第8話・七夜の昼〈イジメの現場〉


次に私が目覚めた時。

それは百物語が開始されて一週間後。

世間は丁度百物語の影響で都市が不可視の膜によって封鎖されて混乱している時。

様々な異変や爆発事故、獣が出現して人を殺していたけど被害が最小限だった為に、命の危機を感じる人が少なかった時期。

そしてこの一週間目で、本格的に儀式都市としての怪異が出現する様になる。


「チョーシ乗ってんじゃねぇぞブスッ!」


……そして私はトイレの中で、上から放り込まれた水によって濡れていた。

私は顔が良いからと言う理由で女子生徒にイジメられていたのだ。

そうそう、こういう低俗なやり方でしか人間とコミュニケーションが取れない野蛮な人が居たのを久しぶりに思い出す。

ぎゃはは、と品の無い笑い声、煩わしいけど、何故私はこんな群れる事でしか生きる事の出来ないメス猿に怯えていたのだろう。

私はドアを蹴破って外に出る。

女子グループの一人がドアに圧されて転がってしまったが、どうでもいい。


「テメ、何してんだッ」


言葉遣いが荒い、これが男の前だと猫撫で声に変わると言うのだから驚きだ。

私の三つ編みを掴んで引っ張る女子生徒。名前はなんだっけか。忘れてしまった。

けれど、忘れてない。

私は彼に殺されて、絶望の淵に死に絶えた。

けれど、何故か私は過去に戻っていて、死んだ事実も、それどころか……彼女たちを殺した時間よりも前に戻っている。


つまりこれがどういう事か。

私は、もう彼女たちの幻影に恐れずとも良いと言う事。

あの罪悪感があったから、彼と幸せになる事を拒んでしまっていた。

けれど、もうそんな不幸を抱かなくても良い……なんて嬉しい事なんだろうか。


「ねえ、髪を引っ張るの、やめてくれない?」


私は嬉しくて、睨む事すらせず、つい笑みを浮かべてしまう。

それも恍惚な笑みで、頬を赤くしてそんな台詞を言ってしまえば、まるで変態の様に見えてしまうだろう。


「は、あ!?何コイッいだだッ」


私は彼女の手首を掴んで、軽く捻ってみた。

ボキリ、と音がして、手首を誤って折ってしまった様だ。


「いゃあがっひぃぃぃ、ひ、っいぃぃぃ!!」


痛い痛いと、泣き叫ぶ様は見ていて面白かった。

あんなに偉そうにしていたのに、自分に危害が加わると被害者ぶった表情をするんだから。

私が手首を負ったからか、女子グループは叫んでいる。


「先生呼んできてッ!ねえぇえ!ここまでする事無いじゃんかぁッ!」


そう私を責め立てるけど、あんたたちが私にしでかした事を累計すれば、たかが手首を折られるくらい、可愛いものでしょ。

まあ、別に、どうでもいい。前の私は我慢出来ずにあんたたちを殺したけど。

今の私には、彼が居る。

昼隠居。私の罪を知っていながらも、私と共に道を歩もうとしてくれた人。

大切な人。その人に会う為に……私は女子校から離れた。

そうそう、後三時間もしない内に、怪異が学校に攻めるけど……まあ、言う必要はないか。


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