に着替えて、病室から出ていきます。

暫く歩いて、常坂先生の元へと駆け寄って。


「おはようございます。煤木さん」


常坂先生は、ロビーでコーヒーを飲んでいました。


「おはようございます。常坂先生」


私は、先生に挨拶を返します。

珈琲を飲んでいた先生は、そのカップを傾けるのを止めて、にこやかな笑みを浮かべたまま、私の方を見てきます。


「……?あの」


「いえ、失礼。煤木さん。貴方は喋れるのですね」


そう言われて、私はあっと頬に触れる。

昨日までの私は、筆談で喋っていたのに。

今、急に喋り出してしまえば、驚かれるのも無理はありませんでした。


「表情も柔らかくなってますね。トラウマは解消されたのでしょうか?」


首を傾げて、常坂先生は聞いてきます。


「えぇと……はい、私は、大丈夫、です」


頷くと、常坂先生は時計を確認します。


「……もうすぐ、遠征に出かけた人が戻ってきますね。そろそろ、準備をお願いします」


準備……それは、治療の用意、と言う意味。

この病院じゃあ、それが私の役目。


「はい、わかりました」


そう言って、私は地下駐車場へと向かいます。

其処は、人が賑わっていて、既に遠征から戻って来た人が治療を受けていました。


「あの、こちらにどうぞ」


「あれェ?仄ちゃん、なんだか今日は違うね、と言うか、喋れたの?」


医療関係のおばさんが、私にそう聞いてくる。

私は頷いて、喋れる様になる事を告げる。


「いいね、そっちの方が、声、可愛いよ」


そうおばさんは私を褒めてくれました。

私は笑みを浮かべて、怪我人の治療にあたります。


「待ってくれお嬢」


「知らない、一人でそうしてれば?」


「……はぁ」


「なに、その溜息」


「……なんでもないよ」


……ふと、その聞き覚えのある声に、私は振り向きます。

その後ろ姿を見て、一目で分かりました。


「伏―――」


そう叫ぼうとして、私は、伏間くんの隣に居る女性を見つけます。

仲良く喋っている伏間くんと、女性の人。

それを見て、私は、胸がキュっと苦しくなりました。


「あっ……」


時間が戻った。

けれど、どうやら、伏間くんは、私との事を覚えてない様子で。

振り向いた彼は、私の顔を見ると、他人の様なそんな顔でジロジロと見てきます。


「……今、名前呼びました?」


他人行儀でそう言って来る伏間くん。

……私は、記憶が戻っているけど。

伏間くんは、その記憶を覚えていない。

その事実に、私は悲しくも……ほっとしました。


「……いいえ、なんでも」


伏間くんは。

私よりも大切な人が出来たのでしょう。

それは、嬉しい事です。

もしも、また。伏間くんが私の元にくれば……また傷つけてしまうかもしれない。

伏間くんの、苦しむ姿は見たくなかったから。

だから、私は安堵しました。


「なんでも、ありません」


私は幸せ者です。

伏間くんが、私の為に生きてくれた記憶がある。

これ以上、伏間くんが苦しい思いをしない世界がある。

それだけで、私は十分。


「……ありがとう」


訝し気な顔をして、再び私に背を向ける伏間くんに、そう告げます。

ありがとう、伏間くん。私の、大切な人。

どうか、お幸せに……私は、貴方を愛してます。


あなたの居ない場所で、私はあなたを想います。

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