第10話・二十八夜目の朝〈聞き間違え〉

毒の様な色をした髪。

腰元まで伸びたツインテール。

正気を保って無さそうな表情で、その女はゆっくりと桐子さんの方を歩いていく。


「……おい、何をッ」


俺はその女に声を掛けようとして、体が急に力が抜けていく。

膝を突いて俺は口の中から嘔吐物が溢れ出していく。


「げ、はがッ……あー……」


蝙蝠の怪異。

その影響が肉体に出てきてしまった様子だ。

俺は気分が悪くて、その場に倒れてしまう。


「フクロウッ!」


そう叫ぶのは桐子さんだった。

その声に反応して、女は振り向くと、光を失った瞳は正気を取り戻して、早々と俺の元に駆け寄る。


「昼隠居ッ!大丈夫、ねぇ、昼隠居ッ!!」


体を揺さぶるツインテ女。

止めろよ、気分が悪くなるだろうが……。

そう思っても、女が止める様子は無かった。


やめろ、可哀そうだとは思わないのか。

そう呟こうとして。


「や……かわ、ぃい、そう、思っう」


「え?」


そこで俺は意識を失う。

……なんだろう、必死になって可哀そうだと思わないのか。

そう言ったつもりなんだが。

あの言い方だとまるで………。


『可愛いな、そう思う』


なんて、相手を褒める様な言い方になった様な気がするんだが。

違うよな?ちゃんと相手に伝わったよな?


――――――


「か、可愛い、なんて」


何を言ってるのだろうかこの男は。

自分が死にそうになっていると言うのに、急にそんな事を言って……。


「馬鹿、ばーか……もう」


あぁ、もう。

でもなんだろう、悪い気はしない。


「フクロウッ!」


そう呆けていた時に、銀髪の女が昼隠居の体を支える。


「大丈夫ですか、フクロウッ!………良かった、気絶しているだけ、みたいですね」


安心する様に女がそう言った。

改めて、だけど、その特徴は昼隠居が言っていた銀杖桐子、と言う女性だったか。

確か、私と出会う前は二人で鍛錬と術理の修行をしていたらしいけど。


「………ねぇ、昼隠居、治療しないと」


聞くに恋愛感情などは無かった。

つまりは、この女は恋敵になる事は無い、と言う事だ。

私は安心して、銀杖……さんの元に向かって昼隠居の体に手を添える。


「そうですね、何方か存じませんが、彼を救っていただき、ありがとうございます」


「いいえ、当たり前ですもの、私と彼―――」


恋人だから、そう言おうとした時。

本屋の中から声が響き出す。


「あ、あのォ!だ、大丈夫ですかぁ!?」


その声に私たちは振り向いた。

どうやら、本屋に生存者が居たらしい。

中年のオジサンが私たちの方を見ていた。


「……せっかくですので、拠点に戻りましょう」


「拠点……あぁ、総合病院」


儀式都市には、生存者が集う場所がある。

体育館やデパートなど、人が大勢集まって集団で暮らしている。

総合病院は、その生存者の拠点の一つでもあった。






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