第9話・二十八夜目の朝〈少女邂逅〉


結局。昼隠居に出会うまで、三週間も費やしてしまった。

彼が身の上話で語ってくれた、師匠である銀杖桐子と言う人と共に、ホテルを中心に活動していると。


そのホテルが何処にあるのか、交通機関が死んでいる今、私の術理で移動を考えたが、怪異に出会って戦う事を考える消耗は避けなければならなかった。

だから歩いたり、時には自転車を拾って探したりして、ようやくそれらしい人物を発見した。


伏間昼隠居。私の罪を許容してくれた人。その人が今、蝙蝠モドキに殺されようとしていた。

けど、大丈夫。今度は間違えない。絶対に、間に合わせて見せるから。


(軌条きじょう術理じゅつり)


元々、術師としての才能があった私が発現させたのは軌条術理と呼ばれる軌跡を操る術理だ。

具体的に言うのであれば、予め軌跡を空間に敷き、その軌跡に触れると超高速で軌跡をなぞる。

例えるのならば、電車のレール。それが空間に敷かれていて、物体・物質をレールの上に走らせる能力。


(〈亘舟わたりぶね―――いん〉)


空間に軌跡を敷く。私の近くに来る様に、本屋へと軌跡を築き上げて彼の体に接触させる。

軌跡を作る場合、私は一秒程の時間を費やした。それがあの時の昼隠居の体を引き寄せるのに間に合わなかった。

だからこの三週間、何もしなかったワケじゃない。

術理の構築や解釈を行い、自らの能力発動時間の短縮に成功させた。

約零.五秒。

あの日、捕える事の出来なかった彼の全てを、この一瞬を以て捉える。

そして蝙蝠モドキが彼に接近するよりも早く、彼の体は軌跡に乗って超高速で私の近くに転がってくる。

あぁ……今度は。今度こそ、は。


「ねぇ、昼隠居」


私の顔を不思議そうに見つめている昼隠居の顔。

まるで初対面の時の再現みたい。

その時は、私が地面に転がって泣いてたけど。

今は、私が彼の位置に居る。


「今度は、間に合ったから」


そう、私は昼隠居に言った。

彼は私の顔を見て『莉音……お前、そうか、お前、生きていたのか、あぁ、良かった。ずっと、ずっと探してたんだ。……良かった、本当に……』

なんて、涙を流して言うかも知れない。

彼は案外涙脆いから、そんなときは、彼の体を抱き締めて……今度こそ、彼と幸せになる為に生き――――。


「誰だお前、これ、お前の術理か?」


………は?

……………。

…………は?

昼隠居、ふく、ろう?今、なんて言ったの?

私の事、誰って言ったの?


「信じられない……私の事、覚えてないの?」


私は聞く。

だって、私は記憶を維持したまま過去に戻った。

なら、昼隠居も私の事を覚えて過去に戻って無いと可笑しいでしょ。


「いや……知らねぇけど、まあ助けてくれたって言う事は、敵意は無いんだな」


…………なにそれ?

敵意が無い?ある筈が無い、だって、私は……貴方を想って……。


「ぴぎゅあぎゃぁあッ!!」


「クソッ、蝙蝠の怪異ッ!」


「フクロウッ!今攻撃をしますッ!屈んで下さいッ!」


……誰?あの女。

………あぁ、そっか。誑かされたのか、あの女に。

それは、許せないなぁ……。


(亘船・引)


私は本屋の看板に軌跡を作って、蝙蝠モドキの体を突き刺す様に軌跡を作る。

術理が発動されると、看板が高速で射出されて、蝙蝠モドキの体を貫いた。


これで、邪魔な怪異は消えた。

なら、後は一人だけ。

すぐに、終わらせてあげるから。

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