第13話・二十八夜目の昼〈苛立ち〉




俺はさっさと桐子さんを見つけて外に出ようと思っていた。

正直、今の桐子さんは様子がおかしい、日頃の疲れが出ているのか、この状態の桐子さんと一緒に活動するのは如何なものかと思っている。


なら俺一人だけで外に出れば良いのだが、それじゃあダメだ。

俺は桐子さんに教わっている。それは術理の使い方以外にも、桐子さんは俺に生きる意味を教えてくれようとしている。

俺は、桐子さんに生きる意味を教わる為に一緒に活動していた。

今の俺は一人じゃ何も出来ないだから桐子さんが傍に居てくれないとならないのだ。


「桐子さん、何処行ったんだよ……」


俺が此処で目が覚めて、まだ桐子さんの姿を見ていない。

基本的に二人一組ツーマンセルで活動しているのだから、桐子さんが病院に居ない筈がない。


「ねぇ、昼隠居」


……背後からトコトコと付いてくるのは妃莉音だ。

この女、何故か俺に懐いている。それも、口ぶりからして俺の事を良く知っている様子だ。

気に食わない。何が気に食わないって、俺はあの女の事を知らないのに、あの女は俺の事を知った風で語り掛けてくるからだ。

正直言って気持ち悪い。顔が良いからって、人の周囲をウロチョロしないでもらいたいものだ。


「昼隠居、昼隠居」


俺に語り掛けて来る莉音。

俺は溜息を吐くと同時に後ろを振り向く。


「なんだよ」


面倒臭そうな表情を浮かべて俺は応答する事にした。

ここまで愛想を悪くすれば、この女も俺の傍から離れるだろう。

そう思って俺は莉音の方に顔を向けると。


「うぎゃぁッ!?」


俺はつい声を荒げていた。

莉音……なのだろうか、何故かこの女は、古代遺物にありそうな部落の仮面を被っていた。

いや、普通なら驚かないけど、現状、怪異という怪物が出現している。

後ろを振り向けば、怪異だと思ってしまっても不思議じゃなかった。


「あは、あははッ。昼隠居、変な声ぇ」


そう笑いながら仮面を外す莉音。

俺は心臓を抑えながら深く息を吐く。

……このクソ女。ぶん殴ってやろうか。


「やっと、こっち向いてくれた」


そう言って笑みを浮かべる莉音。


「ふざけんなよ……マジで」


凄みながら言ってみせる。


「………前なら笑ってくれたのに」


悲しそうな表情をしながら、莉音はワケの分からない事を言って来る。


「俺はお前の戯言に付き合ってる暇はないんだよ」


それだけ言って、俺は完全にに莉音を無視しようとしたが。


「……ねぇ、覚えてないの?」


……そう、莉音が俺に語り掛けて来る。

一体、何を覚えてないと言うのだろうか。


「何をだよ」


そう言って俺は莉音から何か聞こうとして。


「――――こんな所に居ましたか」


そんな丁寧な口調が聞こえてくる。

その声は、桐子さんとはまた違う、別の声だった。

俺は前の方を振り向く。

其処には灰色の髪を伸ばした、白衣とスーツを着込んだ女性の姿があった。

機械で作った様な笑みを浮かべて……その人は確か。

常坂ときさか黄泉よみ

と言う名前だった筈。

俺に、何か用なのだろうか。

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